国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

生産現場における人とモノの関係性にみる社会主義経験の多様性と普遍性(2011-2014)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|若手研究(B) 代表者 風戸真理

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究は、ポスト社会主義の諸社会におけるモノ生産の場において、生産者である人と生産されるモノとのあいだにどのような関係が取り結ばれてきたのかを、革命以前・社会主義期・体制変化後の各時期で比較検討する。申請者のこれまでの研究からは、モンゴルにおいては社会主義期に商品社会からはみ出す家畜が存在していた。これらは国家公認の正史である文書記録には記されていない。申請者はモノに関する人々の語りを収集することで、ふつうの人びとび視線から見た歴史を再構成することを企図している。この方法は、社会主義をはじめとする急激な近代化を経験した諸社会についての、「書かれなかった」もうひとつの歴史の側面をすくい上げるのに有効である。他方で、人と生産物とのあいだに見られる特別な関係は、社会主義がモンゴルの生産現場で実践されるさいにローカライズされてしまった結果なのだろうか。他の国で社会主義が実現されるとき、あるいは他の国で近代化が具現化されるときと比べてどのような特徴があるだろうか。

活動内容

◆ 2013年4月より北星学園大学へ転出

2012年度実施計画

主な研究方法はフィールドワークと文献研究である。旧東ドイツのハレにあるマックスプランク研究所(MPI)に滞留し、東・中央ヨーロッパにおけるヨーロッパ研究の最前線の動向を参照しながら、アジアの(ポスト)社会主義諸国、ならびに、社会主義とは別の形で近代化を遂げたアフリカ・ラテンアメリカ諸国をも比較の視野に入れながら、社会主義の多様性と普遍性についての一般理論を構築する。MPIの立地を生かしてチェコ、スロバキア、ルーマニア、ブルガリアなどの東欧諸国、牧畜文化のトルコ、リトアニア、エストニア、ラトビア、ポーランドなどのバルト諸国の旧国営工場、農場を自分の足で広く歩いて全体像を把握する。同時に、2つの組織/地域を重点的な観察地点と定め、社会主義期まで遡る遠い記憶をたどる深い聞き取り調査をおこなう。具体的な調査地域としては、これまで調査研究をおこなってきたモンゴル・中国・ロシア・メキシコに加え、東南アジア、インド、アフリカ、ラテンアメリカをも比較対象とする。
研究内容は、社会主義化をはじめとする国家の政治経済の変化が、モノ(家畜を含む)生産の現場における、人とモノの関係に与えた影響を明らかにするため、1)同種産業の同じモノに注目し、ポスト社会主義圏の異なる国家・地域での経験を比較し、差異と共通性を抽出する。2)同じ国家の内部での、異なる業種の生産現場での経験を比較検討する。

2011年度活動報告