ベトナム・ハノイにおける都市民衆の相互扶助に関する人類学的研究(2012-2013)
目的・内容
本研究は、ベトナム社会主義共和国の首都ハノイにおける都市民衆間の相互扶助の生活動態の解明を目的とする、ベトナム初のストリートの都市人類学的研究である。
旧市街にあるハンホム通りは、現在は出身村落に関係なく、塗料販売をおこなっている。そこにあるハビ村の祠堂・集会所「ハビ亭」が、塗料販売の店主同士のコミュニティの場となり、商業組合としての機能を果たしている。また、路上茶屋では、「移動者」(出稼ぎの塗料販売員や荷物運搬者)がコミュニケーションを図り、ストリートの核となっている。
本研究では、こうした都市ストリートを対象に、社会主義国ベトナム都市における中下層民の生活動態の社会・経済活動に着目し、経済発展に伴い社会変容が進むなかでの、出身村の相違や経済格差を超えた都市民のネットワークのあり方を解明し、綿密な商業エスノグラフィを描いて、ハノイのストリート人類学を拓く。
活動内容
2013度活動報告
政治都市ハノイで、民衆が主体となって組織する同郷会について研究をおこなった。宗教施設・ハビ亭での月2回の活動のほか、旧正月の期間の活動にも参加して、その内容を詳しく調査した。母村であるハビ村での年2回の祭りでは、近年、行政の介入によるハビ亭の敷地をめぐる改築に関して、都市の同郷会と村の長老らとの意見の相違が争点となっていたが、同郷会の説得によって歩み寄り、都市と村の相互扶助の関係を再構築する姿勢を確認することができた。また、ハビ亭で開かれた同郷会の総会にも参加し、民衆が主体となって、組織づくりやハビ亭の運営について議論する動態を確認した。
ハビ亭が位置するハンホム通りに並ぶ塗料販売店についても調査をおこない、経済格差、地域格差を超えた相互扶助が明らかになりつつある。ハビ亭で、同郷会の非会員である塗料販売店の店主が民間信仰をおこなったことについて発表した。路上の茶屋をめぐる相互扶助に関しては、卸売のロンビエン市場も含めて論文で公表した。
村落から都市をみるかたちで、出稼ぎ労働者のコミュニティネットワークも調査した。卸売のロンビエン市場では、果物を市場から路上に運搬するリヤカー引きとともに労働に従事するフィールドワークをおこなった。これにより、出稼ぎ労働者同士の都市生活の支え合いや、ハノイの都市経済と宗教の緊密性が明らかになりつつある。都市で築いたネットワークが村落で継続される事例も確認することができた。
このほか、ハノイのキリスト教の教会の民衆有志による、地方の某隔離病棟での人道支援活動に参加する機会を得た。これによって、祖先崇拝との関わりが深い道教との相違や、民衆組織の視点からも、比較対象として意義ある調査を遂行することができた。これらに関しても知見を深めて、今後さらに研究調査をおこなっていく予定である。
2012年度活動報告