日本国内の民族学博物館資料を用いた知の共有と継承に関する文化人類学的研究(2014-2017)
目的・内容
本研究は、フォーラム化する民族学博物館と文化人類学の趨勢を加速化させる最先端の学術調査を実施することで、新たな理論的展望を拓くことを目的とする。具体的には、日本国内の複数の民族学博物館が所蔵する米国先住民ホピ製木彫人形資料を対象として、研究代表者、所蔵機関担当者、資料を制作し使用してきた人々(ソースコミュニティ、以下SC)の3者で熟覧を行う。既存の資料情報や資料分類を現代のSCにおける文化的文脈に則した見解と照合することで、二つの異なるコンテクストにおける知(資料情報・伝統的知識)の継承の実態を検討する。加筆・修正した情報と熟覧の様子はデジタル化してまとめて両者へ還元し、さらなる知の継承の展開を図る。
活動内容
2017年度活動報告
最終年度となる本年度は、研究成果の公開に向けた作業を中心に行った。2015年11月に実施した天理大学附属天理参考館での24点の「ホピ製」資料熟覧の報告書と、2015年4月と11月に実施した国立民族学博物館での184点の「ホピ製」資料熟覧の報告書を編集した。成果は2つの展示会として広く公開することもできた。
国立民族学博物館での特別展示(太陽の塔からみんぱくへ――70年万博収集資料、会期約3ヶ月)にて、映像作品の展示を行った。その映像は、本プロジェクトの一環として実施した資料熟覧調査中に撮影したものであり、カルチャル・センシティビティへの配慮などの編集を済ませて映像作品として完成させた。本展示会で担当した「北米」コーナーの展示手法は、メディアでも注目を集めた(産経新聞1面2018年3月31日夕刊、読売新聞関西版3面2018年4月16日夕刊、『芸術新潮』)。天理大学附属天理参考館での企画展(大自然への敬意――北米先住民の伝統文化、会期約2ヶ月)で展示する映像の編集や図録の執筆などを行った。また、別予算で構築中のデータベースはデザインとプログラムが概ね完成したので、そこに移行するさまざまな形式のデータ整理も行った。さらに、民族学博物館資料を用いた知の共有と継承を促進させるために博物館資料とソースコミュニティの人々との「再会」を実現させることを目指した本プロジェクトの新展開として、ソースコミュニティの若手アーティストの教育機会につなげる国際ワークショップを米国で二度開催した(2017年8月から9月の6日間にわたって実施した国際ワークショップ「博物館とディセンダントコミュニティおよびソースコミュニティとの協働」、2017年10月に2日間にわたって行った国際ワークショップ「博物館資料とソースコミュニティとの『再会』の地元教育現場への展開」)。
2016年度活動報告
3年目となる2016(平成28)年度は、招待講演や国際学会等での口頭での研究発表(14本)、5本の短文エッセイの執筆、1本の査読付き論文の刊行、2本の査読付き編著の出版を行った。
本年度もほぼ計画通りに研究を実施した。
主な実施内容は、第一に、専門的知識を有する宗教指導者やアーティストの日本の博物館への派遣とそこでの資料調査である。4月と10月に、それぞれ3名と1名の米国先住民ホピの宗教指導者らを広島県福山市松永はきもの資料館に招聘し、収蔵する324点の木彫人形の熟覧調査を行った。第二に、連携機関との情報共有であり、昨年度(平成27年11月)に資料熟覧調査を実施した愛知県犬山市の野外民族博物館リトルワールドにて、プロジェクトの進捗について公開講演会を開催した。第三に報告書や論文の執筆と刊行であり、査読付き学術雑誌(『社会人類学年報』)に投稿した論文が採択・出版し、『国立民族学博物館調査報告』に投稿した編著が二冊採択・出版した。
2015年度活動報告
2年目となる2015(平成27)年度は、4月と11月にそれぞれ2週間程度の期間で資料熟覧者の招聘を行い、国立民族学博物館、リトルワールド(愛知県犬山市)、天理大学附属天理参考館(奈良県天理市)での資料熟覧調査を実施した。
また、国際ワークショップを2度主催した(4月:『資料熟覧――資料熟覧のためのソースコミュニティ招聘プロセスと人類学的ドキュメンテーションの検討』、2月:『フォーラム型情報ミュージアムのシステム構築に向けて――オンライン協働環境作りのための理念と技術的側面の検討』)。
その他の国際ワークショップでの発表を含め、2カ国4機関での熟覧調査、13度の研究発表・招待講演・ソースコミュニティにおける現地報告会を行った。また、4本の論文・報告書・エッセイの執筆を行った。さらに、国立民族学博物館のフォーラム型情報ミュージアムプロジェクトの機会を利用し、これまでに資料熟覧の様子をデジタル記録化したデータを、デジタルビューアにまとめる作業を開始し、そのシステムデザインの監修も行った。
2014年度活動報告
国立民族学博物館が所蔵する米国南西部先住民ホピが制作した木彫人形資料約300体のphotoVR制作を行った。PhotoVR制作では、まず立体資料を0度、30度、60度、90度角においてそれぞれ全周を水平に36分割し静止画を撮影する。それに底面写真を加え、145枚一組のファイルとして加工することで、資料をPC等のモニター上でハンドリングしているように操作することを可能とする(バーチャルリアリティ化)。本研究では(1)ソースコミュニティ(SC)からの招聘を基にした日本国内の博物館での熟覧と、(2)日本に招聘できなかった人々を対象にした現地での擬似熟覧が必須となる。この(2)を円滑に行うためにphotoVRのための撮影と加工を初年度に行った。
10月には計画通りにSCから招聘し、資料熟覧に関する国際ワークショップ(Collection Review: Methodology and Effective Utilization for the Museum and the Source Community)を国立民族学博物館で開催した。別の財源によって招聘した博物館関係の研究者(日本、米国、スコットランド)とともに資料熟覧に関する方法論を議論した後、実際にホピの人々による資料の熟覧を行った。その過程全ては映像記録化した。招聘期間は土日祝日を含む2週間であり、この間に約140点の熟覧が終了した。SCの帰国後は熟覧時の文字起こしと言語のチェック、日本語への翻訳作業を進めた。一部は日本語字幕付きの公開用動画資料としてほぼ完成した。
また、平成27年度に実施予定のリトルワールド(愛知県犬山市)へのSCの派遣について平成27年1月にリトルワールドにて学芸員と打ち合わせを行った。