国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

国立民族学博物館研究報告

国立民族学博物館研究報告 2017 41巻2号

2017年3月10日刊行

バックナンバー

目次

 

41巻1号 All 41巻3号

概要

論文

 

 

北パキスタン諸言語の名詞類の反響形成
吉岡乾

 本稿は,パキスタン北部で話されている五つの言語(ブルシャスキー語,ドマーキ語,シナー語,コワール語,カラーシャ語)の持っている反響形成と呼ばれる形態操作に関して,主に形態音韻論的側面から対照し,異同を描き出すことを目的としたものである。前三者が程度の違いこそあれ,同要素回避をする一方で,後二者は回避の方策を取らないという点で,地理的分布と合致した大きなグループ分けができることが明らかになった。このような同要素回避をしない一部の反響形成は,厳密には一般的に南アジア研究で広く認識されている形態的な定義から外れてしまう。けれども一方で意味的にはその他の反響形成と合致している。そのため,今後は反響形成の定義をもう少し緩く改変する必要性があることを提唱した。

1 Introduction
2 What is an echo-word?
3 Previous Studies
  3.1 Chatterji's (1926) Definition
  3.2 Emeneau's Studies in 1938
  3.3 Apte's (1968) Definition of Echo-Formation with Regard to Marathi
  3.4 Abbi's (1980) Quintet of Repetitive Forms
  3.5 Abbi's (1991, 1994) Definition
  3.6 Yip's (1998) Definition
  3.7 Five Language Types Illustrated by Khan (2006)
  3.8 Unification of the Studies
4 Research Methodology
5 Data & Considerations
  5.1 Burushaski
  5.2 Domaaki
  5.3 Shina
  5.4 Khowar
  5.5 Kalasha
6 Discussion
7 Conclusion and Possible Solutions

* 国立民族学博物館民族社会研究部

キーワード:反響語,同要素回避,固定セグメント,ブルシャスキー語,コワール語

研究ノート

 

 

敦煌莫高窟の西魏代における石窟空間構成
―千仏図の描写設計を中心として―
末森薫

 中国甘粛省敦煌市の郊外に位置する仏教遺跡・莫高窟では,西魏代(六世紀前半)に,漢式の服制や中国古来の伝統的図案など,中国固有の特色を強くあらわした造形が取り入れられた。中国固有の要素が多く取り入れられた歴史的・思想的な背景については,新たな要素の受容が顕著である第285窟を中心として,これまでにも数多くの研究がおこなわれている。一方,第285窟以外の西魏代に造営された石窟では,西魏以前から踏襲する莫高窟に伝統的な要素も多く認められる。そのひとつに,配列・配色によって規則性を備える千仏図がある。西魏の時代における石窟造営の諸相を理解するためには,新たにもちこまれた要素のみならず,規則性を備える千仏図をはじめとした莫高窟に既存であった要素が,石窟空間においてどのように機能しているかを理解することが不可欠となる。本稿では,規則性を備える千仏図が壁面の広い面積に描かれる第248,249,288窟を主な対象として,各窟の空間を構成する諸要素を整理し,規則性を備える千仏図の石窟空間における機能を解釈する。そして,西魏窟の空間構想や造営者の特徴について一考を提示する。

1 はじめに
  1.1 研究背景・目的
  1.2 研究対象
2 規則性を備える千仏図の特徴
  2.1 伝統的な形式の千仏図
  2.2 新しい形式の千仏図
  2.3 早期窟千仏図の描写設計および機能
3 西魏中心柱窟の空間構成
  3.1 第248窟の空間構成
    3.1.1 第248窟の構成要素
    3.1.2 第248窟千仏図の描写設計および機能
  3.2 第288窟の空間構成
    3.2.1 第288窟の構成要素
    3.2.2 第288窟千仏図の描写設計および機能
  3.3 考察 西魏中心柱窟の系統
    3.3.1 第248窟の系統
    3.3.2 第288窟の系統
    3.3.3 中心柱窟の三系統
4 西魏方形窟の空間構成
  4.1 第249窟の空間構成
    4.1.1 第249窟の構成要素
    4.1.2 第249窟千仏図の描写設計および機能
  4.2 考察 西魏方形窟の系統
    4.2.1 方形窟と中心柱窟の関係性
    4.2.2 西魏方形窟の空間構成比較 5 おわりに
  5.1 西魏窟における千仏図の役割
  5.2 東陽王元栄による造営窟の推定

* 国立民族学博物館文化資源研究センター

キーワード:中国仏教美術,敦煌莫高窟,西魏,石窟空間構成,千仏図の描写設計

資料

 

 

企画展「ハチュカル―アルメニアの十字架石碑をめぐる物語」
国立民族学博物館特別展 2016年9月29日~10月11日
ゲヴォルグ・オルベイアン

 本稿は、2016年9月29日から10月11日まで国立民族学博物館(みんぱく)において開催されたイベント企画「ハチュカル―アルメニアの十字架石碑をめぐる物語」についての議論である。本展示は、アルメニアとキリスト教の文化的・精神的側面を日本の人々に紹介し、説明を与えるものであった。ここでは展示を企画し、作り上げた過程についても記述する。
 本展示は、コーカサス地方、特にアルメニアについて客観的な知識を来館者が得る機会を提供した。複数の博物館資料や物語が、学ぶことを助けるように考えて空間的に配置された。展示に関する議論では、新しい方法と従来の方法が比較され、展示を通してキリスト教文化の諸特徴を強調する考え方が分析される。
 博物館における特別展示の役割についての考察の後で、最先端のテクノロジーを使うことなく来館者に一般知識を伝え、単純な方法で情報を提供するには博物館展示が来館者とコミュニケーションをいかにとるべきかという議論を行う。

1 Introduction
2 Theory of Museum Exhibitions and Communication
3 Visiting the Exhibition
4 Conclusion

* National Museum of Ethnology

キーワード:特別展,地域文化におけるキリスト教,アルメニア十字架石碑,異文化間コミュニケーション,日本の「拓本」とアルメニアのハチュカル

 

41巻1号 All 41巻3号