国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

スイスにおける高齢者のウェルビーイングと代替医療の適用に関する文化人類学研究(2013-2015)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 鈴木七美

研究プロジェクト一覧

目的・内容

社会の高齢化に伴い、完治困難な心身の不調への対応として、養生法や代替医療への関心が高まっている。本研究の目的は、「補完代替医療(CAM)」や「ヒーリング・オルタナティヴス」とも呼ばれてきた、近代西洋医学(コスモポリタン医学)に一体化されない代替医療や養生の実践と、地域における治療・養生に関する考え方や制度との関係を、高齢者ケアの充実という観点から検討することである。
調査対象とする主な地域は、近代西洋医学とホメオパシー(同種療法)の併用を基盤として植物療法など多様な民間医療・代替医療が実践されてきたスイスである。ホメオパシー及び植物療法に関し、スイスと影響関係にあるドイツやアメリカ合衆国と比較しつつ検討することにより、地域資源を生かした治療やヒーリングの実践の可能性について、様々な領域の研究者・実践者が参照可能な形で、フィールドワークに基づく成果を具体的に呈示する。

活動内容

2015年度活動報告

今年度はスイスやドイツで補足調査を行い、高齢者が補完代替医療を適用する場や機会に注目し、ウェルビーイングを構成する要素や意味について検討した。
自宅から高齢者対象集合住居施設やナーシングホームに移動したことによるストレスや不調に対し適用されてきた補完代替医療は、その施術の時間も合わせて、高齢者が施設やスタッフなど新しい環境に適応する機会を与え、とくに多世代共生型環境では、高齢者が新しい街の住人として生活する支援となっていることが明確となった。認知に問題のある高齢者に対する補完代替医療は、地域の食材を使った調理と飲食に基づく養生法や自然とのふれあいと休息など、日常活動とリズム調整が併用されることによって、施設居住であっても地域居住を充実させることに繋がっていることが判明した。
スイスの補完代替医療や養生文化について収集した資料について翻訳を進め、論考の作成を行った。代替補完医療を特徴とする高齢者対象生活支援付住居の展開に関する研究成果を広く一般に発信した講演会の内容を発展させ、ウェブで発信した(「高齢期のウェルビーイングと多様な住まい方―変わりゆく人の生(ライフスタイル)から考える」)。
スイスの高齢者たちが親しんできた地域の癒し文化と養生思想に関する知見を、日本薬学会のホームページを通して広く医療従事者・研究者および一般に向けて提供し(「スイスにおける養生文化とエイジ・フレンドリー・コミュニティ」)、成果の一部を日本文化人類学会研究大会において報告し、さらに一般・研究者を対象とした招待講演などにおいて発信した(「医療現場での想像力――エイジング・イン・プレイスと養生」「スイスの高齢者たちが親しんできた地域の癒し文化と養生思想」)。

2014年度活動報告
2013年度活動報告

社会の高齢化に伴い、心身の不調への対応として、養生法や代替医療への関心が高まっている。本研究の目的は、「補完代替医療(CAM)」や「ヒーリング・オルタナティヴス」とも呼ばれてきた、近代西洋医学(コスモポリタン医学)に一体化されない代替医療や養生の実践と、地域における治療・養生に関する考え方との関係を、高齢期の充実という観点から検討することである。
近代西洋医学と多様な民間医療・代替医療が実践されてきたスイス、及びホメオパシー(同毒療法)や植物療法に関し、スイスと影響関係にあるドイツやアメリカ合衆国と比較しつつ、情報収集・現地調査を展開した。健康長寿との関係で注目されている代替医療の中でも、現代医療と併用されているホメオパシーを中心に、ドイツのロバート・ボッシュ研究所にて集中的に基本的情報・資料収集を行った。また、高齢者が暮らしやすい町づくりを推進しているハイデルベルク市において、高齢者と若者世代が共に作る環境と養生に配慮した暮らしの場について、情報を収集した。高齢者ケアと補完代替医療については、スイス中部地域において、高齢者ケアにフィトセラピーを活用している高齢者対象生活支援付き住居施設で基本的資料を収集し現地調査を行った。この施設は、障害者が学び働く場、子どもたちの教育の場、農産物生産の場、コンサートホールやレストラン・ホテルなど外部に開かれた場などを併設する統合的施設である。
地域資源を生かした治療やヒーリングの実践の可能性について、国内外の研究集会で発表し議論を深め、情報収集した。高齢者のウェルビーイングと生活に関する情報を収集し、議論を深めるため、国際民族科学連合(IUAES)2013世界大会に参加し、健康長寿・多世代共生をテーマとした国際パネルで発表した。また、ウェルビーイングとケア・養生の文化に関し、第20回日本未病システム学会学術総会にて、招待講演を行った。