国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

アフリカの無形文化保護における民族誌映画の活用(2013-2016)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|若手研究(B) 代表者 川瀬慈

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究の目的は、エチオピアの無形文化を対象にした民族誌映画を事例に、映像を活用した文化保護モデルの構築を目指すことである。近年、無形文化遺産の保護を推進しているUNESCOは、アフリカの無形文化を映像によって記録し活用する方法を推奨している。しかし、国際機関が掲げる記録・保護すべき無形文化遺産の理念と、地域住民の無形文化に対する認識の間に溝があり、対象地域における映像記録の活用に関する議論が十分に行われていない。本研究では、保護すべき「無形文化遺産」について、応用映像人類学的な観点から検討し、今日消滅ないしは著しい変容を強いられているアフリカの無形文化を対象にした望ましい映画制作・活用の指針を示す。

活動内容

2016年度活動報告

平成28年度は、同志社大学において開催された国際会議2016 AAS-in-ASIA - Association for Asian Studies(6月)、ブレーメン大学人類学・文化調査学部において開催されたシンポジウム(7月)、ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ大学フランクフルト・アム・マイン、フロベニウス研究所において開講されたエチオピア研究に関わる連続リレー講義での招待講演(7月)、山東大学哲学与社会発展学院人類学系でのセミナー(12月)、メケレ大学でのセミナー(1月)、木浦大学島嶼文化研究所での国際会議(2月)、韓国外国語大学アフリカ研究所のセミナー(2月)、そして韓国国立民俗博物館での国際シンポジウム(2月)等、国内外の国際会議やセミナーの場において研究成果の報告を行った。エチオピア北部の無形文化を対象に制作してきた民族誌映画の上映を通し、映画を視聴する側の人々(被写体の人々、現地社会、エチオピアのディアスポラ、エチオピア国内外の学界)との議論を前提とした、民族誌映画制作、ひいては人類学の映像実践の方法論について各国の研究者と意見交換を重ねることができた。以上の場のうち、フロベニウス研究所、ならびに韓国国立民俗博物館で発表した論文はそれぞれの機関が発行する学術雑誌に平成29年度中に掲載される予定である。
以上の研究成果発表と平行して、平成29年1月にエチオピア連邦民主共和国北部のメケレにおいてフィールドワークを行った。現地のメケレ大学の歴史人類学部や、当大学に新設された民族音楽学部の教員たちと、報告者の民族誌映画、さらには未編集のフッテージ映像のアーカイビングや、同大学での活用に関するプロジェクトの立案についての意見交換を行った。本プロジェクトについては今後の研究課題としていきたい。

2015年度活動報告

平成27年度は10月から11月にかけて、エチオピア連邦民主共和国において調査を行った。本調査では、エチオピア北部の地域社会において音楽を担う職能集団の活動を対象に報告者が制作した民族誌映画を被写体や被写体の親族と視聴するなかで、当集団の社会集団としての特質の変容、技能の伝承、さらに他集団に対して映画を通してアピールしたい自集団の理想像について議論を交わすことができた。11月に大英図書館World & Traditional Music部門において、報告者が過去に制作した民族誌映画やフッテージ、約13点をアーカイブした「Itsushi Kawase Collection」の活用に関して調査を行った。民族誌映画のアーカイビングや活用をめぐる課題や今後の展望に関して、関係者と議論を行った。
日本文化人類学会機関誌 『文化人類学』80巻1号の特集「人類学における映像実践の新たな時代に向けて」において、近年の民族誌映画の研究潮流を考察する論文(特集序文)、並びに本研究課題に関する論文、計2本を発表した。以上の2本の論文では、民族誌映画を視聴する側の人々の役割を映像人類学が軽視してきたことを指摘し、民族誌映画の制作と公開をめぐる議論を通して生まれる、研究者と調査対象の人々との関係性の変化、あるいは映画公開によって創出される社会との新たなつながり、について考察した。作品を、被写体や、それを視聴する人々との創発的な営みのプロセスにあると位置づけ、映像実践をともなう人類学研究の可能性について検討した。

2014年度活動報告

平成26年度は5月に開催された日本文化人類学会50周年記念国際研究大会(IUAES 2014、於:幕張メッセ)にて『New Horizon of Anthropological Films from Japan』と題した上映企画を行い、各国の映像人類学者と映像民族誌の制作方法論に関する議論を行った。さらに、学術雑誌『年報カルチュラル・スタディーズ』第2号の映像人類学特集企画に、研究課題に関する論稿を発表した。年度後半には、編著者として関わった出版物『フィールド映像術』(古今書院)、そして『アフリカンポップス!文化人類学からみる魅惑の音楽世界』が刊行された。これらの出版物を通して、報告者の制作方法論の変遷や作品に対する様々な社会的文脈における視聴者の反応について考察した論稿を発表した。報告者が制作した映像民族誌の特集上映が以下の場や機会に企画・実行され、フランスを除くすべての会に参加し、上映後の討論に参加した。
第7回中華人民共和国映像人類学会年次総会/貴州師範大学(中国、8月、2作品の上映)、ブレーメン大学人類学・文化調査学部(ドイツ、11月、5作品の上映)、トロムソ大学映像文化研究科+トロムソ大学博物館(ノルウェー、11月、8作品の上映)、第8回シネマ・ヴェリテ・国際ドキュメンタリー映画祭(イラン、12月、2作品の上映)、La Péniche ANAKO(フランス、2月、3作品の上映)さらに、全州市(大韓民国)において10月に開催された第1回無形遺産国際映画祭においては、企画構想段階から、アドバイサー的にかかわり、映画祭当日も、報告者の作品上映を行った。

2013年度活動報告

平成25年度は、民族誌映画「ザフィマニリスタイルのゆくえ」を制作し、みんぱく映画会で公表した。エチオピア北部において調査を行い、伝統的な刺青の変容をテーマにしたインスタレーション作品「Tattoo Gondar」を制作し、東京都写真美術館において開催された第6回恵比寿映像祭において発表した。
ブレーメン大学人類学部、ハンブルグ大学アジア・アフリカ研究科、愛知県立大学、ブリュッセルSoundImageCulture、ルードヴッヒ美術館Filmforumにおいて、報告者の作品の特集上映が開催され、報告者はすべての上映・討論の場に参加した。報告者のこれまでの民族誌映像制作と上映活動に対して、日本ナイルエチオピア学会より第19回高島賞が与えられた。
よこはま創造都市センターにおいて開催された第五回アフリカ開発会議(TICAD )パートナー事業「Sound / Art - Tuning in to Africa」、マンチェスター大学において開催されたIUAES2013民族誌映画上映プログラム、上記の第6回恵比寿映像祭に、報告者は企画の段階から関わり、アフリカの無形文化の映像記録に関心を持つ研究者、アーティスト、行政関係者と幅広い交流を行い、無形文化保護における民族誌映画の活用に関する意見交換を行うことができた。また、2014年に開催が予定されている第12回ゲッティンゲン国際民族誌映画祭の作品選抜委員として、出品された作品の審査・選抜、上映プログラムづくりに関わり、アフリカをテーマにした最新の民族誌映画作品に関する情報を収集した。