研究内容

研究の進捗状況

image001.jpg八朔太鼓踊り(硫黄島、2013.9.5)

  1. 硫黄島における研究は、これまで調査撮影した素材を整理し、「調査報告映像2007-2013」(2015年)をまとめた。現地において、この映像を中心に、宮本馨太郎撮影のフィルムから「薩南十島」(1934年、竹島および硫黄島部分のみ)および「硫黄島八朔踊り」、鹿児島県歴史資料センター黎明館企画、民族文化映像研究所制作の「八朔踊りとメンドン」(1983年)の上映会を行った。
  2. 徳之島における研究は、マルチメディアコンテンツ「徳之島の唄と踊りと祭り」に、さらに新しい撮影分を加えて内容を充実させた。最終的に26集落で撮影した民俗芸能および歌をコンテンツとして収録した。この番組については、天城町立ユイの館にて公開を始めた。伊仙町においても伊仙町歴史民俗資料館にて公開すべく準備中である。徳之島町においては、教育委員会と公開の方法について協議中である。
  3. 東南アジアのゴング文化については、科学研究費補助金(基盤(B)、平成24~26年度)を得て、調査撮影を行ってきた。ベトナムおよびラオスでは、主に少数民族による平ゴングを使ったアンサンブルなどを中心に調査撮影を行った。インドネシアでは、青銅製ゴングに加えて、鉄および真鍮製のゴングの製作と流通についての調査を行った。

研究計画の意義・目的に即した研究の実施

image002.jpg九月踊り(硫黄島、2012.10.24)

  1. 硫黄島は、人口120名あまりの小さな島である。島の人口を維持するためには、小中学校教員、郵便局長、警察官とその家族や、村が運営するジャンベスクール留学生、潮風留学制度による島外からの小中学生が欠かせない。八朔太鼓踊りは、毎年少しずつ入れ替わる青年たちをまとめ、島における社会関係を 新たにする1つの機会になっていると考えられる。そこで、毎年八朔太鼓踊りを映像により記録し、島社会の維持において芸能が果たす役割を明らかにしようとしてきた。また、島の人々が芸能を記録した映像に何を読み込むかを明らかにするため、このプロジェクトで撮影した映像のほか、「歴史研究資料としての映画 の保存と活用に関する基盤的研究」班(代表者:内田順子)および宮本記念財団の協力を得て、宮本馨太郎が撮影した硫黄島の映像、さらに鹿児島県歴史資料センター黎明館の企画により民族文化映像研究所が制作した「八朔踊りとメンドン」の上映会も開催し、意見交換をおこなってきた。
  2. 徳之島では、各集落の歌と踊りの特徴と集落間の関連を明らかにする映像記録を作成し、徳之島を構成する3町においてそれぞれ上映会を開催し、意見 交換をおこなってきた。熱心に芸能の伝承に取り組む集落の記録映像が他の集落にも刺激となり、当初予想していた規模を超えて多くの集落の歌と踊りを記録することになった。これは集落レベルや町レベルで開催してきた上映会や、タブレット端末により簡便に映像を見られるようにして、多くの関係者に映像を見てもらった結果でもある。これは映像を手軽に視聴できるようにすることで、作成する映像の意義が伝わり、映像記録作成が芸能の伝承活動にポジティブな影響を及ぼすことを示している。徳之島における研究は、マルチメディアコンテンツ「徳之島の唄と踊りと祭り」を完成させ、天城町立ユイの館での公開を開始した。また、伊仙町歴史民俗資料館においても平成26年度末をめどにコンテンツ公開を目指している。徳之島町においては、教育委員会と公開方法について協議中である。なお、徳之島のコンテンツについては、民博のフォーラム型情報ミュージアムにより、コンテンツの公開だけでなく、芸能についての新たな知見の形成を可能とするシステムの構築を試みている。
  3. 2010年3月にオープンした国立民族学博物館音楽展示の新構築において、東南アジアのゴング音楽について1つのコーナーを設けて展示をおこなった。その際の調査や映像記録の成果に基づき、2010年度、東南アジア各地の研究者を招き、国際シンポジウム「東南アジアにおけるゴングの映像民族誌」を開催した。これらの過程で、ゴングは東南アジアの文化において重要な位置をしめる楽器であるが、調査記録が十分でない地域があること、また、グローバル化の中でゴングの製作や流通のあり方に大きな変化が見られることなどが明らかになった。そこで、映像を用いてゴングの製造過程を比較し、地域を超えたゴング 流通の過程を調査することで、東南アジア諸地域のゴング文化の特徴と相互の関連の解明を試みた。主に科学研究費補助金によって、各地での映像を用いた調査を進めた。

上記A~Cのほかにも、メンバーが関わる芸能の映像記録作成事業等において、このプロジェクトで得た知見等を随時応用し、フィードバックを得ている。1つの例として、熊本県八代市の八代妙見祭における獅子舞において用いられるチャンメラという楽器の復元製作のプロジェクトにおいて、映像記録作成をおこなった。

連携の効果(連携による新たな視座の開拓、高度化)

image003.jpg柱松(硫黄島、2012.8.15)  この研究においては、「歴史研究資料としての映画の保存と活用に関する基盤的研究」班(代表者:内田順子)、および「人間文化資源の保存環境研究」班(代表者:園田直子)と連携しながら、映像を用いた民族誌的研究についての議論を深めている。内田班との連携においては、「研究計画の意義・目的に即した研究 の実施」A.に記したように、宮本馨太郎による映像記録を現在の島の人々に視聴してもらうことで、過去の映像が現在の関係者に対してもちうる意味を検討し たり、映像資料についての資料批判の必要性の議論に基づき、映像製作において付与すべき情報のあり方について検討している。また、園田班との連携において は、映像の保存と活用における諸問題のうち、映像の複製作成における権利問題や情報付与の問題についての検討を進めている。2011年度には、3班合同でミニシンポジウムを開催し、これらの問題について議論を深めた。3班は、映像の製作、複製、保存、公開について、異なる視点から探っており、最先端の知見を応用しつつ、バランスの取れた現実的な学術的映像の製作、保存、利用の指針を考える基盤を形成してきた。
 また、この研究においては、芸能に実際にかかわる関係者との連携を重視している。これは学術的な映像記録を、新たな知見を得る手段として、より広く活用 することを目的としている。たとえば、芸能の関係者は、芸能の背景にある社会関係、慣習、歴史的経緯などを連想しながら映像を見る傾向が強いのに対し、研究者は、関連する芸能についての調査経験や学術的知見等を背景に映像を見る。1つの映像記録作成に、両者が協力して臨み、また一緒に映像を見る事で、それぞれが背景にもつ知識を動員しながら、芸能についての新たな知見を紡ぎだすことが可能になる。異なる立場の者が参加する発見の場として映像を機能させることがこの研究の最大の目標である。

研究体制

機関間の連携体制

 「連携の効果」に記した通り、映像資料に関わる3研究班が、日常的に情報交換するとともに、年に1回程度、合同の研究会やシンポジウムを開催することで、総合的に映像資料を学術的に位置づけ、活用する基盤の形成をはかっている。

機構外研究者の有機的参画

 このプロジェクトに参加している研究者は、いずれも、沖縄県立芸術大学、立命館大学なと、芸能の映像記録の作成やアーカイブに かかわる研究を積極的に進めてきた機関に所属したり、それぞれの研究において映像を積極的に活用してきた経験をもつ。これらの経験に基づき、共同で映像を用いた研究を進めることにより、それぞれが蓄積してきた映像の学術的な利用についての知見をまとめるとともに、研究会での成果発表などを通じて、関連研究分野の研究者へのフィードバックをおこなっている。

基盤となる機関の研究との合理的相補関係

 国立民族学博物館は、設立当初から映像を重要な学術資料として位置づけ、映像人類学研究者をスタッフとして迎えるとともに、放送局レベルの映像製 作が可能な設備を備えて、継続的な映像製作と資料収集をおこなってきた。そして、ビデオテークと呼ばれるシステムにより、展示場において、一般来館者に向けても映像を公開してきた。この研究は、こうした基盤を利用しつつ、近年の映像製作の広がりなども念頭におき、芸能の関係者、自治体や研究機関等と共同で 映像の製作や公開を試み、学術的映像のより広い活用を模索している。