国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

トランスナショナルな社会運動と政治参加の人類学――オセアニア大国の移民を事例に(2013-2016)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 丹羽典生

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究は、第三世界における社会運動の特質の一端を、オセアニアをフィールドとして解明することを目的としている。オセアニアにおいては、植民地時代の宗教的・反植民地的運動、プロトナショナリズム運動の時代を経て、1980年代後半以降グローバル化の影響のもと、暴動から民族紛争、クーデタが生起する中で様々な政治的な社会運動が再度活性化している。本研究では、理論的には1980年代以降の新たな社会運動、参加型民主主義の研究、事例としては移民コミュニティと宗教復興やナショナリズムとの相関関係に関する研究を念頭に置きつつ、民族誌的記述分析を通じて、社会運動に関する文化人類学的考察を行う。最終的には、グローバル化された現在の社会運動の特質を明らかにし、さらには社会運動論に対する理論的貢献を試みたい。

活動内容

2016年度活動報告

今年度は最終年度ということで、通常の研究の推進とともに、成果のとりまとめやこれまでの補足を補うことを念頭に置きつつ調査研究を遂行した。海外調査としては、ニュージーランドとイギリスで行った。前者では移民コミュニティへの聞き取りもはさみつつ、大学や図書館にて関係資料の閲覧を行った。後者では、国立公文書館を中心に移民関係の歴史資料の収集・閲覧を行った。
国内では、アルバイトを雇用しつつ、これまでに収集してきた関係資料の整理・統合とデータベース化を進めた。ことに膨大な新聞資料については一定程度の整理に進捗が見られ、それらから先住民の婚姻戦略に関する貴重なデータと紛争時における少数民族の対応についての情報を整理することができた。また申請者の調査では情報があまり得られなかったオセアニア大国へ移民して、コミュニティネットワークを形成している少数民族の来歴と現状について、関係研究者との意見交換を通じて情報入手に努めた。
成果としては、日本文化人類学会のほか、日本オセアニア学会にて1件の学会発表を行った。あわせて学会中には、研究関係者と情報交換を行い今後の研究の進め方について意見を交わすのみならず、数多くの研究発表を拝聴することで研究課題と関連する研究課題についての知見を深めることができた。また、2冊の論集に一本ずつ合計2本の論文を発表した。それ以外の短いものとしては、エッセイ7本、翻訳1本を公表している。

2015年度活動報告

今年度は、オーストラリアにて大国の移民の状況に関する情報の収集を行った。キャンベラにおいては、大学図書館と国立図書館にて関係資料の収集・閲覧を行った。ブリスベンにおいては大学にて情報収集を行うと同時に、移民への聞き取りを行った。アデレイドにおいては、移民博物館や先住民博物館を中心に資料の閲覧・収集を行った。
またフィジーにおいて、フィジー移民に関する現地語での情報収集に関して調査協力者と情報交換を行った。今後のオセアニア大国での調査地のより具体的な策定や今後のフィジー語で行う調査の方向性についても打ち合わせを行った。
またこれまで購入した機材を用いて、関係調査資料のデータの整理を行った。
成果としては、編著(『<紛争>の比較民族誌――グローバル化におけるオセアニアの暴力・民族対立・政治的混乱』春風社(丹羽典生編))を刊行した。序論のみならず、各論も一本寄稿している。また、それ以外にも、論文を二本執筆しており、来年度内に刊行の予定となっている。

2014年度活動報告

オセアニア大国における移民社会の形成という歴史的軸からと、現在の状況からという二方向から対象に接近を行った。後者については、オーストラリア(メルボルン、キャンベラ、ブリスベン)、ニュージーランド(オークランド)にて、関係者や研究者との情報交換と現地調査を行った。また、フィジーの政治的混乱に際して、トンガとのネットワークが果たした役割が知られているが、その点についても、トンガにおいて若干の調査を行った。前者については、オーストラリアの公文書館、国会図書館、オーストラリア国立大学図書館、オークランド大学図書館及び書店にて、関係資料の収集・閲覧を行った。また、オセアニア大国における移民社会形成の文脈に関する歴史史料の収集のため、海外では収蔵されていないオセアニア大国への移民関係資料の収集閲覧を日本で行った。これまで収集した関連書籍、資料の整理を効率的に行うため、アルバイトを雇用した。
成果公開としては、編著の編集を行い、現在出版助成の内諾を得たので、来年度中に刊行の予定である。それ以外ではエッセイなど短い文章を複数刊行した。口頭発表は、本研究課題の進捗状況も2年目に入ったので、社会運動論、政治参画について人類学的な理論を念頭に置き、危機への対応という文脈にて、また、保守思想と文化的政治的サポートの表明という文脈というそれぞれのパネルにて、研究発表を行うことで、オセアニアからの事例に基づき、それを組み合わせつつ、より一般的な人類学的研究課題へと昇華することを試みた。あわせて成果報告を見据えた研究者との打ち合わせも適宜行っている。

2013年度活動報告

本年度は、これまで収集してきた研究関係資料の集約と整理に予算を用いることで、未整理であった資料のデータベース化を進めた。
成果としては、ハワイで開催された国際学会オセアニア社会人類学会にて研究発表を行った(「Ethnographic research and written Fijian testimonies: from studies of social movements around 1950」)。国内では、日本オセアニア学会及び各種の研究会にて発表を行った。
また、本研究課題のための集まりをもち、研究に関する情報交換を行った。以上の学会、研究会の場では、来年度以降の調査のため専門家相互の情報ネットワークを構築することを試みた。特に国際学会では、本研究課題ともかかわるプロジェクトの遂行について海外及び現地人研究者とのあいだで将来に向けての打ち合わせを行った。
著作・論文については、編著を編集中であり、原稿が概ね集まりつつある。近日中の刊行を目指して編集を進めている。