国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

中国―南太平洋島嶼国関係の変化と「オセアニアン・チャイニーズ」像の表出(2019-2022)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 河合洋尚

研究プロジェクト一覧

目的・内容

1978年12月の改革開放政策以降、南太平洋島嶼国の華人は中国を訪問するようになり、逆に、21世紀に入ると中国から南太平洋島嶼国への新移民が急増した。そうした状況のもと、南太平洋島嶼国で生まれ育った華人は、大陸の中国人との言語・文化的な違いを実感し、「オセアニアン・チャイニーズ」としての自己像をするようになっている。本研究は、南太平洋島嶼国のなかでも華人人口が最も多いタヒチを中心とし、ヴァヌアツなどと比較しながら、華人が「オセアニアン・チャイニーズ」としての自己像を表出してきた過程を明らかにする。具体的には、混血を含む現地生まれの二世・三世に焦点を当て、彼らがオセアニア諸民族の一構成員としての立場を主張する現象に光を当てる。それにより南太平洋島嶼国における中国のインパクトを示すとともに、現地生まれの華人をめぐる現状分析とそのための視点・方法を提示することを目的とする。

活動内容

2020年度実施計画

令和2年度は、6月下旬の端午節と10月の「掛山」儀礼の時期に渡航し、イベントを観察するとともに、ライフヒストリーの収集、及び、物質文化面で表出されるオセアニアン・チャイニーズ意識の所在を調査するつもりであった。ただし、コロナウィルスの世界的拡散を受けて、6月下旬開催予定の端午節の調査を断念することにした。そのかわり、10月の「掛山」儀礼時に長めの渡航・滞在をし、調査を進めることを予定している。ただし、いずれにしてもコロナウィルスがいつ収束するかの目途が立っておらず、来年度は状況を見据えながら調査計画を練っていくことになる。なお、順調にタヒチでの調査が実現できるようであれば、その成果を学会誌に投稿する予定でいる。

2019年度活動報告

1978年12月に中国で改革開放政策が実施されて以降、中国と南太平洋島嶼国との交流が再開した。そうした状況のもと、南太平洋島嶼部で生まれ育った華人は、大陸の中国人との言語・文化的な違いを実感し、「オセアニアン・チャイニーズ」としての自己像を提示するようになっている。本研究は、混血を含む現地生まれの二世・三世に焦点を当て、南太平洋島嶼国で華人が「オセアニアン・チャイニーズ」としての自己像を表出してきた過程と現状を明らかにすることを目的とする。本研究が主要な研究対象とするのは、南太平洋島嶼国のうち華人人口が最も多いタヒチ、及びそこからの移住者が多いニューカレドニアである。両者はいずれもフランスの海外領土であり、華人のうち客家がマジョリティを占めるという共通点がある。またここ10年間中国からの新移民が急増しているバヌアツも比較の対象としている。本年度は、まず文献資料の収集に重点を当て、論文、著作の入手に務めた。そのなかで、ニューカレドニアとバヌアツの華人に関する研究は目下世界的に乏しく、特に21世紀以降の現状についてはほとんど蓄積がないことが改めて明らかになった。それに対し、タヒチの先行研究はフランス語の文献を含めると数多い。大半は日本で収集できたが、一部の資料はタヒチで1980年~90年代にフィールドワークをおこなった台湾の人類学者が所有していたため、5月に渡台した。また、1月にニューカレドニアとバヌアツで現地調査をおこない、華人(特に客家)の家族構成、ライフヒストリー、オセアニアン・チャイニーズ意識の所在に関するインタビューを実施した。研究の乏しいニューカレドニアおよびバヌアツの華僑華人をめぐる概況を知れたことは、南太平洋島嶼部の研究にとっても大変意義深い。