国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

宗教と移民のアイデンティティ・共生:南アジア系ディアスポラを事例として(2011-2014)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|基盤研究(B) 代表者 辻輝之

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究は、南アジア系移民・ディアスポラを事例として、(1)宗教が受入社会における移民のアイデンティティ、「コミュニティ」の形成に如何なる影響を与えているか、(2)宗教「伝統」の再構築と展開が多文化、多人種、多宗教を特徴とする受入社会において、彼らと他集団との共生、ひいては、その社会の統合と安定に如何なる影響を及ぼしているか、について民族誌的手法を用いてデータを収集して考察し、宗教と社会に関する既存の概念、理論的枠組の再検討に寄与することを目指す。

活動内容

2014年度活動報告

2014年10月3日~2015年3月7日、トリニダッド・トバゴにある西インド諸島大学(The University of the West Indies、UWI)から、本研究課題の成果を共有・還元することを条件として、図書館蔵書や同大学所属の研究者との交流など支援的支援を受けながら、現地調査の継続と書籍ならびに学術雑誌論文の原稿執筆を実施した。
1.現地調査:トリニダッドの事例については、同大学West Indiana Collectionおよび首都大司教区公文書館にて史料収集と、参与観察を行っている南部の町シパリアのカトリック教会関係者およびヒンドゥー教徒への聞き取り調査を継続した。また、南フロリダの事例において調査対象としているヒンドゥー寺院の指導者がトリニダッド・トバゴにおいて祭礼を執り行う際に参与観察および信者への聞き取り調査を実施した。
2.成果発表:研究成果の共有・還元の一つとして、2015年1月28日、UWIジェンダー・開発研究所(Institute for Gender and Development Studies, IGDS)が主催する定期セミナーにおいて発表した。発表は広く広報され、内容と結果は、文書と動画の形で同研究所が運営するオンラインポータルにアップされている。
https://www.youtube.com/watch?v=KIYkAS8asBs&feature=share

2013年度活動報告

1.2014年4月~7月にかけて、同大学が所蔵するキリスト教に関する蔵書を検索、課題に関連する史料を収集しながら、既に収集した聞き取りや古文書データの分析を継続した。同期間中に論文"Toward the Materiality of Intercultural Dialogue, (still) a'Miracle Begging for Analysis'"((2015年4月末、Perspectives on Interculturality: The Construction of Meaning in Relationships of Differenceに所収され出版された)とEncyclopedia of Race, Ethnicity, Nationalismに所収されるの小論文 "Caribbean"(2015年8月出版予定)の最終稿を書き上げた。
2.2014年9月23日~10月2日に、Florida Hindu Organization Shiva Mandir (Oakland Park, FL)で執り行われたNavaratriへの参与観察と宗教指導者、参列者への聞き取り調査を実施した。同寺院の指導者Pdt. Bimal Maharajは、トリニダッド島にも世襲した寺院を運営しており、同氏とともに今回のNavratriを執り行った指導者の大半がトリニダッドからの訪問者であった。今後は、南フロリダとトリニダッドを移動する指導者に寄り添って調査を継続する。
3.12月3日~7日、米国ワシントンDCにて開催されたアメリカ人類学会総会に出席し、研究成果発表を行った。論題は、"Dressing the Statue: Spirituality and Sociality of the Blessed Virgin" で、これまで調査を行ってきたトリニダッド島南部の町シパリアでのカトリック教徒およびヒンドゥー教徒による単一マリア像の分有信仰について、像の衣装および儀礼的着替えの意味について考察した。

2012年度活動報告

【第1四半期(4~6月)】
4月及び5月にトリニダッドにおけるフィールドワークを2度実施し、カトリック教会へのヒンドゥー教徒による巡礼について、参与観察と聞き取り調査を行うと同時に、当地大学、ナショナルアーカイブスおよび大司教古文書館にて史料収集を行った。
【第2四半期(7~9月)】
セント・ルイス大学Center for Intercultural Studiesにおいて前年度および本年度第1四半期までに収集したデータの分析を進め、その結果を基に、9月末までに査読学術雑誌American Ethnologistに論文を投稿した。同期に予定していた南フロリダでのフィールドワークは、トリニダッドの事例研究の進捗状況に鑑み中止したが、その代わりに前年度の予備調査の結果をまとめ、プロポーザルをを作成してアメリカ宗教学会に提出した。
【第3四半期(10~12月)】
前年度から纏めてきた書籍出版計画書が完成し、11月半ばのアメリカ人類学会においていくつかの出版社に査読のため提出した。また、同月には先に提出したプロポーザルが受け入れられたため、アメリカ宗教学会の特別セッション(北米におけるヒンドゥー教)において、南フロリダにおける予備調査の結果について発表を行うととともに、研究関心を共有する研究者とのネットワーク構築に努めた。
【第4四半期(1~3月)】
9月末に提出した学術論文が査読の結果、掲載が見送られることとなり、査読者の示唆を参考に論文の書き直しを行うとともに、さらにデータの分析を継続した。併せて、2月28日、3月1日の両日、研究支援を受けているセント・ルイス大学Center for Intercultural Studies主催の国際学会が開催され、論文発表を行った。

2011年度活動報告

【第1四半期(4~6月)】
予定通り、博士論文執筆時には未出版であった文献の収集と検討を通じて、フィールドワーク実施に向けた仮説・問いの再検討を行った。うち先行研究の一つについて書評を執筆、査読学術雑誌 Religion and Gender に投稿し、2012年2月に出版された。加えて、今回、初めて科研費を受けて調査・研究を行うこともあり、4月に東京外国語大学で開催されたフォーラムへ出席して科研費の運用に関する知識を得るとともに、他の研究者との交流に努めた。
【第2四半期(7~9月)】
同期に予定していたフィールドワークは延期し、前年の調査で既に入手していたデータの整理と分析を継続した。また、同期には、本プロジェクト申請時に既に提出していた書籍(分担執筆)の原稿を、その後入手可能となった2010年米国国勢調査の結果を加えて加筆修正した。なお、本業績は、1990年代以降米国で急速に増加している移民に焦点を当てた書籍の一章として執筆した“Trinidadian and Tobagonian Americans” であり、2011年9月に出版された。
【第3四半期(10~12月)】
英国オックスフォード大学およびロンドン大学が開催したトリニダッド・トバゴ初代首相エリック・ウィリアムズによる開発、文化政策の再検討に関する学会にて論文発表した。論題は “Villaging the Nation: Eric Williams and the Engineering of National Culture” でウィリアムズによる「国民文化」形成がもたらした問題について、当時南アジア系ディアスポラの3分の2以上が居住していた村落に焦点を当てて論じた。また、予定通り、来年度アメリカ人類学会発表のためのプロポーザルを作成した。
【第4四半期(1~3月)】
1月13日を以て、科研運用機関が前所属の関西学院大学から現在の国立民族学博物館に移行した。また、その後、米国セント・ルイス大学間文化研究センター(Saint Louis University, Center for InterculturalStudies)から客員研究員として招聘されたため、現在同センターにて本科研プロジェクトを遂行している。2月17日には、同センター主催のワークショップにて本研究プロジェクトの成果の一つとして南アジア系ディアスポラの宗教の変容と他集団との関係について発表を行った。