研究の意義・目的                    

一定の視点から芸能の動きと音を記録し、再生することができる映像は、第三者に具体的に芸能の姿を伝えることができる。その性質により、学術資料であっても、多くの人に活用され、芸能のイメージを広めることにひと役買う可能性をもっている。一方、芸能の関係者にとって、外部の人間が撮影編集した映像を見ることは、外からのまなざしを意識し、自己イメージを再形成する機会ともなる。この研究は、映像による芸能の民族誌的記録が、芸能を支える人々や研究者、映像を視聴する第三者など、立場を異にする人々のあいだにどのような相互関係を築き、どのように芸能の上演と伝承に影響を与えうるのかを実践的に明らかにし、学術的な民族誌映像の作成および活用の望ましいあり方を探ることを目的としている。

従来、映像記録の活用における諸問題は、多くの場合、資料をいかにアーカイブするかという側面から議論され、資料の保存や整理、また近年ではデジタル化とウェブを通じた公開の技術的側面等の研究に重点が置かれてきた。そうした研究が重要であることは明らかであるが、本研究は、学術資料を同時代の社会において意味あるものとする方策を探るものであり、芸能関係者、行政関係者、そして研究者等が協力して伝統芸能の映像記録を作成し活用する際の1つの具体的な指針を示そうとするところに意義がある。それは人文科学研究が築いてきた文化資源の社会的活用を模索する文化資源学の可能性を広げる研究と位置づけることができる。

研究計画の概要・研究方法

これまで研究代表者および分担者が調査研究おこなってきた地域の芸能を例として取り上げ、現地社会の関係者と協議の上で、調査および撮影、映像の上 映と意見交換を繰り返し、芸能関係者と研究者の双方に意義ある映像記録の作成と活用の方法について検討する。主な調査地域として、A.硫黄島(鹿児島 県)、B.徳之島、そしてC.東南アジアという規模の異なる地域を選んだ。硫黄島においては、八朔太鼓踊りを中心に、年ごとの芸能上演を記録し、同一芸能 についての複数の記録映像がもつ意義を明らかにする。徳之島においては、多くの集落の歌と踊りを調査記録し、映像による集落間の比較の意義を明らかにす る。東南アジアにおいては、主にゴングの製造と流通に着目して調査記録し、地域の特色と相互の関連を映像により明らかにする。