国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

在学生の研究内容

更新日時:2018年4月12日

池永禎子IKENAGA Sachiko

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専攻

比較文化学専攻

指導教員

主指導教員:飯田卓/副指導教員:鈴木紀

研究題目

「負の遺産」の継承、その在り方について―ミュージアムが社会に果たす役割とは

研究キーワード

負の遺産、ハンセン病、国立療養所、博物館、世界遺産

研究の概要

国立療養所(かつての国立ハンセン病療養所)をめぐっては、入所者(=元患者)の高齢化が進む中、さまざまな分野の研究者によるオーラルヒストリーの収集が進む一方で、各園内にある歴史的建造物の保存と活用、付属する資料館の維持運営が大きな課題となっている。入所者の平均年齢は80歳を超え、療養所ごとにその将来像を構想しているところである。

このような状況の中、ハンセン病を巡る人権侵害の歴史を伝えようと、全国に13ある国立療養所の世界遺産登録をめざす運動が進められている。ハンセン病の歴史は差別による患者、回復者そしてその家族の尊厳と人権侵害の歴史でもある。患者は排除の対象とされ、社会から隔離されて生きることを余儀なくされてきた。これは人類社会の巨大な負の遺産である。さらに特筆すべきは、この差別の歴史が過去のものでなく、現在進行中の私たち自身の歴史でもあるという点である。人類の犯した過ちの一つとして残すべき遺産であり、その手段の一つとして「世界遺産」化は有効であると考える。

本研究では、日本初の国立療養所として1930年に誕生した長島愛生園の活動を、その運営に携わる長島愛生園入所者自治会の視点から調査・分析し、世界遺産登録要件を満たすためにクリアすべき課題を挙げ、その解決法を明らかにする。フィールドワークにより、いわゆる施政側と療養所入所者、入所者と地元一般市民、(無関心を含め)差別してきた者と差別されてきた者との対話を可視化することを目的とする。また、ハンセン病が単なるひとつの病気として社会に受け入れられ、社会的スティグマがなくなる土壌を作ることを目指す。