国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

研究会・シンポジウム・学会などのお知らせ

2003年12月19日(金)
国立民族学博物館公開講演会「国際協力の現場から―人類学者の私的実践―」

  • 日 時:2003年12月19日(金) 18:00~20:00
  • 場 所:日経ホール(日本経済新聞社ホール)
        東京都千代田区大手町1-9-5
        日本経済新聞社東京本社ビル内
  • 主 催:国立民族学博物館 / 日本経済新聞社
  • 定 員:600名(参加費無料)

国立民族学博物館は、我が国における民族学研究の中核的研究機関として、先導的な役割を果たすために、全国の研究者との協力体制のもとに先端的な研究活動を行ってきました。その研究活動の成果は、学会への発表、博物館における展示として一般に公開しているほか各種の出版物として発表しています。しかし、先導的な学術研究機関としての先端的な研究活動の成果を広く一般市民に理解してもらう活動は未だ十分とはいえない状況にあります。このことから、先端的な研究活動の成果を取り上げて、公開講演会を開催し、研究活動の成果の社会還元を積極的に行い、一般市民に民族学を通じての異文化理解と、広く国立民族学博物館が学術研究機関であることの認識を深めてもらうことを目的とします。

 

プログラム

17:00~18:00 受付
18:00~18:05 開会 (日本経済新聞社大阪本社編集局長)
18:05~18:30(25分) 挨拶・講演1 「日本の民族学と開発事業
松園万亀雄(国立民族学博物館館長)
18:30~19:15(45分) 講演2 「モンゴルでの体験-人類学的視点の特徴
小長谷有紀(国立民族学博物館 民族社会研究部教授)
19:15~20:00(45分) 講演3 「カナダ・イヌイットとの体験-人類学の応用
岸上伸啓(国立民族学博物館 先端民族学研究部助教授)
講演1「日本の民族学と開発事業」 松園万亀雄(まつぞのまきお)

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日本がODA大国であることは周知のとおりです。欧米諸国の途上国援助と日本のそれを比較して、ヘンだなと思うことのひとつは、日本では現地社会をよく知っているはずの文化人類学者(民族学者)が開発事業にかかわる度合いが極端にうすいということです。ヘンだなという以上に、驚くべき現象だというべきでしょう。いったい、それはなぜなのか。日本型援助のありかたに問題があるからだろうか。それとも、日本の文化人類学そのものになにか欠陥があるからだろうか。そして、なにか解決策が見出せるのだろうか。フィールドワークでの見聞をとおしてこうした問題を考えたいと思います。

〈講演者プロフィール〉
30代なかばまでは、沖縄社会、台湾漢民族社会など東アジアの研究をしていたが、そのご東アフリカ研究に転進して現在にいたる。最近は現地社会の急激な変貌ぶりに合わせて、男女・夫婦間の性行動と倫理観の変化、部族の慣習法と国家法との葛藤、家族計画運動の受容など、現代的なテーマに関心をもっている。著書・編著書に『グシイ:ケニア農民のくらしと倫理』『性と出会う』『性の文脈』などがある。

講演2「モンゴルでの体験─人類学的視点の特徴」 小長谷有紀(こながやゆき)

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モンゴル国は20世紀、社会主義化とその放棄という人類史の大きなうねりを2度経験しました。そして、市場経済への移行を開始してすでに10年余が過ぎました。この間、日本をはじめとする各国あるいは国際機関から多額の援助を受けた結果、現在では援助依存率世界第五位にランキングされています。そうした多額の投資がもたらしたものは、国内の大きな貧富の差であり、また大きな地方格差です。開発援助という善意に似た経済は、破壊力を内に秘めた一種の兵器と言えるかもしれません。

〈講演者プロフィール〉
モンゴル国や中国、ロシアでモンゴル遊牧民についてフィールドワークを行ない、とくに人と動物の関係について研究をしている。近年はODAに参画した経験にもとづいてNPO法人を設立し、NGO活動にも取り組む。『モンゴルの春-文化人類学ノート』『モンゴル草原の生活世界』『モンゴル遊牧世界(CD-ROM)』などの著書がある。

講演3「カナダ・イヌイットとの体験─人類学の応用」 岸上伸啓(きしがみのぶひろ)

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カナダの極北地域には、イヌイットが住んでいます。彼らはこの100年の間に、急激な社会変化を体験しました。その変化には、平均寿命が伸びるなどプラスの側面があった一方で、市場経済が浸透していく中で高い失業率や高い自殺率など社会・経済問題の発生というマイナスの側面もありました。イヌイットの間で人類学調査を行ってきた私は、ハンター・サポート・プログラムのアセスメントやモントリオール・イヌイット協会の設立にかかわりました。ここでは、私の体験にもとづいて、人類学と開発援助との関係について考えてみたいと思います。

〈講演者プロフィール〉
カナダの極北地域や都市に住むイヌイットの社会関係やその変化について研究をする。最近は、海洋資源の利用と管理、流通についてイヌイット社会において調査を行うとともに、他の地域との比較研究を進めている。主な著書や編著に『極北の民カナダ・イヌイット』や『紛争の海』などがある。

 

当日の様子

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