国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

伝統的技術の戦略的継承法―現代インドの手工芸文化を中心とした民族芸術学的研究(2010-2012)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|若手研究(B) 代表者 上羽陽子

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究は、ものづくりの「作りの手個人の創意工夫」や「伝統的技術の戦略的継承法」に実践的にアプローチし、製作者が伝統的形態の継承と現代的な要素の採用をいかに戦略的に選択しているか観察分析を行い、その製作と流通の歴史を掘り起こすことによって、「伝統的」とされてきた手工芸品の社会・文化的意義をめぐる従来の視点を大きく変えることを目的とする。現代インドにおける自給自足的に製作される染織布をはじめ、インド国内外向けの商品用手工芸品、通過儀礼用染織布、さらにインド独立運動の象徴ともなった手紡ぎ手織り布を対象に、日本および世界の手工芸文化との比較を行い、独自の民族芸術学的視点によるモデルを提供するものである。

活動内容

2012年度活動報告

本年度は、インド、デリーにおいて手工芸に関する現地調査を実施した(平成25年1月23日~2月14日)。デリーにおいては、年に1度開催されるインド最大規模のインド手工芸祭の調査をおこなった。インド手工芸祭には、インド中からクラフト制作者や染織品の作り手自らが店を出し、その数は1000店舗以上になる。そのため、インド全体の染織品の現状をつかむのに最適な場所である。ここでは、インド手工芸祭の組織や運営、インド手工芸の領域における染織品の役割や位置づけなどを把握した。
またこれまで、グジャラート州の女神儀礼布の制作現場における伝統的技術の継承や作り手個人の創意工夫について研究をおこなってきたが、今回は都市部におけるその販売の様子、とりわけ販売者がどのように販路を獲得しているのか、買い手がなにを求めているのか、モノがどのように流通しているのかなどの調査をすることができ、おおまかな動向を把握することができた。成果公開については、論文として『国立民族学博物館研究報告』の査読誌に投稿し、掲載された。また民族藝術学会大会をはじめ各種講演にてその成果を公開した。

2011年度活動報告

本研究は、ものづくりの「作りの手個人の創意工夫」や「伝統的技術の戦略的継承法」に実践的にアプローチし、製作者が伝統的形態の継承と現代的な要素の採用をいかに戦略的に選択しているか観察分析をおこない、その製作と流通の歴史を掘り起こすことによって、「伝統的」とされてきた手工芸品の社会・文化的意義をめぐる従来の視点を大きく変えることを目的とする。
本年度は、初年度のインド、グジャラート州アーメダバード県における予備調査をふまえて、2回の本調査を主におこなった。1回目の調査(平成23年9月12日~11月21日)では、アーメダバード県の染布の工房における女神儀礼用染色布の製作状況、販売状況の調査をおこなった。そこでは、手工芸品の「伝統」が、製作者や販売者の戦略によって選択されながら継承されている様子を観察した。2回目の調査(平成24年2月20日~3月11日)では、これまでグジャラート州でおこなってきた手工芸品の製作現場における調査研究をふまえ、デリーとムンバイという大都市における商品としての手工芸品を対象に、伝統的技術が商品としてどのように継承されているのかについて調査をおこなった。資料収集に関しては、アーメダバード県およびデリーやムンバイにおいて、研究対象に関係する古文書渉猟も遂行し、手工芸文化を取り巻く現状の動向を、包括的に把握した。
成果について、その一部を『国立民族学博物館研究報告』に投稿中である。引き続き来年度も、成果を民族藝術学会、意匠学会で研究発表することで、本研究をより広い地域的、理論的視野から検討し、学会論文を『国立民族学博物館研究報告』『民族藝術』『デザイン理論』などのジャーナルに投稿する予定である。

2010年度活動報告

本研究は、ものづくりの「作りの手個人の創意工夫」や「伝統的技術の戦略的継承法」に実践的にアプローチし、製作者が伝統的形態の継承と現代的な要素の採用をいかに戦略的に選択しているか観察分析をおこない、その製作と流通の歴史を掘り起こすことによって、「伝統的」とされてきた手工芸品の社会・文化的意義をめぐる従来の視点を大きく変えることを目的とする。
本年度は、次年度の本格的な現地調査にむけて、インド、グジャラート州東部アーメダバード県において、予備調査をおこなった。女神儀礼用染布の製作現場において、実際に製作に従事しながら、手工芸品の素材、道具、技術に焦点をおくと同時に、作業過程の中から「ものづくりの勘所」「作り手個人の創意工夫」について観察分析をおこなった。資料収集に関しては、アーメダバード県を中心に、研究対象に関係する古文書渉猟も遂行した。
これらの成果の公開については、来年度、民族藝術学会、意匠学会で研究発表することで、本研究をより広い地域的、理論的視野から検討し、学会論文を『国立民族学博物館研究報告』『民族藝術』『デザイン理論』などのジャーナルに投稿する予定である。