国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

紀元後5世紀イロパンゴ火山噴火前後のメソアメリカ太平洋沿岸部の生業と社会の研究(2013-2015)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|特別研究員奨励費 代表者 市川彰

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究の目的は、次の3点である。
(1)先古典期から古典期にかけてのメソアメリカ太平洋沿岸部の製塩活動と社会の実態を解明すること
(2)イロパンゴ火山噴火が沿岸部社会に与えた影響を解明すること
(3)紀元後5世紀イロパンゴ火山の巨大噴火前後のメソアメリカ太平洋沿岸部の生業と社会の特質について考古学的に明らかにすること

活動内容

◆ 2015年4月より転出

2014年度活動報告

本研究の目的は、1)先古典期から古典期(紀元後100年から900年)にかけてのメソアメリカ太平洋沿岸部の製塩活動と社会の実態を解明すること、2)イロパンゴ火山噴火が沿岸部社会に与えた影響を解明すること、そして3)紀元後5世紀イロパンゴ火山の巨大噴火前後のメソアメリカ太平洋沿岸部の生業と社会の特質について考古学的に明らかにすることにある。本研究の遂行により、「沿岸部社会・塩・火山噴火」というメソアメリカ考古学研究において重要視されながらも研究の実現が困難であった、もしくは調査研究が不十分であった課題を克服することが可能となり、生業研究や災害考古学への貢献が期待できる。研究成果は以下のとおりである。
ヌエバ・エスペランサ遺跡の考古学調査では、発掘調査に加えて大量に出土する粗製土器片に付着する白色物質の化学分析、土壌成分の分析をおこなった。その結果、エルサルバドル太平洋沿岸部では少なくとも紀元後100年頃にはすでに集約的な土器製塩活動が存在し、それらは植物質食料(C4植物)を中心として定住生活を営む社会集団による季節労働であると推察され、製塩活動以外にも黒曜石などを遠隔地から入手し、墓には往時の社会的地位などを反映させていたことが明らかとなった。またイロパンゴ火山灰との層位的関係・出土遺物の分析の結果、噴火年代は紀元後400から450年頃、噴火時に儀礼をおこなう時間が存在したこと、つまり避難する猶予が存在したことが明らかとなった。
また、イロパンゴ火山灰との層位的関係の明瞭な遺跡から出土した土器の型式学的分析や放射性炭素年代測定によって、火口からの距離によって噴火のインパクトが異なることを明らかにし、先スペイン期の人々の多様な火山噴火への対応の一部を考古学的に明らかにした。

2013年度活動報告

本研究の目的は、(1)先古典期から古典期にかけてのメソアメリカ太平洋沿岸部の製塩活動と社会の実態を解明すること、(2)イロパンゴ火山噴火が沿岸部社会に与えた影響を解明すること、以上の2点を総括し、(3)紀元後5世紀イロパンゴ火山の巨大噴火前後のメソアメリカ太平洋沿岸部の生業と社会の特質について考古学的に明らかにすることである。
【イロパンゴ火山噴火の年代とインパクトに関する研究】
火山灰との前後関係が明瞭なチャルチュアパ遺跡出土の建造物と土器を分析し、噴火年代は紀元後400〜450年頃、火口から西約80kmに位置するチャルチュアパでは従来の研究が示すような壊滅がおきるほどのインパクトはなかったことを確認した。また、火口から東に約55km離れたヌエバ・エスペランサ遺跡調査成果を検証したところ、噴火時に避難する猶予が存在したことがわかった。
【ヌエバ・エスペランサ遺跡の考古学調査】
イロパンゴ火山灰に覆われた太平洋沿岸部集落であるヌエバ・エスペランサ遺跡の考古学調査をおこなった。その結果、当該地域では初となる高さ約2m、長さ約70mの人工の土製マウンドを発見した。これらは大量の粗製土器片、炭化物、焼土片からなる。
【エルサルバドル太平洋沿岸部集落における20世紀の製塩活動に関する調査】
調査地域で近年まで存在した、つまりすでに消失してしまった塩田での製塩活動に関する聞き取り調査を実施した。塩田跡地の記録、製塩方法および当時の経済状況などについて記録することができた。また、別の村落で、塩田による製塩活動以前におこなわれていた製塩方法、つまり鉄釜を用いた製塩活動に従事していた人物に聞き取り調査を実施した。