国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

世界の中のアフリカ史の再構築(2012-2015)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(A) 代表者 竹沢尚一郎

研究プロジェクト一覧

目的・内容

熱帯高地は、これまで辺境とみなされ、ほとんど注目されなかった地域であるが、そこは古くから多数の人口を擁し、高度な文明も成立、発達した可能性が大きい。また、近年はアンデスやチベットなどの高地において急激に人口が膨張し、環境改変の動きが加速するとともに、環境破壊の問題も深刻になっている。本研究の目的は、このような熱帯高地に焦点をあて、そこでの環境と人間との相互関係を環境開発および地域間比較の視点から究明することである。さらに、研究代表者が40年あまりに及ぶフィールドワークをもとに提唱するに至った「高地文明」の仮説を検証確立することも大きな目的とする。これらの目的を達成することにより、熱帯高地における環境と人間の関係、とくに環境を改変し文明を成立させるに至った人類史の基本的枠組みが明らかとなる。さらに、高地の環境は一般に脆弱で土壌が貧弱であり、いったん破壊すれば回復がきわめて困難な環境であるため、そこでの環境開発の特色の究明は地球環境問題の解決にも資することになる。

活動内容

2015年度活動報告

27年度は、本研究の最終目的であるアフリカ史関係の報告書を出版するために、数度の研究会を実施した。また、各自の研究テーマに沿って、アフリカ史理解の深化のために、文献収集とその整理、シンポジウムの組織化、海外調査を実施した。
その成果は、以下の通りである。、①北アフリカに関して、エジプトにおけるイスラームの浸透とコプト教との出会いと相克の理解が深まった。②西アフリカに関して、ニジェール川中流域での経済発展が解明され、それとサハラ交易との関係に新たな視点が加わった。③東アフリカに関して、インド洋交易と沿岸部のスワヒリ社会の経済発展の関係について新たな知見が得られた。④中央アフリカに関して、アジアからのバナナの導入による経済的発展、およびその後の国家の発達が理解された。⑤南部アフリカに関して、毛皮交易が南部アフリカ諸社会に及ぼした影響について研究が進んだ。
28年度にも、各研究者の研究成果と来年度以降の研究課題について話し合うために、数回の研究会を実施した。その結果、平成29年中に論文集を出版することとし、その内容と分担を決定し、夏までに論文を集めることとした。タイトルは、『世界の中のアフリカ史』とする予定であり、その内容については先に述べた研究成果が中心になる。
この本が出版されたなら、引き続き、『国家の発生と無文字社会の歴史』、『植民地経験と支配への抵抗』についても出版したいと考えている。この3冊が出版されたなら、本研究の成果を広く還元できると同時に、わが国のアフリカ史理解に大きく貢献できるはずである。
本年度の成果としては、これまで西アフリカで実施した考古学発掘の成果を仏文の本として出版した。これは、西アフリカ・マリ共和国の人文科学研究所の機関誌の別冊として出版したものの再版がフランスのL'Harmattann社から出版されたものであり、その書評が出ることが約束されている。

2014年度活動報告

本年度は、5年計画のうちの4年目にあたるため、これまで行く機会のなかった東アフリカ(ケニア)の高地を重点的に調査対象とする。すなわち、アフリカ研究者の池谷(研究分担者)を中心として、山本(研究代表者)、大山(研究分担者)が約10日間ケニア山(5,199m)山麓の熱帯高地を合同で踏査し、熱帯高地の環境と人々の暮らしとの関係を明らかにした。当初、この調査は熱帯アンデス(エクアドル・コロンビア)との地域間比較を目指していたが、コロンビアの治安情勢が良くないため、熱帯アンデスでの調査は次年度に延期とした。
一方、研究分担者の月原、川本はブータン等で現地調査を実施したほか、連携研究者の杉山はネパールで調査を実施した。

2013年度活動報告

前年度の調査に引き続き、研究分担者の池谷が20日間あまりペルー、ボリビア、エクアドルなどのアンデス高地で、連携研究者の鳥塚がペルー・アンデス高地で一カ月半広域調査および定着調査をおこった。研究代表者の山本は、約2週間にわたりインドネシアとインドを踏査し、南アジアの熱帯低地と熱帯高地の環境の比較調査を実施した。一方、研究分担者の大山は約2週間エチオピア高地を踏査したほか、連携研究者の稲村と杉山両名がそれぞれ約2週間ネパールに滞在して定着調査をおこなった。

2012年度活動報告

 

2011年度活動報告

本研究では、メキシコからグアテマラにかけての中米、中央アンデス、東アフリカ、そしてチベット・ネパールを「世界の4大高地」及びその周辺地域と位置づけ、そこで「高地文明」が成立したとの見通しのもとに研究調査を開始した。これらの地域のなかで、東アフリカ(主としてエチオピア)は熱帯高地という視点からの調査が乏しかったため、2度にわたり通算2ヶ月あまりをかけてエチオピア高地に広く踏査し、文化人類学や農学の視点から生態や民族、生業、遺跡分析などの調査を実施した。また、中米は従来の文献資料などでは熱帯高地と位置づけられていなかったため、研究代表者がメキシコ中央高地及びグアテマラ北部の予備調査を20日間かけて実施。その結果、メキシコからグアテマラにかけての高地部も熱帯高地であることが確認できた。そのため、本年1月末から3月末にかけて研究協力者として中米考古学の第一人者である杉山三郎アリゾナ大学教授(愛知県立大学併任教授)を中心に、考古学、文化人類学、地理学などの専門家も加えて総合的な調査を実施した。なお、研究代表者と研究分担者の本江昭夫は、11月初旬から末にかけて、チベットとの地域間比較調査のためにネパールに東部クーンブ地方を踏査し、環境や生業を観察した。また、研究代表者は本年4月末から5月初旬にかけての10日間、「インドのチベット」とよばれるラダーク地方も踏査したので、ヒマラヤ・チベットについて、さらには四大熱帯高地の地域間比較研究についても、グローバルな視野を獲得することが可能となった。