国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

客員研究員の紹介

パドミニ・トラット・バララムさん
Padmini Tolat Balaram

紹介者:杉本良男(先端人類科学研究部教授)
テキスタイルデザインと研究
デザイナーとして

パドミニさんは、インド、ボンベイ(ムンバイ)の生まれ。グジャラート州アーメダーバードの国立デザイン学校(NID, National Institute of Design)などでテキスタイル・デザイン、環境デザインなどを学ばれた後、みずからデザイナーとして活躍するとともに、国立デザイン学校、国立ファッション・テクノロジー学校(NIFT, National Institute of Fashion Technology)、DJ デザイン・アカデミー(DJ Academy of Design)をはじめインドを代表するデザイン、ファッション関係の教育機関などで後進の指導にもあたっています。デザイナーとしての活動は多岐にわたり、最近の話題作『モンスーン・ウェディング』にも出演していた名優ナスルッディン・シャーなどの衣装をふくめて、2本の映画のコスチューム・デザイナーもつとめています。

今回パドミニさんは、国際交流基金の助成により、民博を受入として、2006年3月から2007年2月まで、1年間日本に滞在することになっています。パドミニさんは、1995年から翌年にかけて、やはり国際交流基金の助成で日本民芸館(東京)を受入機関として日本に1年間滞在した経験があります。そのときの研究テーマは「Indigo and Its Use in Japan: a comparative study with India」というもので、とくに藍染めを中心にして、日本の染織文化一般につき、北海道から沖縄までそれこそありとあらゆるところを訪問し、資料を収集しました。そのさいに日本語も学び、日本人との会話にほとんど不自由はありません。

今回の来日では、インドから中国、朝鮮半島を経て日本にいたるテキスタイルのルートについて、比較研究、歴史研究を志しています。前回の来日ののち、韓国、中国などでも長期間の調査をおこないましたが、そのさい集めた資料をもとに、相互の比較によって伝播のルートと、各地域におけるローカル化について研究しようしています。みずから、デザイナーであるということから、これら広い地域におよぶ染織についての専門的知識は豊富で、机上の議論をこえたすぐれた研究へと発展することが期待されます。

奇しき因縁

パドミニさんは菜食主義者(vegetarian)なので、せっかく日本語が上手でも、日本の食事を楽しんでいただけないのが残念です。インドの菜食主義の方は、日本料理の魚のだしをつかった料理も食べられないので、非常に選択の幅が狭くなります。日本人はうどん、そばや煮物など肉、魚をつかっていない料理は大丈夫だと思いがちですが、その誤解がとんだトラブルをまねくことがあります。

ご主人の、S・バララーム先生は国立デザイン学校の創設にもあたったインドを代表するデザイナーかつデザイン研究者で、ながらく国立デザイン学校で教えていましたが、最近、南インド、タミルナードゥ州コインバトールにあるDJ デザイン・アカデミーの校長(Dean)に就任されています。2人の息子さんのうち、ご長男は語学万能で、IT企業の語学指導などをやっており、ご次男のほうはお父さんの学校でデザインの勉強を始めています。そんなこんなで、アーメダーバードのご自宅は、いま誰もいないので、ずいぶんご心配のようです。また、先日の列車爆破事件は、生地であるボンベイで起こったので、親戚や友人の安否を心配していました。電話がなかなか通じず不安をつのらせていました。

なお、以前民博の客員として日本に来ていた(1999―2000年)アールティ・カウルラさん(現在インド工科大学マドラス校=IIT)は、ご主人と知り合いで、DJ デザイン・アカデミーでも教えられることになったそうです。アールティさんが講義の相談のために電話をかけたところ、偶然パドミニさんが出られて、日本に来たときのことが話題になったそうです。本当に世間は狭いもので、悪いことはできないものだとつくづく思わされます。

パドミニ・トラット・バララム
  • パドミニ・トラット・バララム
  • Padmini Tolat Balaram
  • インド国立デザイン学校客員教員。2006年3月から国立民族学博物館外来研究員。
  • 研究テーマは、インドから中国、朝鮮半島を経て日本にいたるテキスタイルの道について。
『民博通信』第114号(p.28)より転載