国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

東アジア古代国家形成期における織物文化の特質に関する民族考古学的研究(2011-2013)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|特別研究員奨励費 代表者 東村純子

研究プロジェクト一覧

目的・内容

現代社会において地球環境保護の理念と技術が普遍的な価値として位置づけられる中、ブータンは経済的な指標でみれば最貧国のひとつながら、君主制の下で伝統文化および自然環境の保護を経済発展に優先させるとし、意識的な政治選択を実施してきた数少ない国である。しかし、近年の急速な民主化への動きは、君主制下での一元的で厳格な森林管理を環境保全成功の秘訣としてきたブータンの属性を大きく変えつつある。本研究では、選挙や分権化をとおした民主化プロセスのなかで、自然保護区に暮らす村落社会の人々の価値体系がいかなる形でゆさぶられ、どのように再編されつつあるのか、その過程を政府や環境NGOを含めた複数のアクターによる日常的で多元的な交渉過程のなかから描き出していく。

活動内容

◆ 2013年4月より転出

2012年度実施計画

本年度は、以下のとおり、大きく3つの研究内容を計画している。
【出土紡織具・織物の基礎分析】
中国新石器時代から唐代併行期までの東アジア(弥生時代~律令時代の日本も含む)の出土木製品中より、現時点で用途不明のものを含む、紡織具の抽出・集成を行い、形態や使用の痕跡、用材樹種などを確認し、基礎的な形態分析を行う。加えて、出土織物の調査を進め、麻など植物性繊維の製糸技法について検討する。日本においては、古代の主要遺跡出土紡織具・織物の総合的検討を行う。
【民族資料の基礎収集とフィールド調査】
身体技法の観点から、織物技術・紡織研究を進める。特に、紡織具の復元模型による糸作りから布織りまでの一連の工程を実践するなかで、身体技法について考察する。また、中国南部・台湾・韓国を中心とした紡織にかかわる民族資料・文献を収集するとともに、フィールド調査を開始する。
【図像資料・副葬品の分析調査】
中国周辺地域を対象とした紡織にかかわる図像資料(石寨山・李家山古墓の青銅器など)、中国チワン族自治区羅泊湾漢墓などにおける紡織具の副葬例について、発掘調査報告書等より抽出・集成し、分析のための基礎資料を整理する。特に、紡織具のなかでも遺存度の高い、紡錘車については性別の判明する人骨に伴う、副葬例について分析を進める。
また、歴史学・民俗学におけるジェンダー研究の動向を確認し、図像分析、及び埋葬施設や副葬品分析を進める際の参考とする。
【学会発表・研究報告】
九州大学における国際学会(The Society for East Asian Archaeology)や京都大学における日本文化財科学会、タイ・バンコクで開催のThe 2012 Conference Anthropology and Sustainabilityにおいて、研究成果を報告する予定である。各種資料の整理については研究補助により行い、中国考古学・文化人類学の専門家、現地の研究者より助言を得る。

2011年度活動報告

東アジアの古代社会における織物文化の特質を明らかにするため、以下の通り、研究を実施した。
1.出土紡織具の調査
国内では新出資料を中心とする弥生時代~古代の紡織具を調査し、海外では出土有機物の豊富な北欧諸国における調査状況の情報収集、中国・韓国出土紡織具について文献調査した。主として麻(大麻や苧麻)の布を腰機で織る東アジアにおける文化と、主として毛織物を錘機で織る北欧における文化の相違を比べることにより、自然環境と素材、道具と身体技法の特徴について考察を進めた。
2.出土織物の調査
国内の出土織物について、古墳時代前期から中世の平織の麻織物片を調査した。マイクロスコープ等での観察により、麻の製糸法や織り技法と道具との関係を検討し、麻の繊維を撚りつなぐ技法、紡錘による糸の撚りかけについて民俗例との比較分析を行った。また、京都大学所蔵のエジプト・コプト織物について織り技法を調査し、平織と綴織を併用する技法と亜麻と毛の糸素材との相関を検討、東アジアの麻の製糸法と比較した。
3.その他の史的考察
奄美群島、沖縄~八重山諸島において女性がつくり、男性へ贈られた織物「手巾」と、女性の衣装の一部として『万葉集』など古代の文献史料にみえる「領巾」とを比較し、紡織における女性労働の特質について考察した。また、従来の国内研究者による台湾原住民族の紡織調査や紡織にかかわる資料収集に基づき、戦後から現在にいたる弥生時代の原始機研究において民族考古学の視点が組み込まれた経緯を明らかにした。
本研究では、東アジアの古代社会において各種の織物がどのような技術生産体系のもとでつくられたのか(紡織技術の形態と織物生産体系の相関)、誰がどのような意識をもってつくったのか、あるいはつくらせたのか(織物の製作者と使用者の行為主体性)、その歴史的脈略について民族考古学を基軸とする研究手法により明らかにし、東アジアの古代国家形成史のなかに位置づけることを目的とする。
調査対象は、中国新石器時代から唐代併行期(韓国では初期鉄器~統一新羅時代、日本では弥生~奈良時代)の考古資料と、中国、台湾、朝鮮半島、日本(一部、東南アジアを含む)民族資料とする。
研究内容はI.東アジアにおける出土紡織具の型式学的研究、II.民族考古学からみた布文化システムのモデル構築、III.古代の紡織と女性労働に関する史的考察、の大きく3つで構成される。IとIIは民族誌データとの比較から考古資料を解釈する民族考古学、IIIは性差の視点から人類の行動を解釈するジェンダー考古学の手法により紡織活動の具体相を明らかにしようとするものである。東アジア地域の紡織にかかわる考古資料・民族資料に即し、製作者と使用者の双方向から検討を加え、クラフト・スペシャリゼーションや織物の規格化、価値の創出と変容を明らかにする。