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2005年6月11日(土)
《機関研究成果公開》研究フォーラム「『歴史と記憶』―ラテンアメリカの先住民族と暴力の歴史化―」 -
- 日時:2005年6月11日(土) 13:30~17:00
- 場所:国立民族学博物館 第4セミナー室(本館正面より入り、階段を上って2階)
- 定員:先着50名 申し込み不要・参加費無料
- 主催:国立民族学博物館
- 共催:日本ラテンアメリカ学会・地域研究コンソーシアム・神戸大学国際文化学部
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お問い合せ:国立民族学博物館 関研究室
〒565-8511 吹田市千里万博公園10-1 TEL:06-6878-8252 e-mail
趣旨
ペルーでは1980年に始まる「ペルー共産党センデロ・ルミノソ」による武装闘争や政府軍による掃討作戦等の結果、約7万人が犠牲となり、うち75%が先住民族であったことがわかってきました。また、長く内戦の続いた中米グアテマラでも、20万人を超える犠牲者の大半が先住民族マヤ系の人々であり、民族虐殺(エスノ・ジェノサイド)の実態が報告されています。
フォーラムでは、虐殺を目撃した先住民族の証言をもとに作品を制作し、記憶と表現の関係を模索し続けるペルー先住民族出身の民俗芸術家エディベルト・ヒメネス・キスペ氏を招き、ラテンアメリカをフィールドとする研究者との間で討論をおこないます。
スペインによる植民地支配、アメリカ大陸生まれのスペイン系住民による独立を経て、現在に至るまで、つねに周縁に位置づけられてきた先住民族に対して行われた虐殺の記憶は、国家の歴史だけに回収しうるものではありません。また、こうした虐殺の記憶が掘り起こされ、記録され、歴史化される過程の追究は、その主体が誰であるのかを含め、きわめて人類学的なテーマであります。さらに、虐殺のトラウマからの社会の再構築という視点からすれば、近年推進されている心のケアに関わるプロジェクトを含めた社会開発に対する人類学の関与を模索することにつながるものと考えられます。プログラム
13:30~13:40 挨拶と趣旨説明
関雄二(国立民族学博物館)<第1セッション> 司会:関雄二 13:40~14:20 「ペルーの暴力の時代と先住民族―ポストコロニアル・ネイションと歴史-」
細谷広美(神戸大学)14:20~15:00 「記憶、証言、アート-虐殺の現場から-」(スペイン語)
エディルベルト・ヒメネス(ペルー民俗芸術家)
逐次通訳:山脇千賀子(文教大学)15:00~15:40 「グアテマラにおける『歴史的記憶の回復』-ポスト・ジェノサイドの政治と民族-」
狐崎知己(専修大学)15:40~16:00 休憩 <第2セッション> 司会:飯島みどり(立教大学) 16:00~17:00 総合討論
コメンテーター:港千尋(多摩美術大学、写真家)研究成果
発表者の一人である細谷広美は、ペルーにおいて1980年代、90年代ペルーでは「ペルー共産党センデロ・ルミノソ」や労働運動を基盤としたMRTA(トゥパック・アマル革命運動)、さらにはその鎮圧にあたった政府軍と警察等、また農民自警団によって起きた先住民系農民の虐殺の過程を紹介し、これが近年、真相究明と和解委員会が最終報告書を提出するまで、ほとんど闇に葬られた様子を説明した。またペルーより来日したエディルベルト・ヒメネスは、箱型祭壇を製作する民俗芸術作家でありながら、虐殺のあった村で証言を集め、その場で絵にしていく作業をすすめてきた経歴を持つ。彼は、虐殺を描く絵画の説明を行うとともに、虐殺についてようやく語りはじめた生き残り被害者の姿を生々しく語った。続く狐崎知巳は、ペルー以上の被害者を出し、かつ国際法上でもジェノサイドと認定されたグアテマラの例を取り上げ、ジェノサイドの背景、ペルーとの共通性、さらには、ジェノサイド後の社会復興おける問題点を具体的に提示した。
第二部の総合討論では、主としてヒメネス氏に対する質問とコメントという形で議論が展開した。コメンテーターの港千尋は、さまざまな情報手段が発達する現代社会でも、古くから使用されてきた伝統的な情報伝達手段が力を用いうる点、そしてヒメネス氏の絵画こそこれにあたる点を強調した。また、議論の中では、こうした絵が、どのように被害にあった農民達の記憶の固定化に役立ち、また精神的トラウマから脱出するための道具として力を持ち得るのか、証言の絵を描く作家自身の立場や対象社会との関係性が焦点になった。また、事件や虐殺について非先住民系の人々(国民全体)を巻き込んでいく必要性と同時に、国民国家の歴史に統合され、記憶が歴史として固定し、無色無臭化されていくことへの危険性まで指摘された。さらに、ヒメネス氏の絵画制作を例に、匿名性ではなく、作品に作家がサインすることに意味がフロアーより質問として出され、虐殺を描く民衆芸術作品の商品化の問題に議論は広がりを見せた