社会的包摂のための実践人類学的研究(2011-2013)
目的・内容
本研究の目的は、現代社会の課題である「社会的包摂」を国際的に推進するための支援のあり方と、そのための市民の役割を検討し、その成果を支援団体/市民/研究者に向けて提言することにある。社会的包摂とは、社会から排除された人々を再び社会に取り込もうとする試みを意味する。従来、社会的包摂は一国家の内政課題として理解され、その前提で国家単位の研究がおこなわれてきた。これに対し本研究は社会的包摂をグローバルな課題として位置付ける。これにより先行研究で提唱されていた官・民(企業)・市民セクターの相互補完からなる「公共性」概念を、グローバルな文脈にいれて再考する必要が生じてくる。とりわけ本研究はグローバルな公共性における市民の役割に焦点をあて、官や民によるグローバル支援活動との軋轢や、協働の可能性を検討する。
そのために(1)5種類の支援活動(フェアトレード運動、国際協力NGO活動、国際協力ボランティア活動、都市在住の先住民族支援活動、無国籍者支援活動)の事例研究を実施し、(2)それらの比較による「社会的包摂」論の再検討をおこなう。また(3)公開の研究会やワークショップを開催し、「社会的包摂」の実現に向けて尽力する個人、団体およびこの問題に関心をもつ市民と研究者にむけた提言の作成と発信、の3点を中心に研究を実施する。
活動内容
2013年度活動報告
社会的包摂を目的とする支援活動(フェアトレード、国際協力NGO、国際協力ボランティア、先住民族支援、無国籍者支援)に関する研究をおこなった。
鈴木紀は、ベリーズのTCGA、コスタリカのCoopeagri、ガーナのKuapa Kokooなどのフェアトレード生産者組合を訪問し、フェアトレードが媒介する消費者と生産者の間の交流事業について調査した。またイギリス・フランス・ベルギー・オランダ・ドイツで、フェアトレード商品の販売戦略を調査した。
岸上は、カナダ国モントリオールにおいて収集した都市イヌイットの生活実態に関するデータを整理、分析した。また、調査結果の全体像を取りまとめ、先住民団体に提出するとともに、出版の準備を進めた。
白川は、フィリピンで、コミュニティ開発の活動に取り組む青年海外協力隊員を訪問し、その活動や隊員とカウンターパート・活動対象者の相互関係などに関する聞き取り調査を実施した。
関根は、ソロモン諸島において青年海外協力隊の支援活動に注目し、現地の地域性が隊員の感情の変化に及ぼす影響に関する聞き取り調査を、隊員、現地のJICA支所、隊員の配属先諸機関の関係者に対しておこなった。
鈴木七美は、アメリカ合衆国のNPOテンサウザンド・ヴィレッジズに関し、宗教的価値観、扱っている商品、地域コミュニティとの関わりに注目して、現地調査を行った。
陳は、ジュネーブで開催されたNGOと国連難民高等弁務官事務所のコンサルテーション会議に参加した。世界各地の無国籍者支援団体の支援活動について情報収集を行った。
また日本で難民、無国籍の支援を行っている団体や学生とコラボレーションを行い、当事者などを招き「無国籍って?-難民と考える国籍のはなし」と題するワークショップを筑波大学(9月30日)及び関西学院大学(11月23日)に開催した。
2012年度活動報告
2011年度活動報告
年度始めに研究会を開催し、研究代表者と研究分担者が、本研究の目的と各自の研究分担内容を確認した。その後、以下のように調査研究活動を展開した。鈴木紀は、国際フェアトレードラベル機構の認証をうけたカカオ生産者団体であるボリビアのエルセイボとベリーズのTCGAを訪問し、フェアトレードの生産者への社会経済的効果を聞き取り調査した。
岸上伸啓は、カナダ、モントリオール市在住のイヌイットの生活状況を把握するため、先住民友好センターのホームレス対策チームの活動について参与観察を行うとともに、郊外在住のイヌイットを訪問し、現状に関する聞き取り調査を実施した。
白川千尋は、ネパール・タイ・ラオスに調査地を変更し、隊員(村落開発普及員)の活動や活動対象者との相互関係などに関する具体的情報の収集を行った。
鈴木七美は、キリスト教再洗礼派の非暴力・平和主義の表現の一つとして展開されてきたTen Thousand Villagesのフェアトレード活動について、アメリカ合衆国で調査を行った。
関根久雄は、パラオ共和国およびミクロネシア連邦ポーンペイ島において、地域住民に対する社会開発活動を中心とする日本のODA事業の実態調査を、特に地域文化に注目する視点から実施し、ソロモン諸島など他の太平洋島嶼国と比較しながら当該地域における開発実践の方向性に関する検討をおこなった。
陳天璽は、無国籍者支援を行っているNGO団体のインタビュー調査と参与観察を行った。タイのNGO団体の法的支援を取材したほか、タイと日本の団体のネットワークのあり方について分析を行った。