国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

東アジアにおけるコリアン・ネットワークの人類学的研究(2009-2012)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|基盤研究(B) 代表者 朝倉敏夫

研究プロジェクト一覧

目的・内容

21世紀を迎え、民族の混交は幾多の問題をはらみながら、ますます進行している。なかでも、朝鮮半島から拡散したコリアンは、ホスト社会に適応しつつも、コリアンどうしで協同している。また、ホスト社会に包摂されながら、融合されず、時に排除される。この点で独特の存在である。
本研究は、先行プロジェクトにより蓄積した基礎データと国際的な研究協力体制を活かし、第一に東アジアのコリアン・ネットワークに根差した生活文化を明らかにする。ここでは、本国のコリアンとの違いも焦点となる。その結果、第二にコリアン・ネットワークを形作る「適応―協同」の原理と、コリアン・ネットワークを取り巻く「包摂―排除」の原理を解明する。
これらにより、ボーダーレス化する東アジアで、民族の適応と協同、包摂と排除の動きがどう働いているかに迫り、民族の混交という社会のリスクを透明化する一助としたい。

活動内容

2012年度実施計画

本年度は、過去三か年の研究成果を総合的に検討し、全体としての成果公刊にむけた活動をおこないつつ、研究代表者・研究分担者・連携研究者の各自が個別で成果公刊もおこなっていく。
このため、補足調査と成果公刊のための海外渡航を予定している。特に、韓国への渡航に重きを置く。その理由は、この研究が当該テーマについて第三者(日本の研究者)の立場からおこなわれたものであり、ここからえられた研究結果は韓国の学界に対して特に大きな意味をもつからである。

2011年度活動報告

21世紀を迎え、民族の混交は幾多の問題をはらみながら、ますます進行している。なかでも、朝鮮半島から拡散したコリアンは、ホスト社会に適応しつつも、コリアンどうしで協同している。また、ホスト社会に包摂されながら、融合されず、時に排除される。この点で独特の存在である。
本研究は、先行プロジェクトにより蓄積した基礎データと国際的な研究協力体制を活かし、第一に東アジアのコリアン・ネットワークに根差した生活文化を明らかにする。ここでは、本国のコリアンとの違いも焦点となる。その結果、第二にコリアン・ネットワークを形作る「適応―協同」の原理と、コリアン・ネットワークを取り巻く「包摂―排除」の原理を解明する。
これらにより、ボーダーレス化する東アジアで、民族の適応と協同、包摂と排除の動きがどう働いているかに迫り、民族の混交という社会のリスクを透明化する一助としたい。
本年度は、昨年度の末におこなった国際シンポジウム「東アジアのコリアン・ネットワーク――その動向と実践」の成果をとりまとめた。その場で行なった本研究の中間発表を精査するとともに、そこで得られた国外協力者たちからのコメントを吟味し、かつ不足する知見や情報をおぎなうために補足調査をおこなった。
これに加え、本研究でとりあつかうべき事例でありながら、これまで不足していた脱北者の存在に着目し、それに関する調査研究と成果発表をおこなった。

2010年度実施計画

昨年度の補足調査として、以下の予定でメンバー各自が現地調査によりデータを収集する。
なお、韓景旭(西南学院大学・国際文化学部・教授)が、連携研究者として脱北者関連の調査および研究を担当する。
11月  朝倉:  ベトナム        8日× 1回
8月   岡田:  中国浙江省      12日× 1回
7~3月 島村:  日本国内        3日× 5回
3月   林 :  韓国         10日× 1回
8月   太田:  中国吉林省      15日× 1回
8月   韓 :  中国延辺朝鮮族自治州 14日× 1回
また、各調査地域から以下の8名の有識者を招き、12月下旬に国際ワークショップを、国立民族学博物館(大阪府)において開催する。
ロシア沿海州:     金光根(アルチョム市国際部)
ロシアサハリン州:   ナム・ヘギョン(サハリン大学)
中国北京直轄市:    安承權(中央民族大学)
中国延辺朝鮮族自治州: 金光一(延辺大学)
中国吉林省:      崔鮮花(吉林大学)
韓国ソウル特別市:   李順炯(ソウル大学)
台湾:         黄智慧(中央研究院)
豪州シドニー市:    チョオ・ヤンフン(シドニー韓人会事務局長)

2009年度実施計画(2011年3月まで期間延長)

本年度は、先行プロジェクトで得た資料や人材という研究リゾースを共有し、主として文字資料の補足収集と予備調査、研究会による分析作業(3回)を行なう。ここで言う文字資料とは、海外コリアンの地域別・職業別の電話帳である「韓人録」、各ホスト社会の政策法規、コリアンの求人や労働関連の資料、移民体験記や日記、朝鮮半島との交流や祖国感情を物語る記述等である。具体的な計画は以下のとおりである。
なお、韓景旭(西南学院大学・国際文化学部・教授)が、連携研究者として脱北者関連の調査および研究を担当する。
国内研究会(1日)
 5月(国立民族学博物館)…… 先行プロジェクトでえた蓄積を共有。
資料収集のための旅行・滞在
 朝倉(バンコク7日)(ウラジオストク7日)
 岡田(青島7日×2回)
 島村(東京6日)(下関6日)(福岡6日)
 林(台北11日)
 太田(長春22日×1回)
 韓(長春10日)
国内研究会(各1日×2回)
 10月(国立民族学博物館)…… 新たに収集した文字資料と予備調査結果の共有。
 3月(国立民族学博物館) …… 文字資料の分析結果の持ち寄り。調査項目の策定。