経済発展方法の可能性と限界――フィジーの開発モデル村落に関する文化人類学的研究(2008-2009)
目的・内容
本研究は、開発モデル村落の変容について文化人類学的に考察することを通じて、どのような経済開発の方法が優れていると理解されてきたのか、また、その現在における有効性について明らかにすることを目的としている。第三世界の開発という問題設定が生まれたのは、第二次世界大戦後の冷戦下を背景としていた。現在でも南北格差、貧困などと関係して開発は重要な研究主題となっている。なかでも、現地社会に混乱を持ち込まない開発、土着社会に根ざし現地の人々が主体的に参加できる開発とは何か、現地の人々が開発現象をいかに概念化しているのかという開発の意味論等々が文化人類学の研究対象になっている。申請者は、以上の先行研究を踏まえたうえで、開発を生活者の経験という次元で考察するために、生活水準の向上を目指して人びとみずからが興した自発的な村落開発事業を具体的なトピックにすることで研究を進めていく。
活動内容
2009年度活動報告
本年度は、昨年度の予備調査を踏まえて、フィジーの国立古文書館、南太平洋大学パシフィック・コレクションにての資料収集と研究対象であるダク村落において若干の調査をおこなった。フィジーの政情不安のため調査許可の取得に時間がとられたが、これまで知られていなかった歴史的資料をダク村落の関係者から入手して、その読解作業を進めることができた。
成果の公開については、日本文化人類学会、アジア経済研究所共同研究会「グローバル化における太平洋島嶼国家」、共同研究会「生の複雑性をめぐる人類学的研究――『第四世界』の新たな記述にむけて」、共同研究会「オセアニアにおける独立期以降の<紛争>に関する比較民族誌的研究」の場で研究発表を行った。これまでの研究を「第4世界」などの別の視角からとらえ直すことで、理論的に昇華する作業を行った。
学術論文は『季刊民族学』などのほか、図書として『オセアニア学』『グローバル化のオセアニア』に論文が掲載された。また、以上の成果と連動しつつ、本年度より国立民族学博物館にて共同研究会(「オセアニアにおける独立期以降の<紛争>に関する比較民族誌的研究」)を主宰することとなった。
それ以外の短い文章は、『月刊みんぱく』『毎日新聞』などの新聞雑誌と、『みんぱくe-news99』などの媒体に公表し、ひろく社会還元にも努めた。
なお、昨年度研究実績として記載した拙著『脱伝統としての開発』により、第9回オセアニア学会賞が授与された。上記以外の実績としては、英語論文を投稿中である。
2008年度活動報告
本年度は、フィジーの国立古文書館、南太平洋大学パシフィック・コレクションにての資料収集と研究対象であるダク村落において予備調査おこなった。資料収集に関しては、オーストラリア古文書館、聖マルコ図書館、オーストラリア国立大学図書館に所蔵が確認されているフィジー関係資料(ダク村落の1960年年代に関する資料)の調査も遂行した。これまで確認されていなかった歴史資料の発掘をすることができた。
成果の公開については、日本文化人類学会、国立民族学博物館研究懇親会、みんぱくゼミナール、共同研究会「脱植民地期オセアニアの多文化的公共圏の比較研究」の場で研究発表することで、本研究をより広い地域的、理論的視野から検討し直すことができた。
学術論文は『南方文化』『民俗文化研究』などに掲載され、これまでの業績の中間総括として単行著『脱伝統としての開発――フィジー・ラミ運動の歴史人類学』を刊行した。本研究課題の対象村落の論述も含まれており、この成果を踏まえて、共同研究会へと発展させていくことも予定している。
それ以外の短い文章は、『民博通信』『月刊みんぱく』『毎日新聞』などの新聞雑誌と、『世界史史料9 帝国主義と各地の抵抗II』『沖縄民俗辞典』などの書籍に公表し、ひろく社会還元にも努めた。
上記以外の実績としては、『季刊民族学』『オセアニア学』『朝倉世界地理』などに寄稿した原稿も、来年度には印刷される予定となっている。