国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

宗教と公共性をめぐる人類学的研究――現代中国におけるイスラーム復興運動の事例から(2014-2016)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|特別研究員奨励費 代表者 奈良雅史

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究の目的は、「改革・開放」以降の中国において、ムスリム・マイノリティの回族が中心となって担ってきたイスラーム復興運動が、他民族・非ムスリムと共同し、より広い「公益」を志向する社会運動として展開してきたプロセスを描き出すことで、宗教や民族を越えた公共性のあり方を論じ、新たな理論的モデルとして提示することである。
本研究では、以上の目的を達成するために、第一に、イスラーム復興運動に関わる回族、他民族・非ムスリムそれぞれの視点から、イスラーム復興運動の実態の変化、特にその運動で志向される「公益」の変化を民族誌的な事例をもとに明らかにする。また、その際、宗教活動に大きく影響する中国共産党の宗教政策、政府による政策の実施状況についても明らかにする(課題(1))。第二に、本研究の中心的な調査地である雲南省におけるイスラーム復興運動は、イスラーム思想的にも経済的にもミャンマーやタイへと拡がった雲南系ムスリムの影響を強く受けていることを踏まえ、現地調査を通じて、国外の雲南系ムスリムの影響との関わりから「公益」の変化を明らかにする(課題(2))。第三に、以上の成果に基づき、宗教と公共性に関する理論的研究を行う(課題(3))。

活動内容

◆ 2015年9月より転出

2015年度実施計画

本年度は、上記の研究目的の〈課題(2)〉、〈課題(3)〉についての中心的に取り組む。具体的な研究実施計画は以下である。
4月~6月:ボルドー政治学院へ研究留学をし、多くのムスリム・マイノリティを抱えるフランスにおいて、現地の研究者との交流を行い、最新の研究動向を確認すると共に、〈課題(3)〉に関する文献資料の調査を行う。また、5月には〈課題(1)〉に関する論文を日本文化人類学会の機関誌『文化人類学』に投稿する。また同月、ボルドー大学で国際会議"Junior Researchers Meeting on Asian Studies"に参加し、口頭発表を行い、フランスをはじめとする欧州の研究者との積極的な交流を持つ。
7月~9月:7月に雲南省で〈課題(2)〉に関する現地調査を1か月ほど実施し、その成果を踏まえ、8月にマレーシア・クアラルンプールで開催される国際会議・第一回“Sino-Muslim Forum” Annual Conference、およびドイツ・エアフルトで開催される国際会議・第21回World Congress of the International Association for the History of Religions (IAHR)に参加し、口頭発表を行う。そこでの海外の研究者との交流を踏まえ、さらに9月に雲南省で〈課題(2)〉に関する現地調査を1か月ほど実施する。
10月~1月:ボルドー政治学院に戻り、調査データの整理、分析を実施すると共に、〈課題(3)〉に関する文献調査を引き続き行う。また、2013年度に提出した博士論文の出版に向けた準備を進める。
2月~3月:雲南省において一か月ほど、これまでに不十分だったデータ収集のための現地調査を行う。それを踏まえ、これまで検討してきた〈課題(3)〉に関する理論的枠組みでの分析・考察を行う。その成果をアジア研究学会(AAS)の年次大会に参加し、英語で口頭発表を行い、海外の研究者との積極的な交流を持つ。その成果を英語論文の形でまとめ、アジア研究学会の発行する英語の学会誌“The Journal of Asian Studies”に投稿する。また、博士論文を刊行する。

2014年度活動報告