国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

令和元年度文化資源プロジェクト一覧

 

 

調査・収集

本プロジェクトは、2018年に開催した特別展「工芸継承-東北発、日本インダストリアルデザインの原点と現在」で出展した北村繁氏作の漆工品「華ひらく」を、標本資料として購入したものである。本作品の制作者である北村繁氏は、正倉院や春日大社の漆工品の修理を通じて、奈良時代の漆工技術を活かした作品づくりをおこなっている。
内山春雄氏にタッチカービング(ダーウィンフィンチ)5体の制作を依頼し、購入した。これまでにも民博では内山氏のカービング作品を「さわる標本資料」という位置付けで収集してきた。今回、生物進化の歴史を示すダーウィンフィンチが加わることで、一連のコレクションは厚みを増した。鳥の生態を触覚によって理解する体験は万人にとって貴重だろう。購入したカービングは、2020年秋の特別展「ユニバーサル・ミュージアム」において展示される予定である。
本プロジェクトは、茨城県日立市十王町において継承されている野生のウミウの捕獲作業を対象とし、捕獲において使用される道具の一式(捕獲用カギ棒やウミウを各地に運搬する籠など)を購入したものである。
提案書の提出時は、2021年の春に企画展「客家と日本」(仮)の開催を想定しており、その収集のための調査をおこなう予定でいた。この企画展は、台湾客家文化センターが2020年に開催する予定であった企画展「台湾客家と日本」(仮)の標本資料を半分以上貸借することを前提としており、そこで収集されないであろう日本国内、中国、香港、東南アジアの資料を、今回の収集プロジェクトにて調査・補足する予定でいた。だが諸々の要因により台湾ではまだ企画展の開催が進んでおらず、2021年春の企画展は実現不可能となった。また、標本資料の保管のありかたを含めて収集や企画展構想を再調整する必要がでてきたため、今回の調査を見送らざるをえなくなった。したがって、本年度は予定していた成果をあげることが困難であると判断し、調査を中止し、調査費を全額返納するべきであると考えている。以上の変更・中止について心からお詫び申し上げたい。

 

 

展示

本展示では、常識や慣習から逸脱した「異」なるもの(異境・異界・異人・異類)をめぐる人間の心理と想像力の働きを解明し、自然界と想像界の相関関係の歴史的変遷とその基層にある心性メカニズムを、学際的・多元的視点から究明した。具体的には、人魚、龍、河童、天狗、狼男など、この世の「キワ」にいるかもしれないと信じられていた驚異や怪異にまつわる民族資料、絵画、書籍などの展示を通して、人類に普遍的な思考回路と文化ごとに異なる事象の関係についての考察を喚起した。
本プロジェクトは、民博所蔵の「時代玩具コレクション」(多田コレクション)の調査研究や、民博共同研究「モノにみる近代日本の子どもの文化と社会の総合的研究―国立民族学博物館所蔵多田コレクションを中心にして」(研究代表者 是澤博昭)の成果をもとに、平成31年3月21日から令和元年5月28日まで、本館特別展示館において特別展「子ども/おもちゃの博覧会」を開催した。あわせて、民博ゼミナールなどの関連催し物を開催した。
世界各地の先住民が大切にしている「宝」をキーワードに、写真や動画、絵画や漫画などのメディアも活用しながら、それぞれの地域の先住民の暮らしや現状を紹介する。「宝」には、狩猟具、装身具、儀礼具、その他の生活用具などの具体物だけではなく、伝統的な生活、森や海などの自然環境、言語、信仰、芸能なども含まれる。先住民運動や文化復興運動などが隆盛し、民族アイデンティティが活性化している状況にも配慮しながら、展示全体のストーリーを構成する。(新型コロナウイルス感染のさらなる拡大の防止のため、臨時休館したことに伴い、開催時期を令和2年3月19日~6月2日から令和2年10月1日~12月15日(予定)に変更した。)
企画展「旅する楽器―南アジア、弦の響き」を、平成31年2月21日〜5月7日の会期で開催し、期間中の関連イベントとして研究公演(1回)とギャラリー公演(3回)を実施した。
中東における文化人類学的・人文地理学的研究を切り拓いた先駆者である、文化人類学者の片倉もとこによるサウジアラビア現地調査資料(写真ほか)ならびに収集による本館所蔵資料(民具・衣装ほか)と、現地での最新の調査結果にもとづくデータを中心に、物質文化に焦点を当てることで、この半世紀における沙漠環境や社会構造の変化に伴うオアシスでのムスリム女性たちの生活の持続と変容について検証した。
メキシコでは、先スペイン時代に開花したメソアメリカ文明が基盤となり、16世紀以降はヨーロッパ、アフリカ、アジアの文化が流入し、アルテ・ポプラルと呼ばれる独自のものづくりの伝統が生まれた。これには、先住民族が儀礼に用いる仮面から、観光用の工芸品、政治的メッセージを込めたストリートアートまで、多様な物が含まれる。企画展では、アルテ・ポププラルの特徴として1)人々の日常生活が反映されていること、2)商品として国内外で流通していること、および3)人々の主張が表現されていることの3点に着目し、展示を構成した。
企画展サウジアラビア、オアシスに生きる女性たちの50年――「みられる私」より「みる私」を横浜ユーラシア文化館にて開催した。文化人類学者片倉もとこによるサウジアラビア現地調査資料(写真ほか)ならびに収集による本館所蔵資料(民具・衣装ほか)と、現地での最新の調査結果にもとづくデータを中心に、物質文化に焦点を当てることで、この半世紀における沙漠環境や社会構造の変化に伴うオアシスでのムスリム女性たちの生活の持続と変容について検証した。
本計画では、民博所蔵の標本資料を中心に活用して、世界における多様な素材で作られたビーズや社会的役割を持つビーズを展示した。これらをとおして、私たち人類ホモ・サピエンスの文化の特質を理解する機会となった。つまり今回の展示は、特定の地域の文化に焦点を当てたものではなく、地球上に普遍的にみられるビーズというものをとおして、「人類とは何か」という人類学の基本課題を正面から追求したものである。
国立民族学博物館所蔵の標本資料を活用し、写真資料や映像資料とともに世界の衣装の多様性と豊かな手仕事の世界を紹介する展示を2019年11月13日(水)~25日(月)まで、阪急うめだ本店「阪急うめだギャラリー」において実施した。
2020年秋の特別展実施に向けて準備を進めた。具体的には以下の4点について取り組んだ。(1)協力アーティストを確定し、各自の出展作品の数、内容に関して打ち合わせを行なった。(2)民博所蔵資料の中で、さわることに適したものを選定し、撮影した。(3)図録の目次案を固め、執筆予定者に原稿依頼状を送付した。(4)展示場全体のレイアウトについて展示デザイナーと議論を重ね、設計図面を完成させた。
2022年秋(予定)の特別展開催に向けて、展示デザイン基本コンセプト、展示タイトル、構成、コンテンツ、国際巡回展部分関連の変更への対応の検討、展示装置の開発、その他展示協力者、予算関連と資金確保の方法、関連出版物の内容、などについて準備を進めた。
初代館長であった梅棹忠夫(1920-2010)の生誕100年にあたる2020年を機に、梅棹アーカイブズとして整理されてきた資料、とりわけ近年研究費を用いて整理されてきた資料を中心に公開する。

 

 

博物館社会連携

昨年度に引き続き、知的障害者を対象とした試行的ワークショップ「みんぱくSama-Sama塾」を開催した。知的障害者にとっても分かりやすく、楽しめる博物館の活用モデルを目指し、知的障害者が博物館を活用する際に必要とされる支援や改善点などを検討しながら実施した。
本館展示場新構築以前の2009年に作成されたパンフレットは、展示場の現状との間に齟齬が生じていた。そのため内容を精査し、小・中学生の利用者による主体的な学びと展示場の有効利用を促すための新しい情報を追加するなど、改訂を行った。