本書は、2003年11月にシカゴで開催された『第102回アメリカ人類学会』での成果報告がもとになっている。執筆者は、アメリカ、カナダ、ノルウエー、ボツワナ、南アフリカ、日本の６ヵ国の研究者から構成され、南部アフリカ各地域のサン(ブッシュマン)社会を対象にして長期のフィールドワークで得られた最新の研究成果を報告している。主な対象地域（言語集団名）は、ボツワナ（Ju/'hoansi,/Gui,//Gana）、ナミビア（Ju/'hoansi）、アンゴラ（！Xun,Khwe）である。
論集では、「今に生きるサン」をめぐり、サンのなかでのアルコール問題、エイズなどの保健医療問題、そして貧困と開発と教育などの現況、さらにはサンの社会経済や社会関係の変容などが、国家政策や国民経済の影響を考慮しながら論じられている。サンは他集団との関係を維持しながら、新たな商品経済の浸透や、国家による移住政策や内戦によって生まれた難民キャンプに対して独自の対応をしてきたことが明らかにされている。
　本書は、狩猟採集民研究者やアフリカ研究者のみならず、先住民運動、国家と民族との関係、開発などのテーマに関心のある研究者に対して新たな成果と問題点を提示している。