国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

国立民族学博物館調査報告(Senri Ethnological Reports)

No.76 A Lexicon of Zhangzhung and Bonpo Terms: Bon Studies 11

2008年3月21日刊行

edited by Yasuhiko Nagano, Samten G. Karmay

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刊行の目的および意義

本書は1995年以来、当館共同研究や科研により継続的に行っている、チベットのポン教文化に関する一連の研究の成果であり、直接的には科研基盤S『チベット文化域における言語基層の解明』の成果の一部である。
ポン教はチベット自治区全域、四川省、甘粛省、青海省、雲南省、ヒマラヤ南麓に広く分布している宗教で、仏教がチベットに齎され、政権と結びつく前まではその地域にドミナントであった。ポン教とその文化は、チベットの基層文化と社会を理解する上で欠くべからざる研究対象である。
このポン教文化を当初担っていた人々の言語はチベット語ではなく、シャンシュン語(以下ZZ)という9世紀に死語となった言語であった。この言語には2層が区別される。古いZZは敦煌出土文献の解析によって解明されるものだが、サンプル数の不足のため、いまだ成功していない。一方、新しいZZは12世紀以降、ポン教徒によって再構成されたもので、多くのポン教文献に埋め込まれている。古いZZが現況では解読不能である以上、我々は先ず新しいZZを再構し、 ZZと系統関係が予測されるギャロン語・羌語・ヒマラヤ南麓に分布するチベット・ビルマ系諸語との整合性を考慮しつつ、解読してゆかねばならない。
そのための第一歩として、20種のポン教文献からZZ語彙を抽出し、その意味をポン教学僧との協働で特定する作業を行ってきた。また、ZZと特定はしにくいが、ポン教文献にのみ現れる語彙も同時に蒐集した。語の音形式や音節構造はチベット語と酷似しているものの、意味がまったく異なるものがほとんどであることから、従前研究者によって放擲されてきた研究であるが、今回、英訳を含め、成果をまとまった形で公表できる段階に達したので、刊行することとした。本書により、従前全く読むことのできなかったZZ語文を初めて体系的に読むことができ、知られていなかったチベット文化域の歴史と文化を明るみに出す手掛りとなりうる。

 

Table of Contents

Preface
 ……………… Yasuhiko Nagano
Introduction
 ……………… Samten G. Karmay
Lexicon
Index
 Divinities
 Personal names
 Locations
 

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