内モンゴルにおけるシャマニズムと民間医療に関する文化人類学的研究(2012-2014)
目的・内容
1940年代から1970年代にかけて、近代中国において「社会主義改造」、「文化大革命」などの社会主義的イデオロギーによる洗脳運動が全国的におこなわれた。しかし、1980年代以来の内モンゴル東部地域においてはシャマニズムが復活しつつある。シャマニズムは現在、多民族的中国の宗教政策、医療政策、民族政策に対応した柔軟性を発揮しながら、モンゴル人社会の日常と絡んで生き残っている。シャマニズム的諸活動のなかで、治療行為は重要な部分をなしており、依頼者の心身両方の要求を満たしている。本研究は、そういった民間医療と絡んでいるシャマニズム的各種儀礼を対象に、オルタナティブ医療と制度的医療衛生と関連する諸問題を文化人類学的に捉える。そして、中国において近代と伝統、大宗教と小宗教、漢文化と民族文化が交差するカテゴリーの中で続発する文化対立の諸問題を解決しようと試みる宗教政策、民族政策、医療衛生政策の本質と軌跡を解明することが強く求められるなか、シャマニズムを支える人々と依頼者の視点から、シャマニズムと仏教、オルタナティブ医療と制度的医療衛生との間に発生する多元的医療の諸問題をエスニシティ論をもって究明する。さらに、そういった諸問題が存在する内モンゴル東部のホルチンとフルンボイル両地域を相対化する目的で、モンゴル国に赴き、ダルハドやブリヤートの間で生き残っているシャマニズムに関するフィールドワークをおこない、豊富な事例のデータを活用して、多様な医療の選択肢があるなかシャマニズム的治療が選択される状況をエスニシティの問題として論じる研究へと収斂させていく。
活動内容
2014年度活動報告
中国内モンゴル東部地域においてシャマニズムが復活しつつある。本研究の目的は、多民族的社会主義中国の宗教政策、医療衛生政策、民族政策を視野にいれながら、民間医療と絡んでいるシャマニズム的各種儀礼を対象に、オルタナティブ医療と制度的医療衛生との間に発生する多元的医療の諸問題を文化人類学的に捉えることである。この研究は、中国において近代と伝統、大宗教と小宗教、漢文化と民族文化が交差するカテゴリーの中で続発する文化対立の諸問題を解決しようとする諸政策の本質と軌跡を学問的に解明することが強く求められるなか、その分野に対する新しい知見を提供することである。
本年度は研究計画通りに以下のような作業をおこなった。
まず、中国内モンゴル自治区フルンボイル地域においてシャマニズム的病気治療に関する追加調査をおこない、オルタナティブ医療論、エスニシティ論及びシャマニズム的治療に関する事例資料を収集した。次に、中国の国家図書館、北京大学図書館、中央民族大学図書館において、中国建国前後に実施された民族政策、医療衛生政策、宗教政策に関する資料調査をおこなった。さらに、日本国内の大阪大学外国語図書館、島根県立大学図書館、東京大学総合図書館・東洋文化研究所図書室・医学図書館において、20世紀前半に発行されたモンゴル語新聞紙や雑誌を閲覧し、当時のモンゴル人に対して実施した医療衛生の社会教育に関する資料を調査した。最後に、国立民族学博物館においておこなわれた医療人類学研究会及び中国で開催された中国医学百年史研究に関する国際会議において講演し、国内外の学者と交流した。
そして、以上の現地調査と学術交流で得られたデータを基に、(1)オルタナティブ医療とエスニシティ問題と関係した中国内モンゴルの医療衛生体系の中で、シャマニズム的職能の一つである病気治療を位置づけた。(2)内モンゴルの地域社会及び国家医療衛生政策の実施との相互作用の基でおこなわれたモンゴル伝統医学の近代化過程に注目し、学術論文を発表した。
2013年度活動報告
中国内モンゴル東部地域においてシャマニズムが復活しつつある。本研究の目的は、多民族的社会主義中国の宗教政策、医療衛生政策、民族政策を視野にいれながら、民間医療と絡んでいるシャマニズム的各種儀礼を対象に、オルタナティブ医療と制度的医療衛生との間に発生する多元的医療の諸問題を文化人類学的に捉えることである。この研究は、中国において近代と伝統、大宗教と小宗教、漢文化と民族文化が交差するカテゴリーの中で続発する文化対立の諸問題を解決しようとする諸政策の本質と軌跡を学問的に解明することが強く求められるなか、その分野に対する新しい知見を提供することである。
本年度は研究計画通りに以下のような作業をおこなった。
まず、中国内モンゴル自治区フルンボイル地域においてシャマニズムに関する口述史調査と儀礼参与調査をおこない、オルタナティブ医療論、エスニシティ論及びシャマニズム的治療に関する事例資料を収集した。次に、モンゴル国におけるブリヤート・シャマニズム、ダルハド・シャマニズムに関する初めての現地調査をおこない、中国内モンゴルにおけるシャマニズムとの対比研究を実施した。最後に、医学史、医療人類学及びシャマニズムをあつかった国際学会に参加し、内モンゴルにおけるオルタナティブ医療及びシャマニズム的治療などについて得られた資料を取りまとめ学会発表をおこなった。
そして、以上の現地調査と学術交流で得られたデータを基に、(1)オルタナティブ医療とエスニシティ問題の関係性に注目しアイデンティティ・ポリティクスとシャマニズムとの関連性を考察した。(2)シャマニズム的民間治療が地域社会及び国家の医療衛生政策の実施との相互作用に注目し、学術論文を執筆中である。
2012年度活動報告
中国内モンゴル東部地域においてシャマニズムが復活しつつある。本研究の目的は、多民族的社会主義中国の宗教政策、医療衛生政策、民族政策を視野にいれながら、民間医療と絡んでいるシャマニズム的各種儀礼を対象に、オルタナティブ医療と制度的医療衛生との間に発生する多元的医療の諸問題を文化人類学的に捉えることである。この研究は、中国において近代と伝統、大宗教と小宗教、漢文化と民族文化が交差するカテゴリーの中で続発する文化対立の諸問題を解決しようとする諸政策の本質と軌跡を学問的に解明することが強く求められるなか、その分野に対する新しい知見を提供することである。
本年度は研究計画通りに以下のような作業をおこなった。
まず、東京大学図書室、大阪大学図書館、国会図書館、国立民族学博物館図書室などの国内の諸施設において、オルタナティブ医療論、エスニシティ論、及びシャマニズム的治療に関する研究の最新情報を収集した。次に、海外において、中国内モンゴルにおけるオルタナティブ医療、医療衛生政策、民族政策、宗教政策に関する文献を渉猟する目的で、中国の国家図書館と北京大学図書館などの諸施設へ出張した。最後に、医学史、医療人類学及びシャマニズムをあつかった研究会に参加し、内モンゴルにおけるオルタナティブ医療、エスニシティ論、及びシャマニズム的治療などについて、得られた資料を取りまとめ学会発表をおこなった。
そして、以上の資料調査と学術交流で得られたデータを基に、(1)オルタナティブ医療とエスニシティ問題の関係性に注目した研究史を整理し、最新研究に対する分析をおこない、書評などを執筆した。(2)中国の民族医療衛生政策、民族政策、宗教政策などに関する文献を解読・分析したうえ、それらの政策が如何にして内モンゴルのシャマニズム、オルタナティブ医療、エスニシティ問題などを影響したかを考察し、学術論文を執筆中である。