国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

滞日ネパール人の生活実践と労働動態の研究(2015-2016)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|若手研究(B) 代表者 森田剛光

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究は、近年、日本で増加する滞日ネパール人の生活実践と労働動態を明らかにするものである。日本にいるネパール人人口は、南アジア諸国からの在留者中、最も多くなった。法務省在留外国人統計上、ネパール人としてひとまとめにされているため、ネパール人社会の多民族性、多言語性、多文化性は、表に現れない。そこで、ネパール人社会内の競合、あるいは共同、日本でどのように生活しているかという、その具体的かつ詳細な生活戦略を明らかにすることを第1の目的とする。かつて多数見られたネパール人不法滞在者は減少し、正規の在留資格を持つ労働者、留学生の比率が高まっており、「来住」「在日」というよりも「滞日」のネパール人の生活動態を捉える必要がある。これを第2の目的とする。

活動内容

◆ 2015年4月より転入

2016年度活動報告

本研究は、近年、日本で増加するネパール人移住労働者を滞日ネパール人と名づけ、彼ら/彼女らの生活実践と労働動態を明らかにすることを目的とする。震災、社会情勢の変化により、調査手法の方針転換を行った。この目的のために本年度は、復興支援活動を行うネパール人達に協力しつつ、個別に滞日ネパール人のライフヒストリー調査と、移民となるネパールの人々を送出する環境について、ネパールでの現地調査を行った。
日本にも多くの移民労働者を輩出するネパールの民族集団、タカリーの12年に一度行われる大祭、ラワペーワにタカリー民族協会から招待を受け、参加した。国内外から集ったタカリーの人々の調査により、帰国後の変化、生活実態を把握し、滞日ネパール人の歴史状況を深く知る上での多くの知見を得た。さらに同大祭に参加していた期間、マイケル・ビンディング、ウィリアム・フィッシャーら欧米ネパール研究者らと日本のネパール研究とその発信について議論した。
在留資格別で上位を占め留学生として日本へ向かうネパール人も急増していることから、ネパールでの留学生を送り出す教育関係者、日本へ向かったネパール人留学生を抱える親族・関係者、および留学希望者へインタビュー調査を行った。日本での受入体制やライフサポートの不備に関し、一部社会問題化している実態と日本政府の現地対応の知見を得た。ブローカーとのやりとり、留学までの一連の流れを確認し、ネパール国内の留学生をとりまく状況を明らかにするとともに移民労働者の増加の歴史的経緯とその重要な背景となっている最新の国際労働市場と経済の国際化の進展についての理解が得られた。以上の調査研究から、滞日ネパール人研究、移民研究の深化につながる知見を得ることができた。

2015年度活動報告

本研究は、近年、日本で増加するネパール人移住労働者を滞日ネパール人と名付け、彼ら/彼女らの生活実践と労働動態を明らかにすることを目的とする。この研究は、ネパール人と日本社会との永続的かつ良好な発展を希求し立案された。研究代表者が、研究開始以前から滞日ネパール人の増加にともなうコミュニティの変質と日本人との関わりの変化について、双方が事解する重要性を説き、全数調査の必要性をネパール人社会に提案してきた。
本研究は、質問票による悉皆調査の定量データを用いた統計解析と対面インタビュー、ライフヒストリーの記述による定性調査の分析と統合によって滞日ネパール人の生活状況に関する統合的理解の定時を目指す。
本年度は、本研究の次年度に当たり、引き続き、全数調査システムの構築と運用をすすめた。ネパール人有志と設置した調査委員会を中心に、協力者の組織化と連携し、意見を取りまとめた。当初予定していた質問票を状況の変化から紙媒体の送付ではなくweb、電子ベースに変更し検討した。
しかしながら、本研究も2015年4月25日に発生したネパール大地震の影響を受けた。震災直後から委員会メンバー、駐日本ネパール特命全権大使、在日本ネパール大使館、関連諸団体・組織の全てが、震災支援と復興活動へと向かい、十分な連携と調査を進められなかった。そのため、復興支援活動を行うネパール人達に助力しつつ、個別に滞日ネパール人のライフヒストリー調査を並行して行った。加えて、日本に在住するネパール以外の滞日外国人を研究比較対象としてインタビュー、文献を中心に収集、検討した。
次年度は、本研究の最終年度であるが、ネパール本国の社会・政治状況による影響を踏まえ、特に進展が遅れている全数調査システムの構築を急ぎ、悉皆調査の定量データを収集し、研究成果を報告書にまとめる予定である。