客員研究員の紹介
ヤシャヴァンタ・ドングレさん
Yashavantha DONGRE
立命館大学学長との交遊
日本の新聞には、歴史あるコラムが少なくない。日本経済新聞の「交遊抄」もそのひとつであろう。各界の著名人が、自分の知人を紹介するコーナーだ。「意外な組合せ」の交遊がコラムの魅力でもあるが、高校や大学の同級生を紹介する人も多い。なるほど現在の職業からみると「驚く組合せ」かもしれないが、学生時代の友人が他分野で活躍するというのも、それほどの意外性には価しない。そんななかで、立命館大学の学長になったばかりの川口清史先生が、「ドングレ先生」をこのコラムで紹介されたのは、文字通りの「驚き」だった。交遊の広い立命館の学長が、インド在住の研究者ドングレ先生だけを紹介したのである。「私自身が大きな影響を受けた大切な友人だ」と端的な表現がその関係を物語る。
ドングレ先生の来日は今回が初めてではなく、以前、立命館大学にも招かれている。「協同組合」の研究を長年続けていた先生は、立命館大学の生協で皿洗いを続けながらのフィールドワークを実施していたという。そのときの受入れ教員が川口先生だったとはいえ、受け入れたときから、長い年月が経っていた。知的な分析力、研究者としての優秀性に加えて、性格の良さが人を魅了してやまないドングレ先生のことを真の友人と思ったのだろう。かくして、立命館大学学長とインド人研究者との「意外な組合せ」は「NGOの旗手」という見出しとともに、全国紙の有名コラムを飾ることになった。
NPOのガバナンス研究
筆者との出会いは、もう10 年以上前になるだろうか。1999 年、バンコクでおこなわれた学会が初めてである。その後も、毎年、学会などで、顔を合わせている。たびたびその冷静な識見と人格の高貴さに秘かな敬意を抱いていた。
インドでも屈指の歴史を誇るマイソール大学の教授であり、来日前までは、研究所の所長を務めていた。周知のとおり、マイソールはインド南部カルナータカ州の古都で、人びとはカンナダ語を話す。
今回の招へいの目的は、日本におけるNPO(非営利組織。NPO法人よりもはるかに広い概念)のガバナンスについて、法と文化にみられる差異を研究することにある。日本においても、新会社法ならびに一般社団・財団法の改正でガバナンスの強化が徹底されたところであるが、世界標準のガバナンスがどこまで日本の文化的な伝統になじむか、興味深いところである。法律は世界標準になっても、その運用に各国独自の伝統文化が染みつくこともある。例えば、従来、財団・社団の理事会は、代理出席や委任状による出席があたりまえで、儀式に近い法人も多々あっただろう。実際、「理事会は儀式」と言い切る人も多い。新法が想定する理事会のガバナンスがどこまで発揮されるのかは、法を超えた「文化」の問題かもしれない。今後は理事の代理出席は法的にできなくなって、本人が出席しないといけない。一方で、著名人を名目的にでも理事にしたいという「文化」がそれほど急に変わるのだろうか。ひとりで100を超える団体の理事・評議員になっていた方もいたわけだが、さて、新法の下でどのようになるのか、まことに興味深いテーマである。
ドングレ先生は、すでに、フォード財団の支援を受けたプロジェクトで、インド、中国、インドネシア、フィリピン、タイ、ベトナムのアジアの研究者と協力して、各国のNPOの法とガバナンスについての研究は完了して、その成果をComparative Third Sector Governance in Asia(Springer, 2008)として、アジアの友人たちとともに出版し、高い評価を得ている。識字率が低い、インドの草の根のNPOのガバナンスという点では、会議で決まった内容の「議事録」は、皆で歌にして覚えて、共通理解とし、文字にはしないこともあるという。
こうした先生の研究は、潜在的に研究の幅を狭めている筆者の蒙を拓かせてくれるに十分である。
奥様は古典舞踊の先生
奥さんは南インドの古典舞踊 バラタナティアム・ダンスの先生であり、保険会社にも勤める。息子さんは機械工学を専攻する大学生、音楽にも優れた能力の片鱗をみせている。芸術を愛するご家族だが、ご本人は「鑑賞専門」とのこと。
すでに日本語はお上手で、非常に知日派でもある。改めて日本についての印象をお聞きすると「人びとの生活態度が規律正しい」という意外な返答。それとともに、春先の新型インフルエンザに対する対応が、よほど想像を超えたものだったのだろう。いろんな体験が先生の研究に生きることと思う。
- ヤシャヴァンタ・ドングレ
- マイソール大学教授
- 2008年12月8日から2009 年12月7日まで、国立民族学博物館外国人研究員(客員)教授
- 研究テーマは、「非営利組織における法と文化:インドと日本の比較研究」