国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

館長室だより

館長室だより
2020年01月01日

2020年 年頭のあいさつ

あけましておめでとうございます

皆さま、明けましておめでとうございます。

今年は、関西各地では初日の出も目にすることができて、皆さまも、おだやかですがすがしい新年をお迎えになったことかと思います。年の初めにあたりまして、ご挨拶させていただきます。

ご覧いただいている写真は、民博のアフリカ展示場に並んでいるので目にしていただいているかもしれません。ザンビア・チェワの人びとのあいだに見られる仮面結社ニャウの、動物の姿かたちをしたかぶりもの型の仮面、ニャウ・ヨレンバです。これが、昨年8月の村での祭りでも新たに造られ、踊りの場に登場しました。その折りの写真です。

さて、昨年、2019年、みんぱくでは、数々の国内外のシンポジウムと特別展、企画展をはじめとして、たいへん活発な研究・博物館活動を展開することができました。おかげさまで、3月までの2019年度全体で、1991年以来、28年ぶりに民博への入館者数が 30万人を超えることになりそうです。

もう少し、詳しく申しあげます。研究の分野では、昨年は、3月の、野林厚志教授を代表とする特別研究「食糧生産システムの文明論」の国際シンポジウムを皮切りに、ペルー日本人移住120周年に合わせて、関雄二副館長を代表とするアンデスの文化遺産に関する一連の研究会・シンポジウムが、日本とペルーで活発に開催されました。また、フォーラム型情報ミュージアムのプロジェクトに関する研究集会もアフリカ関係資料、アイヌ文化関係資料などを対象に、それぞれの資料がもともと生み出された地域の研究者を招いて頻繁に実施されました。年末には、鈴木紀准教授と、ブリティッシュコロンビア大学人類学博物館(MOA)館長のアンソニー・シェルトン博士を代表に、現在の世界各地の民族誌展示を改めて評価する国際シンポジウムも開催されました。

そうした中で、やはり特筆すべきは、9月1日から7日まで、京都国際会館を主会場に開催された、3年に一度の世界の博物館関係者の大会、ICOM (国際博物館会議)2019京都大会において、まず、本会場で、民博とICOM日本委員会の共催でMuseum and Community Development (博物館とコミュニティ開発)というセッションを開催し、民博がJICAとともに過去25年にわたって実施してきた博物館学研修の成果を国際的に発信できたこと。そしてもうひとつ、大会の5日目にこちら民博を会場に、ICME(International Committee for Museums and Collections of Ethnography(民族誌博物館とコレクションに関する国際委員会)とCIMCIM (音楽・楽器博物館の国際委員会)のオフサイト・ミーティングを開催したことであったかと思います。とくにICMEは、世界中の民族学博物館の関係者・専門家の集まりですが、本館展示と、当時開催されていた特別展「驚異と怪異」の展示をご覧いただいたあとで、多くの参加者から「こんな民族学博物館見たことないWorld’s best ethnographical museum」というおほめの言葉をいただき、特別展については異口同音に「Congratulation おめでとう」という言葉をいただきました。機会があるごとに申し上げていますが、民博の34万5千点に及ぶ標本資料、モノの資料のコレクションは、20世紀後半以降に築きあげられた民族誌コレクションとして世界最大の規模のもので、施設の規模のうえで、民博は現在世界最大の民族学博物館になっているわけですが、その展示についても世界をリードする位置にあることが確認できたと考えています。

特別展をはじめとするそうした展示に注目をしていただいたおかげでしょうか。あるいは、昨年4月から、小中学生に続いて高校生も入館無料にして、高校生入館者数が前年度1.5倍になったという効果もあってか、平成31年度=2019年度、昨年4月から12月末までの段階で、総計27万8千人の方がたに民博へお越しいただいたことになります。この数字だけですでに平成28、29、30年各度の総入館者数を超えているのですが、今年度はあとまだ3か月ありますから、冒頭で申し上げたように、今年度2019年度は入館者数が30万人を超えるのは間違いないと思われます。
たしかに秋の特別展「驚異と怪異」では、7万8700人という多くのお客様に来ていただきました。ただ、毎年、各特別展では、平均で4万人のお客様に来ていただいていますので、ひとつの特別展の入館者の増加だけでは、30万人以上という数字はとても出てこないと思います。全体として大きな底上げができているようで、これもひとえに、多くの皆さまのご支援の賜物だと考えています。本当にありがとうございます。

昨年も申し上げましたが、現今の世界を見回してみますと、戦後、世界が作り上げてきたシステムが揺るぎ始め、そのなかで、他者に対する不寛容や偏狭なナショナリズムが頭をもたげる局面が各所でみられるようになっています。それだけに、人びとが、異なる文化を尊重しつつ、言語や文化の違いを超えてともに生きる世界を築くことが、これまでになく求められています。今ほど、他者への共感と尊敬、そして寛容に基づき、自己と他者についての理解を深めるという文化人類学の知が求められている時代はないように思われます。その知の国際的な中核拠点としての民博に課せられた使命は、これまでになく大きくなっていると思います。 教職員一同、その自覚をもって、研究・教育と博物館活動に邁進してまいります。引き続き、ご協力・ご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。

さて、今年、2020年は、民博にとってこれまで準備を進めてきたさまざまな事業が一気に実現をする、節目の年になります。
まず、施設、建物の面から申し上げます。民博の建物は、全体が建設か43年たち、老朽化が進んで全面的な改修の必要に迫られています。政府による予算の採択を待っているわけにはいきません。できるところから、自前の予算も含めて改修を進めることにしています。

まず、今年度内、3月までに、4階屋上全体の断熱・防水工事を実施します。一方、講堂については、講堂天井の耐震強化工事が昨年末にすでに完了し、点検・検査を経て、1月16日から、使用を再開できることになりました。ただ、講堂の施設全体をフォーラム型インテリジェント・ホール化するという計画、つまり、ステージを前方にフラットに拡大して、そこでラウンドテーブルを、聴衆も含めて、囲むようにしてシンポジウムを実施したり、観衆が取り囲む形でパフォーマンスができるようにする。それから客席を新しくする、同時通訳装置を最新のものにして多言語対応化する、そして映像音響システムを改修して、操作を簡便化するとともに、映像の国内外への同時ライブ配信を可能にする、といった改修を実施し、全体として講堂をインテリジェント・ホール化して、民博がめざしているフォーラムの場を実現するようにする、という計画ですが、この計画が、今年度の政府の補正予算で認められました。この結果、今年度中に設計を終えて、来年度の後半、夏以降に工事を実施することになりました。このため講堂は、8月ごろから再び閉鎖して、工事をおこない、年内には使用を再開できるようにしたいと考えています。講堂が使えるのが半年ほどになってしまいますが、来年2021年からは、新しいホールで、いわゆるイマーシブ・シアターなど、さまざまな事業を展開することが可能になります。

一方、パナソニックと共同して3年がかりで開発を進めてきた次世代電子ガイドとそれに連動した新ビデオテークのシステムについては、今年度内、この3月までに導入が始まります。アプリをダウンロードしたスマートフォンを使って、展示場で興味をもった展示物にカメラを向けると、AR(拡張現実)を用いてその展示物に関する解説を映像と音声で視聴でき、その記録がスマートフォンに蓄積されていて、展示場を出てビデオテークへ行くと、自分が解説を見た資料に関するビデオテーク番組を自動で紹介してくれる。さらに視覚障害をお持ちの方の展示場内の誘導の機能も備えたシステムです。また、電子ガイドで解説を見たその情報は来館者が民博を離れたあとも自分のスマートフォンや家のPCでも確認でき、いわばモノの展示とサイバー空間をつなぐ情報提供システムを実現するものです。システム自体はもう出来上がっていますが、ビデオテークのブースは3年計画で新しくしていきます。今年3月4日に探究ひろば側のビデオテークの利用が可能になり、同時に新しいスマートフォンの電子ガイドの貸し出しが始まります。
今年は、初代館長の梅棹忠夫生誕100年にあたり、それを記念した企画展、梅棹忠夫生誕100年記念企画展「知的生産のフロンティア」が4月から開催されます。新しい電子ガイドとビデオテークのシステムの導入は、梅棹初代館長が唱えておられた「博情館」あるいは「博情報館」というものを最新の形で実現するものといってよいかと思います。

さて、今年の春には、これからの民博の顔といってよい、新しいトーテムポールの立ち上げもおこないます。おかげさまで、昨年末に実施したクラウドファンディングも成立しました。いただいた寄付金は、新しいトーテムポール制作の資金の一部に当てさせて頂きますが、この過程で、寄付をいただいたお一人お一人の方から応援や励ましの言葉を頂戴しました。
「このような意義のある博物館が近くにある事を、誇りに思います」とか、「大好きな民博の展示に自分も関われることが嬉しいです」など、思いがけず多くの方がたの民博への熱い想いに接することができました。ひとつひとつの言葉が本当にありがたく、これからの励みにしたいと考えております。

スライドは、昨年の暮れ、12月11日段階のトーテムポールの様子です。工房の外での作業を終えて、工房の中に運び込まれ、手彫りの段階に入ったということでした。このあと、彩色を終えて完成したトーテムポールは、バンクーバー港までトラックで運び、船に乗せて、3月の初めまでには日本に到着する予定です。立ち上げは、今年の特別展「先住民の宝」(会期3月19日~6月2日)の会期中、できれば5月の末におこなう予定です。その際は、制作に関わってくれたアーティストたちにも民博に来てもらい、立ち上げに伴う伝統の儀式も催すことにしています。
あけましておめでとうございます

今年の春に控えているもう一つの大きな事業は、人類学や文化遺産に関する国際オンラインジャーナルの刊行です。従来の文字のテキストを基本にした刊行物でなく、民族誌的な映像番組をそのまま投稿でき、また、文字、テキストをベースにしながらも、そこに動画による解説や事例の紹介を伴うような論文を掲載できるという、オンライン上のジャーナルで、国際編集委員会を設けて審査し、民博が拠点となって国際的な研究情報発信を継続的におこなっていこうというものです。映像人類学や民族音楽学、無形文化遺産研究の上では画期的な意味を持つと思いますし、例えば、今まで記号でしか論じることのできなかった言語学の論文に、発音、発話された音声そのものを組み込むことができるという意味では、研究上の大きな革新をもたらすことができると信じています。
このほかにも、特別研究においては、飯田卓教授を代表とする「文化遺産学の人類学」が国際シンポジウムの開催等、本格化しますし、フォーラム型情報ミュージアムのプロジェクトでも、今年3月にこれまでの活動を総括するシンポジウムが予定されています。

特別展に関していえば、春は、3月19日から6月2日まで「先住民の宝」展を開催します。信田敏宏教授を実行委員長に、世界各地の先住民文化の研究に従事している多く当館教員が参画しています。また、秋が、広瀬浩二郎准教授を実行委員長とする「ユニバーサルミュージアム」展を開催します。視角に依存する従来の博物館展示にいわば意義申し立てをし、触覚の復権を訴える挑戦的な展示で、とくに立体彫刻のアーティストの皆さんが積極的に参加してくださっています。この二つの特別展、春の「先住民の宝」は、国立アイヌ民族博物館の開館、秋の「ユニバーサルミュージアム」は東京オリンピック・パラリンピック開催という国家事業と連動した企画になります。

今年は、国立の大学、大学共同利用機関が運営の目安としている6年単位の第3期中期目標・中期計画期間の4年目を終えることになり、現在、その評価のための作業が進められています。この段階での評価が、次の2022年度から始まる第4期中期目標・中期計画期間における各研究機関に対する国の対応の判断基準とされます。一方で、昨年、文部科学省の科学技術・学術審議会、研究環境基盤部会がまとめた答申にあるとおり、現在の4機構、つまり、われわれの所属する人間文化研究機構と、自然科学研究機構、高エネルギー・加速器研究機構、情報・システム研究機構の4つの機構はそのまま維持すると同時に、これに総研大(総合研究大学院大学)を加えた連合体を新たに設けて、研究活動、そして管理業務の連携を図るという方針に従って、その連合体の組織設計も進めていかなければなりません。

今年の年頭のご挨拶は、プラクティカルな、現実的な作業の話に終始してしまいました。それだけ、今年は、民博にとってこれまで準備を進めてきたさまざまな事業が一気に実現をする、節目の年になるということだと思います。 本年もどうぞよろしくお願いいたします。

あけましておめでとうございます

 

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2020年01月01日 09:06 | 全般
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