経済自由化後の南インド社会の構造変動に関する総合的研究(2013-2015)
目的・内容
本研究は、1990年代以降のインド社会の構造変動について、南インド、タミルナードゥ州及び周辺諸地域を対象に、人類学者と経済学者、地理学者などとの協働により、共同調査、資料収集、文献研究を実施して、総合的・全体関連的に研究しようとするものである。とくに、カースト制を基盤とする農村社会の比重が高かった南インドにおいて、メガシティや海外を結ぶグローバル化が進行するとともに、1)農村と地方都市を包摂する「地域(ナードゥ)・ネットワーク」を基本単位とする伝統的な社会構造の空洞化が進み(社会経済的基盤の崩壊)、2)カースト制がむしろ都市的・国家的な政治的・イデオロギー的基盤へと変化している(社会政治的意義の拡大)、構造的な社会変動の実態について実証的に明らかにすることを目的としている。
活動内容
2015年度活動報告
インド社会の構造変動に関して以下のような調査・研究を実施した。
1.南インド、タミルナードゥ州タンジャーウール県クンバコーナム市および近郊のティルップランビヤム村において補充的な共同調査を実施した。また、2011年度より実施してきた調査資料の整理作業を引き続き実施し、さらに1990、91年の調査資料との比較分析を行なった。その結果、昨年度までの教育、生活水準の変化、宗教施設の再建、に加えて、カースト間関係がいっそう複雑化していることが、実証的に明らかになった。これらの成果の一部については、日本南アジア学会第28回全国大会(9.27, 東京大学)において杉本星子らと共同報告を行なった。
2.上記宗教施設への消費の問題に関連して、ヒンドゥー教の聖地における変容を通した社会変動を比較検討するため、西インド・マハーラーシュトラ州トランバケーシュワル、北インドUP州ベナレス(ワーラーナシー)において調査研究を引き続き実施した。
3.調査対象の一農村を巻き込んだグローバル・ネットワークに関して、楽師カーストの、シンガポール、マレーシアなどのヒンドゥー寺院への出稼ぎや、現地における人的ネットワークの形成などについて調査研究を実施し、その実態を実証的に明らかにした。
4.タミルナードゥ州のキリスト教徒社会におけるカースト問題についての調査研究を継続的に実施するとともに、全体的なカースト社会の構造変動についての考察を行った。
2014年度活動報告
インド社会の構造変動に関して以下のような調査・研究を実施した。
1.南インド、タミルナードゥ州タンジャーウール県クンバコーナム市および近郊農村において共同調査を実施した。また、2011年度より実施してきた調査資料の整理作業を引き続き実施し、さらに1990、91年の調査資料との比較分析を行なった。その結果、昨年度までの教育、生活水準の変化に加えて、21世紀に入って宗教施設の再建が相次いで行なわれ、それも外部性を負った人びとのアイデンティティ戦略として実施されていることが、実証的に明らかになった。本件については2014年8月の国際地理学会で共同報告を行なった。
2.上記宗教施設への消費の問題に関連して、ヒンドゥー教の聖地の変容を通した社会変動を比較検討するため、北インドUP州のベナレス(ワーラーナシー)と、西インド・マハーラーシュトラ州のトランバケーシュワルにおいて調査研究を実施した。
3.タミルナードゥ州のキリスト教徒社会におけるカースト問題についての調査研究を継続するとともに、東インド、オディシャ州における改宗法の問題についての比較研究も実施した。
4.社会変動に関する比較研究のために、パリ、プラハ、チェンマイ、ならびにシンガポール、マレーシアなどのインド人社会における調査研究を実施し、インド人の海外ネットワークが、大都市だけでなく、村落部にまでその影響を及ぼしいることが実証的に明らかになった。
2013年度活動報告
インド社会の構造変動に関して以下のような研究を実施した。
1.南インド、タミルナードゥ州タンジャーウール県クンバコーナム市および近郊農村において共同の村落調査を実施した。また、2011、12年に同地域で実施した調査資料の整理作業を行い、1990、91年の調査資料と比較分析を行った。その結果、とくに女性の教育水準の変化が著しいこと、耐久消費財の急速な普及に政治的要因が強く働いていることなどが、実証的に明らかになった。
2.チェンナイ市のMadras Institute of Development Studiesにおいて南インドにおける工業発展に関する資料を収集し、また1980年代末に実施したティルチラーパッリ県の村落社会調査資料を分析し、クンバコーナム地域と同様、教育水準の大幅な向上が見られることが実証的に明らかになった。
3.タミルナードゥ州各地におけるキリスト教におけるカースト問題について調査を実施し、とくに改宗法の施行以後、キリスト教内部でのカースト問題が一層先鋭化している実態が明らかになった。
4.ケーララ州起源の神霊信仰が、デリー、バンガロールなどの大都市、そして海外にまで広がり、それがまたケーララ社会に影響を及ぼし、さらに世界を巡るような環流現象が顕著であることが明らかになった。また、ナグプールのマハール・カースト仏教徒の集住地区における調査により、改宗をめぐって元不可触民ヒンドゥー教徒との緊張関係が生じていること、グジャラートにおいてヒンドゥー教とカーストとの連関調査によりグローバル化の影響が大きいこと、などが明らかになった。