国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

国家やグローバル経済に対するインド農民の自己表象のあり方(2009-2010)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|新学術領域研究(研究領域提案型) 代表者 中谷純江

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究の目的は、インドの農民および農村の問題について考察することにある。インド農村の特徴として、農業に従事する人々は多様であり、内部に大きな格差を含んでいる。にもかかわらず、ナショナリズムやネオ・ポピュリズムの政治や社会運動において、しばしば「村落共同体」として農民の利益が一枚岩的に表象されてきた。それによって貧困や剥奪など農村が抱える問題が逆に覆われてきた。一方、カーストを基盤とする政治的動員によって、農村部における「カーストの政治化」は促進され、強化されてきた。本研究は、農民がもつ種々の社会的ネットワークを分析し、農民自身が自らの問題をどのように理解し、国家やグローバル市場というマクロ社会に対し、どのように自己を表象するのかを考察する。

活動内容

◆2009年11月、鹿児島大学へ転出

2009年度活動報告

中心課題はインド農民のネットワークのあり方と彼ら自身が地域社会や国家に対して自己を表象する方法を明らかにすることである。このため、まず特定地域の農民たちがもつネットワークを明らかにする。次に、種々のネットワークの中から「カースト」がなぜ、どのように政治的カテゴリーとして構築されるのかを分析する。第3に、カースト・アイデンティティと階級意識の接合、交渉、対立のプロセスを記述する。これらを通して、農村の人々がカースト内の存在として国家やグローバル市場に対し、どのように関わっていこうとしているのかを考察する。具体的には、以下の3つの組織について、インド西部ラージャスターン地域と東部のベンガル地域で調査をおこなう。
(1)カースト内の問題を話し合う場、カースト・パンチャーヤト(カースト・ネットワーク)
(2)異カースト間の問題を扱う機構である地域社会の裁定機構
(3)カーストが利益集団としての機能する基盤になっているカースト団体(政治的ネットワーク)
研究代表者は、今年度12月頃に15日間、ラージャスターン地域農村部で(1)と(2)を中心に調査を行う。(3)については、カースト団体に関連する地方新聞の記事等をあつめる(本調査は来年度に予定)。研究協力者、森日出樹(松山東雲女子大学・准教授)が、ベンガル地域で同じテーマの調査を実施する。研究会で報告しあい、両地域を比較検討する。