国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

「コラム」:南米日系人の食卓 日系人に人気のスイーツ「ユカ餅」

八木 百合子

[写真] ユカ餅
[写真] ユカ餅
ペルーは、南米ではブラジルに次いで日系人の多い国で、その数、約8万人を数える。彼らの生活のなかには、ペルー文化と日本文化の混在がみてとれ、興味深い。食文化もまた同様で、日系人会館のレストランや日系のイベントに出店する屋台では、ペルー料理だけでなく、さまざまな「日本食」を目にすることができる。アンティクーチョ(牛の心臓の串焼き)、アロス・コン・ポージョ(鶏の混ぜご飯)、パパ・レジェナ(ペルー風肉入りコロッケ)などのペルー食定番メニューに加えて、うどんやのり巻き、稲荷寿し、そして色とりどりの具の入ったお弁当までも登場する。

そんななか、デザートコーナーでは、饅頭やおはぎと並んで「ユカ餅」というなんだか変わった名前のお菓子が売られているのをよくみかける[写真]。日本ではちょっと聞き慣れない「餅」であるが、ペルーの日系人の間ではよく知られており、家庭でおやつに作る人もいるほどポピュラーなお菓子である。餅といっても、餅粉を使っているわけでも、もち米で作られているわけでもない。原材料は、「ユカ(yuca)」というイモの一種である。ユカは、別名マニオク(またはキャッサバなど)ともよばれる南米原産の植物で、見た目は細長く、日本の長芋によく似ている。ペルーでは、ゆでたりフライにした形で料理の付け合せにしたり、スープの具材として使われるのが一般的であるが、ユカ餅の場合、このイモをおろし金ですりおろして利用する。それにコンデンスミルク、たまご、砂糖、バニラエッセンスを加えてよく混ぜたあと、じっくりとオーブンで焼けばできあがりである。簡単なようだが、ユカをすりおろす作業はなかなか根気がいる。焼きあがった状態は、チーズケーキのようで、ユカケーキとでも呼びたい感じである。

しかし、その食感はモチモチしていて、まさにお餅と呼ぶにふさわしい。和菓子というか洋菓子というか微妙なところである。はたまたペルー菓子とも言い難い。敢えて言えば、日系人のアイデアでペルーの材料によって作られた、ペルー生まれの新しいお菓子、「日系スイーツ」といったところだろうか。ちなみに、これは日系人のなかでも特に沖縄出身の人たちが作りはじめたものだという。ユカに含まれるでんぷんが生み出す独特のモチモチ感とミルク風味の味付けが、素材を新たな形で生かしている。まさに日系人の工夫と創造の逸品である。