国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

日本における応用人類学の展開のための基礎的研究

研究期間:2004.4-2008.3 / 研究領域:文化人類学の社会的活用 代表者 岸上伸啓(先端人類科学研究部)

研究プロジェクト一覧

研究の目的

欧米では、文化人類学者が政府の開発援助機関や営利企業において人類学的な知識を活用しながら活躍している。一方、日本の文化人類学は、欧米とくらべると応用研究や実践的な側面の展開がたち遅れている。ここで提案する研究は、そのギャップを埋めるための基礎的な研究である。研究の目的は、日本における応用人類学の形成とその展開を促進させるための基礎的な研究を行うことである。とくに、政府やNPOなどによる開発援助や国際協力の計画作り、実施、評価において人類学者がどのような役割を果たすことができ、また、人類学的な知識や知見がどのように生かすことができるかを総合的に研究することである。

研究成果の概要

(1)国際シンポジウムやワークショップ、共同研究会の開催、科学研究費補助金による現地調査などを通して、日本を含む世界の主要援助国の援助機関やNGO、開発関連の教育・研究機関での文化人類学の活用の現状についてさまざまな情報を蓄積することができた。とくにノルウェーやデンマーク、イギリスの援助機関や世界銀行などでは文化(社会)人類学者が積極的に開発援助の実践や政策提言・助言にかかわっており、文化人類学的な知見や方法が活用されていることが判明した。また、イギリスの開発研究所やオランダの社会研究所、ノルウェーのクリスチャン・マイケルセン研究所やベルゲン大学のような開発の専門家を養成する機関や大学において、文化人類学的な知見が活用されていることも分かった。一方、日本においては最近にいたるまで開発援助の実務者と文化人類学者の間には実質的な協力関係が形成されていなかったし、開発研究や教育において文化人類学的な知見十分に活用されることもなかったことが判明した。

(2)国内外の研究者や実務家とともにシンポジウムやワークショップ、研究会を積み重ねることによって、研究者と実務家との間で交流が始まり、連携関係が形成され始めた。さらに国際協力機構や日本文化人類学会、大阪大学グローバルコラボレーションセンター(GLOCOL)などとの連携セミナーや研究会を積極的に開催することによって、機関間の連携も開始された。

(3)日本の文化人類学者の開発援助やさまざまな実践へのかかわり方には多様性が認められる。現在でも、開発援助や実践にかわることに反対を表明する研究者やそれらと意図的に距離を置く研究者が多い。しかしながら、開発援助や国際保健医療協力、先住民問題プロジェクト、文化遺産保存プロジェクトなどの計画の作成や協力援助の実施のための助言や評価において文化人類学的な知見や方法が活用しうることが確認できた。

(4)日本において実践人類学を展開するための基盤を形成することができた。

研究成果公表計画及び今後の展開等

(1)研究領域「文化人類学の社会的活用」の成果として明石書店から『みんぱく実践人類学シリーズ』全9巻を刊行することになった。このうち8巻が本プロジェクトの成果である。平成20年度末までに下記の6巻が刊行され、残りの2巻は平成21年度刊行の予定である。

《既刊》
●松園万亀雄・門司和彦・白川千尋編
2008 『人類学と国際保健医療協力』(みんぱく実践人類学シリーズ第1巻)明石書店。
●松園万亀雄・縄田浩志・石田慎一郎編
2008 『アフリカの人間開発――実践と文化人類学』(みんぱく実践人類学シリーズ第2巻)明石書店。
●岸上伸啓編
2008 『海洋資源の流通と管理の人類学』(みんぱく実践人類学シリーズ第3巻)東京:明石書店。
2008 『北アメリカ先住民の社会経済開発』(みんぱく実践人類学シリーズ第4巻)東京:明石書店。
●関雄二・狐崎正己・中村雄祐編
2009 『グアテマラ内戦後 人間の安全保障の挑戦』(みんぱく実践人類学シリーズ第5巻)東京:明石書店。
●信田敏宏・真崎克彦編
2009 『東南アジア・東アジア 開発の人類学』(みんぱく実践人類学シリーズ第6巻)東京:明石書店。
《予定》
●岸上伸啓編
『開発と先住民』(みんぱく実践人類学シリーズ第7巻)東京:明石書店。
●滝村卓司・鈴木紀編
『開発とNGO、ジェンダー(仮題)』(みんぱく実践人類学シリーズ第8巻)東京:明石書店。

(2)関連成果出版物

プロジェクトメンバーによる論文が多数、出版されているが、おもな特集や報告書は次のとおりである。
●岸上伸啓
2008 『先進国における援助事業への文化人類学(者)の活用についての現状と課題』(平成19年度国際協力機構 客員研究員報告書)東京:国際協力機構。
●岸上伸啓責任編集
2007 「特集 先住民と開発」『民博通信』117号、pp.1-17。
●鈴木紀
2008 「文化人類学者による開発研究の動向」『アジ研ワールドトレンド』151:4-7.
2008 「プロジェクトからいかに学ぶか:民族誌による教訓抽出」『国際開発研究』17(2):45-58.
●鈴木紀編
2008 『開発援助プロジェクトの評価方法に関する文化人類学的研究』(平成17年度~平成19年度科学研究費補助金・基盤研究(B)研究成果報告書)大阪:国立民族学博物館。
●鈴木紀責任編集
2006 「特集 フィールドとしての開発援助」『民博通信』 112号、pp. 2-17。
●人間文化研究機構編
2008 「特集 国際開発協力へのまなざし―実践とフィールドワーク―」『人間文化』第7号。
MINPAKU Anthropology Newsletter 2006年、23号の特集 "Minpaku and Anthropology in Practice"など。
2008年度成果
研究実施状況
(1)ワークショップ・公開シンポジウムの開催
●実践人類学ワークショップ「技術協力プロジェクト評価手法に関する文化人類学からの提言」
代表:鈴木紀 2009年2月16日
2009年2月16日にJICA研究所において国際協力のための実践人類学ワークショップ「技術協力プロジェクト評価手法に関する文化人類学からの提言」(代表者 鈴木紀)を開催した。このワークショップでは、文化人類学の民族誌視点(異文化を質的に理解する方法)から、現行の技術協力プロジェクトの評価手法を検討し、プロジェクト評価を一層充実させるための方法を提案した。
●一般公開シンポジウム「人類学の挑戦―これまでとこれから」
代表:岸上伸啓 2009年3月8日
2009年3月8日(日)に民博において一般公開シンポジウム「人類学の挑戦―これまでとこれから」(代表者 岸上伸啓)を開催した。このシンポジウムでは、平成16年度から平成20年度にかけて実施された機関研究プロジェクト「日本における応用人類学の展開のための基礎的研究」の総括と実践(公共)人類学の今後の展開について報告するとともに、検討した。
(2)国際開発援助機関および開発援助の現地調査
2008年度は、田村克己を代表者とする科研基盤研究(B)「世界の開発援助機関と援助活動に関する文化人類学的研究」のもとで、国際開発援助機関および開発援助の現地調査を実施した。
松園万亀雄は、2008年8月11日から8月25日までケニア共和国のグチャ県キシイとメル・ノース県マウアにおいて開発援助機関の調査を実施した。
石田慎一郎は、2008年7月28日から8月28日までケニア共和国においてNGO団体ハビタット・フォー・ヒューマニティ・ケニア、メル博物館、日本学術振興会ナイロビ研究連絡センターにおいてケニアにおける開発援助の現状について調査を実施した。
關雄二は、2009年2月21日より3月7日まで、ペルー共和国において、世界文化遺産であるチャビン・デ・ワンタル遺跡を対象に、日本の文化無償で建設された遺跡博物館の運営や地域住民参加型のプロジェクトについての調査を実施した。
田村克己は、2009年3月15日から3月22日までベトナムにおいて国際協力機構やユネスコによる文化遺産保全プロジェクトに関する現地調査を実施した。
岸上伸啓は、国内にとどまり研究メンバーと緊密に連携をとりながら、過去4年間に実施した研究成果の取りまとめ作業を行った。
(3)共同研究会
●「開発援助の人類学的評価に関する研究」(代表者:鈴木紀)
共同研究会「フェアトレードの思想と実践」(代表者 鈴木紀)が2008年11月30日および2009年2月22日にみんぱくにおいて実施された。フェアトレードを考える視点や開発研究におけるフェアトレードの位置づけを検討した後、日本におけるフェアトレードの特徴や現状について紹介と検討を行った。
(4)国際協力機構(JICA)と民博の連携セミナーの実施
鈴木紀、白川千尋、佐藤寛、沖浦文彦が中心となって、2007年度から『JICA大阪・民博セミナー』と銘打った公開セミナーを開始した。このセミナーの目的は、現行の国際協力・開発援助の質的改善につなげるうえで、JICAなどの実務者と文化人類学者をはじめとする社会科学分野の研究者が、国際協力・開発援助のさまざまな場において、どのような関係を切り結ぶことができるのかを議論することであった。2008年度には、名称を「研究者と実務者による国際協力勉強会(JICA大阪・民博・阪大GLOCOLセミナー)」と改称し、第4回から第9回までJICA大阪国際センターにおいて開催した。各回、開発プロジェクトや開発の現場における文化人類学(者)の役割などをめぐって活発な議論が行われた。
●第4回「日本と開発途上国との社会・文化的ギャップをいかに乗り越え、活かすか」
報告者:深田進(太平洋人材交流センター) 2008年6月23日
●第5回「技術協力プロセスにおけるコンテクストの壁-「経験からの学び」の枠組みより」
報告者:沖浦文彦(国際協力機構) 2008年7月25日
●第6回「先進国における援助事業への文化人類学(者)の活用についての現状と課題
報告者:岸上伸啓(民博) 2008年10月31日
●第7回「嫁とフィールドワーカーのはざまで-インド村落調査での葛藤と苦悩」
報告者:常田夕美子(大阪大)/コメンテーター:酒井利文(国際協力機構) 2008年11月28日
●第8回「開発の実践と研究をつなぐ試み-二重人格的アプローチの挑戦」
報告者:上田晶子(大阪大) 2009年1月30日
●第9回「JICA事業への申請に至った経緯」
報告者:スチンフ(大阪大) 2009年3月19日
(5)日本文化人類学会と民博の連携事業「国際協力のための実践人類学ワークショップ」ワークショプの実施
本年度は、下記の2つのワークショップを実施した。
●実践人類学ワークショップ「技術協力プロジェクト評価手法に関する文化人類学からの提言」
代表者:鈴木紀 2009年2月1日
日本文化人類学会との共催で、2009年2月16日にJICA研究所において実践人類学ワークショップ「技術協力プロジェクト評価手法に関する文化人類学からの提言」(代表者 鈴木紀)を開催。
●一般公開シンポジウム「人類学の挑戦―これまでとこれから」
代表者:岸上伸啓 2009年3月8日
日本文化人類学会との共催で、2009年3月8日に民博において一般公開シンポジウム「人類学の挑戦―これまでとこれから」(代表者 岸上伸啓)を開催。
(6)情報公開
成果本の刊行(『実践人類学シリーズ』第3巻~6巻)や民博のホームページを通して、ワークショップや公開講演会・シンポジウムの情報、プログラム、報告要旨をできる限り公開した。
研究成果概要

(1)これまでの研究成果を公開し、検討することによってアフリカやアジア、ラテンアメリカなど諸外国における開発プロジェクトの計画や実施、評価において、文化人類学(者)が重要な役割を果たしえることを確認することができた。

(2)国際協力のやり方のひとつとして「フェアトレード」が現地の持続可能な経済開発において有効であろうという見通しのうえで、あらたな共同研究が展開された。

(3)これまでの研究成果として『実践人類学シリーズ』第3~6巻を出版し、日本における実践人類学の基盤形成に貢献した。

(4)民博と国際協力機構(JICA)や日本文化人類学会との連携研究やワークショップが継続され、開発の実務家や国際協力機構、日本文化人類学会との研究上の連携が実質化し、実践人類学を展開するための基盤を形成した。

機関研究に関連した公表実績(出版、公開シンポジウム、学会分科会、電子媒体など)

平成19年度は、編集本や論文、公開シンポジウム、学会報告などのかたちで成果報告がなされた。

(1)出版
*機関研究の成果として本年度は、『みんぱく実践人類学シリーズ』第3巻から第6巻までが出版された。
●岸上伸啓編
2008 『海洋資源の流通と管理の人類学』(みんぱく実践人類学シリーズ第3巻)東京:明石書店。
2008 『北アメリカ先住民の社会経済開発』(みんぱく実践人類学シリーズ第4巻)東京:明石書店。
●関雄二・狐崎正己・中村雄祐編
2009 『グアテマラ内戦後 人間の安全保障の挑戦』(みんぱく実践人類学シリーズ第5巻)東京:明石書店。
●信田敏宏・真崎克彦編
2009 『東南アジア・南アジア 開発の人類学』(みんぱく実践人類学シリーズ第6巻)東京:明石書店。
*機関研究に関連した報告書や論文などとして下記が出版された。
●岸上伸啓編
2008 『先進国における援助事業への文化人類学(者)の活用についての現状と課題』(平成19年度国際協力機構 客員研究員報告書)東京:国際協力機構。
●鈴木紀編
2008 『開発援助プロジェクトの評価方法に関する文化人類学的研究』(平成17年度~平成19年度科学研究費補助金・基盤研究(B)研究成果報告書)大阪:国立民族学博物館。
2008 「文化人類学者による開発研究の動向」『アジ研ワールドトレンド』151:4-7.
(2)公開講演会・シンポジウム・ワークショップ
日本人類学会との共催で、2009年2月16日(月)にJICA研究所において実践人類学ワークショップ「技術協力プロジェクト評価手法に関する文化人類学からの提言」(代表者 鈴木紀)と2009年3月8日(日)に民博において一般公開シンポジウム「人類学の挑戦―これまでとこれから」(代表者 岸上伸啓)を開催した。また、JICA大阪と大阪大学GLOCOLセンターとの連携事業として公開の勉強会を6回開催した。
(3)学会報告など
岸上伸啓は、グリーンランドのヌークで2008年8月22日-26日に開催された「第6回国際極北社会科学学会(The 6th International Congress of Arctic Social Sciences, 略称ICASS VI)」に参加し、実践人類学プロジェクトの成果として「モントリオールのホームレス・イヌイット」と「文化人類学的生業論」に関する報告を行った。
2007年度成果
研究実施状況
(1)国際ワークショップ・研究フォーラム・研究会の開催
●日本文化人類学会第41回研究大会・分科会「開発援助プロジェクトと民族誌的調査」
代表:鈴木紀 2007年6月2日
●人間文化研究機構第7回公開講演会・シンポジウム「国際開発協力へのまなざし-実践とフィールドワーク-」
機構主催 2007年11月30日
2007年11月30日に大阪のIMPホールにおいて人間文化研究機構第7回公開講演会・シンポジウム「国際開発協力へのまなざし-実践とフィールドワーク-」を開催し、佐藤寛、鈴木紀らがフェアトレードについて講演やパネルディスカッションを行なった。国際開発協力のひとつの方法としてのフェアトレードの特徴や長所、問題点などが総合的に検討された。
●第5回国際開発協力ワークショップ「オランダの社会研究所とNGOおよび世界銀行の国際協力」
代表者:岸上伸啓 2007年12月1日-2日
2007年12月1日-2日に民博において第5回国際開発協力ワークショップ「オランダの社会研究所とNGOおよび世界銀行の国際協力」(代表者:岸上伸啓)を開催した。このワークショップでは、オランダの社会研究所(Institute of Social Studies)の開発教育や研究、実践およびオランダのNGO団体(Woord en Daad)の活動における文化人類学(者)の役割や活用について、さらに世界銀行(World Bank)の中央アジアプロジェクトにおける文化人類学(者)の役割や活用について検討を加えた。
●一般公開ワークショプ「青年海外協力隊と文化人類学」
代表:鈴木紀 2008年3月22日
2008年3月22日に民博において公開ワークショプ「青年海外協力隊と文化人類学」(代表者 鈴木紀)を日本文化人類学会と共同開催した。このワークショップでは青年海外協力隊に参加し帰国後国際協力活動に従事する者および文化人類学研究に従事する者をパネリストに招き、青年海外協力隊と文化人類学の互恵的関係を中心に議論した。
(2)国際開発援助機関および開発援助の現地調査
《田村科研》
岸上伸啓は、2007年11月28日から12月7日まで英国の開発援助庁(DFID)、サセックス大学開発研究所(Institute of Development Studies)、サセックス大学文化・環境・開発センター(Centre for Culture, Environment and Development)、ケンブリッジ大学社会人類学部において開発実践や開発研究・教育における文化(社会)人類学の役割と活用に関する調査を実施した。
石田慎一郎は、2008年1月12日から2月3日までケニアのNGO団体ハビタット・フォー・ヒューマニティ・ケニア、メル博物館、マウア身障者ワークショップにおいてケニアにおける開発援助の現状について調査を実施した。
關雄二は、グアテマラ共和国、2008年2月27日から3月9日までグアテマラ人類学庁における文化遺産保護政策の調査を行った。またNGO組織「平和のための歴史」において、来年度に予定されている出版について打ち合わせを行った。
田村克己は、2008年3月14日から3月23日までカンボジアにおいて国際協力機構の開発プロジェクトに関する現地調査を実施した。
《鈴木科研》
鈴木紀は、2007年8月23日から9月5日までメキシコ、チアパス州に出張し、国際協力機構が2003年3月から2006年2月にかけて実施した「メキシコ、ソコヌスコ地域小規模生産者支援計画」の影響を聞き取り調査した。
白川千尋は、2007年8月2日から10日まで、セネガルのダカールにて、セネガルを対象とした日本の国際協力、とくに青年海外協力隊事業の評価における文化人類学の役割に関する調査を実施した。
(3)共同研究会
2つの民博の共同研究会を核とした共同研究が実施された。
●「開発援助の人類学的評価に関する研究」(代表者:鈴木紀)
共同研究会「開発援助の人類学的評価に関する研究」は成果公開のため1年間延長し、研究会メンバー各自が研究成果のとりまとめにあたった。2008年3月1日-2日、および16日に研究会を開催し、研究成果を確認した。
●「開発と先住民族」(代表者:岸上伸啓)
共同研究会「開発と先住民族」は、2007年7月7日-8日、10月13日-14日、12月1日-2日、2008年1月13日に開催された。本年度は、「南アジア・東南アジア」、「ジェンダーと開発」、「オランダの社会研究所とNGOsおよび世界銀行の国際協力」、「シベリアの開発」とテーマとして取り上げ、検討を加えた。
(4)国際協力機構(JICA)と民博の連携セミナーの実施
鈴木紀、白川千尋、佐藤寛、沖浦文彦が中心となって、2007年度から『JICA大阪・民博セミナー』と銘打った公開セミナーを共同開催で開始した。このセミナーの主な目的は、現行の国際協力・開発援助の質的改善につなげるうえで、JICAなどの実務者と文化人類学者をはじめとする社会科学分野の研究者が、国際協力・開発援助のさまざまな場において、どのような関係を切り結ぶことができるのかを議論することである。各回では、プロジェクト評価や研修員受入事業などの具体的な事例に基づく報告が行われた後、これらの具体的な場における文化人類学の役割などをめぐって活発な議論が行われた。
●第1回(2007年10月12日(金)18:30~20:30、於JICA大阪国際センター、参加者53名)
問題提起:「日本の人類学と開発-この15年の変化」佐藤寛(アジア経済研究所・国立民族学博物館)
報告:「人類学者による開発援助プロジェクト評価の課題」鈴木紀(国立民族学博物館)
●第2回(2008年1月11日(金)18:30~20:30、於JICA大阪国際センター、参加者34名)
コメント:佐藤寛(アジア経済研究所)、白川千尋(国立民族学博物館)
報告:「JICA大阪の実務と問題意識-研修員受入事業を題材に」沖浦文彦(JICA大阪国際センター)
(5)日本文化人類学会と民博の連携事業「国際協力のための実践人類学ワークショップ」ワークショプの実施
鈴木紀が中心となって、日本文化人類学会の実践人類学連携事業実行委員会との連携事業を開始した。本年度は、下記の2つのワークショップを実施した。
●《第1回ワークショップ》
日本文化人類学会第41回研究大会・分科会「開発援助プロジェクトと民族誌的調査」
代表者:鈴木紀 2007年6月2日
2007年6月2日に名古屋大学で開催された日本文化人類学会第41回研究大会・分科会「開発援助プロジェクトと民族誌的調査」(代表者:鈴木紀)を実施し、鈴木紀や佐藤寛、荒木美奈子、菅原鈴香、小國和子が開発プロジェクトと民族誌調査について報告し、検討を加えた。
●《第2回ワークショップ》
実践人類学ワークショップ「青年海外協力隊と文化人類学」
代表者:鈴木紀 2008年3月22日
2008年3月22日に民博において国際協力のための実践人類学ワークショップ「青年海外協力隊と文化人類学」(代表者:鈴木紀)を開催し、青年海外協力隊に参加し帰国後国際協力活動に従事する者および文化人類学研究に従事する者をパネリストに招き、青年海外協力隊と文化人類学の互恵的関係について検討を加えた。
(6)情報公開
民博のホームページを通して、ワークショップや公開講演会・シンポジウムの情報、プログラム、報告要旨をできる限り、公開した。
研究成果概要

(1)アフリカ、アジア、ラテンアメリカの開発現場における現地調査の進展やシンポジウム・ワークショップの結果、国際協力(異文化社会における社会経済開発)においては地元の視点と地元民の積極的な開発協力への参加が不可欠であり、文化人類学的な視点が開発の計画や実施、評価において重要であることが確認できた。

(2)共同研究会やシンポジウムを通して、国際協力のやり方のひとつとして「フェアトレード」が現地の持続可能な経済開発において有効であろうという見通しがついた一方、問題点や克服すべき点などが指摘された。

(3)英国やオランダの援助機関や研究所では、国際協力を実施するうえで文化人類学など人文系の知見の重要性を認識し、開発の研究教育や実践に活用していることが判明した。

(4)民博と国際協力機構(JICA)や日本文化人類学会との連携研究やワークショップが開始され、開発の実務家や関連学会との研究上の連携が進展した。

出版

◎機関研究に関連した編著など

●松園万亀雄・門司和彦・白川千尋編
2008 『人類学と国際保健医療協力』(みんぱく実践人類学シリーズ1)明石書店。
●松園万亀雄・縄田浩志・石田慎一郎編
2008 『アフリカの人間開発――実践と文化人類学』(みんぱく実践人類学シリーズ2)明石書店。
●岸上伸啓責任編集
2007 「特集 先住民と開発」『民博通信』117号、pp.1-17。
●人間文化研究機構編
2008 「特集 国際開発協力へのまなざし ミ実践とフィールドワーク-」『人間文化』第7号。

◎機関研究に関連した各自の著書・論文・エッセイなど

●石田慎一郎
2007 「ADRとメノナイト__アジア・アフリカにおける多元的法体制の新しい展開」『法律時報』79(12)、pp.120-126。
2008 「ケニアの民間開発」『季刊民族学』123号、pp. 44-59。
2008 「ケニア中央高地ニャンベネ地方における国際開発NGO――ハビタット・フォー・ヒューマニティによる住宅建設支援とローン返済の現状」松園万亀雄・縄田浩志・石田慎一郎編『アフリカの人間開発――実践と文化人類学』(みんぱく実践人類学シリーズ2)pp.221-257. 明石書店。
●岸上伸啓
2007 『カナダ・イヌイットの食文化と社会変化』世界思想社。
2007 「先住民の開発へのかかわり方と人類学研究」『民博通信』117号、pp.2-5。
2007 「クジラ資源はだれのものか-アラスカ北西部における先住民捕鯨をめぐるポリティカル・エコノミー-」秋道智彌編『資源とコモンズ』(資源人類学8), pp.115-136. 弘文堂。
2008 「「はまる」立場から カナダ・イヌイット社会における社会経済開発-地域社会の経済論理と近代経済学の葛藤-」高倉浩樹編『地域分析と技術移転の接点 -「はまる」「みる」「うごかす」視点と地域理解-』(東北アジア研究シリーズ9号)pp.13-64. 東北大学・東北アジア研究センター
●白川千尋
2008 「国際医療協力における文化人類学の二つの役割」、松園万亀雄・門司和彦・白川千尋編『人類学と国際保健医療協力』, pp.61-86. 明石書店。
印刷中 「JICAの終了時評価と文化人類学の役割-医療協力プロジェクトとヴァヌアツを対象としたプロジェクトの事例より」鈴木紀編 『科研報告書:開発援助プロジェクトの評価方法に関する文化人類学的研究』、国立民族学博物館。
●鈴木紀
2007 「ラテンアメリカの地誌を見る視点」『ラテンアメリカ』(朝倉世界地誌講座14、坂井正人・鈴木紀・松本栄次編)、pp. 14-23、東京:朝倉書店。
2007 「メキシコ・チアパス州ソコヌスコ地域小規模生産者支援計画(PAPROSOC)の人類学的再評価」『第18回国際開発学会全国大会報告論文集』pp.174-175、 沖縄:沖縄大学。
印刷中 『科研報告書:開発援助プロジェクトの評価方法に関する文化人類学的研究』、国立民族学博物館。
●關雄二
2007 「文化遺産の開発と住民参加」『季刊民族学』121: 42-45。
2007 「盗掘者の論理と発掘社の論理」『季刊民族学』121: 24-29。
2007 「文化遺産は誰のものか」『季刊民族学』121: 12-15。
2007 「モスコソさんとの出会い-もう一つの発掘-」『チャスキ(アンデス文明研究会会報)』35:1-3、東京:原人舎。
2007 「住民参加型のペルー遺跡観光」『月刊みんぱく』31(3):6-7。
2007 「文化遺産をめぐる国際協力」『学士会会報』862:126-131、東京:学士会。
松園万亀雄 (緒方貞子と対談)
2007 「特集 開館30周年記念特別対談 国際協力に民族学の知識と経験を」『月刊みんぱく』11月号 pp.2-9.
2006年度成果
研究実施状況
(1)国際ワークショップ・研究フォーラム・研究会の開催
●グアテマラ農業開発におけるアマランサス栽培の可能性の視察および、2006年3月11日開催「グアテマラ・フォーラム」のまとめと成果刊行の打ち合わせ
2006年5月20日-21日
關雄二は、2006年5月20日-21日、信州大学大学院農学研究科(機能性食料開発学専攻、植物遺伝育種学研究室)において、会合「グアテマラ農業開発におけるアマランサス栽培の可能性の視察および、2006.3.11.開催グアテマラ・フォーラムのまとめと成果刊行の打ち合わせ」を実施した。
●日本文化人類学会第40回研究大会 分科会「実践人類学の必然性と可能性」
代表:鈴木紀 2006年6月4日
2006年6月4日に、東京大学で開催された日本文化人類学会第40回研究大会において分科会「実践人類学の必然性と可能性」(代表者 鈴木紀)を組織し、実施した。このシンポジウムでは、今なぜ、実践人類学が必要であるのか、そしてそれを行うことによって人類学研究にどのような展望がひらけるかについて検討した。
●世界遺産シンポジウム「文化遺産との共生」
代表:關雄二 2006年6月9日
2006年6月9日に大阪国際交流センターにおいて世界遺産シンポジウム「文化遺産との共生」(代表者 關雄二)が実施され、破壊の危機にさらされている文化遺産をとりあげ、何を守り、そのことがどのような意味を持つかを、ジャーナリスト、地域住民、研究者など様々な視点から検討を加えた。
●研究集会「人間を中心にしたマラリア対策-ミャンマーJICAプロジェクトからの提言」
代表:白川千尋 2006年10月11日
2006年10月11日に研究集会「人間を中心にしたマラリア対策-ミャンマーJICAプロジェクトからの提言」(代表者 白川千尋)を、長崎市で開催された第47回日本熱帯医学会・第21回日本国際保健医療学会合同大会において開催した。この研究集会では、住民参加型のマラリア対策活動や医療協力活動における文化人類学的視点の役割などをめぐって、具体的な事例にそくした多角的なコメントが寄せられた。
●第47回日本熱帯医学会・第21回日本国際保健医療学会合同大会 シンポジウム「文化人類学は医療協力の役に立つのか?:医療従事者と人類学者の対話にむけて」
代表:岸上伸啓 2006年10月13日
2006年10月13日に長崎市ブリックホールで開催された第47回日本熱帯医学会・第21回日本国際保健医療学会合同大会においてシンポジウム「文化人類学は医療協力の役に立つのか?:医療従事者と人類学者の対話にむけて」(代表者 岸上伸啓)を実施し、医療活動や予防活動において文化人類学がいかに貢献しうるかについて事例をもとに検討した。このシンポジウムに先立ち松園万亀雄が「文化人類学と開発援助:グシイの家族計画を中心に」という特別講演を行った。
●一般公開シンポジウム「実践としての文化人類学 ─ 国際開発協力と防災への応用 ─」
代表:林勲男・岸上伸啓 2006年10月21日
2006年10月21日に「文化人類学の社会的活用」の成果報告として防災研究班と合同で、一般公開シンポジウム「実践としての文化人類学 ─ 国際開発協力と防災への応用 ─」(代表者 林勲男・岸上伸啓)をグランキューブ大阪(大阪国際会議場)において実施した。この一般公開シンポジウムでは、文化人類学や社会学が開発援助や防災活動においていかに活用されうるかについて討論した。
●国際シンポジウム「ノルウェーの開発協力:ベルゲン大学、クリスチャン・マイケルセン研究所、NGO」
代表:岸上伸啓 2006年11月23-24日
2006年11月23日-24日に国際シンポジウム「ノルウェーの開発協力:ベルゲン大学、クリスチャン・マイケルセン研究所、NGO」(代表者 岸上伸啓)を国立民族学博物館において開催した。このシンポジウムでは、ノルウェーから招へいしたベルゲン大学のE. Hviding教授、L. Manger教授、クリスチャン・マイケルセン研究所のA. Jerve氏を中心に、大学や研究所、開発NGOがいかに開発援助に係わっているかに関してノルウェーの事例を基に検討した。
(2)国際開発援助機関および開発援助の現地調査
2006年度は、田村克己を代表者とする科研基盤研究(B)「世界の開発援助機関と援助活動に関する文化人類学的研究」のもとで、国際開発援助機関および開発援助の現地調査を実施した。また、機関研究推進経費による海外調査も実施された。
松園万亀雄は、2006年8月7日から21日までケニア共和国におけるケニア医学研究所を中心に日本のODAによる医療援助事業の実態に関する現地調査を行った。
樫永真佐夫は、2006年10月29日から11月24日までベトナムとタイにおいてソンダーダム建設が黒タイ村落生活に及ぼす諸影響に関する調査を行った。
岸上伸啓は、2006年11月28日から12月7日までオランダの外務省開発部や社会開発研究所、ベルギーの開発協力庁などにおいてオランダとベルギーの開発援助および開発援助研究に関する調査を行った。
石田慎一郎は、2007年2月8日から2月24日までケニア共和国における開発援助NGO「ハビタット・フォー・ヒューマニティ」による住宅建設支援事業に関する調査を行った。
關雄二は、2007年2月18日から3月4日までグアテマラにおいて文化政策や観光開発に人類学者がどのように係わっているかに関する実態調査を行った。
田村克己は、2007年3月23日から3月31日までベトナムとミャンマーにおいて日本のODAによる開発援助に関する調査を行った。
白川千尋は、機関研究開拓推進経費によって2007年2月19日から28日まで南アフリカとタイで、日本の国際協力事業における文化人類学的視点の活用に関する調査を実施した。
(3)共同研究会
2つの民博の共同研究会を核とした共同研究が実施された。
●「開発援助の人類学的評価法に関する研究」
鈴木紀を研究代表とする共同研究会「開発援助の人類学的評価法」が2006年6月17・18日、10月21・22日、11月23日、12月9・10日、2007年2月17・18日に開催され、開発援助の評価(方法)について検討がなされた。
●「開発と先住民族」
岸上伸啓を研究代表とする共同研究会「開発と先住民族」が2006年5月27日、6月24・25日、8月5日、10月13日、11月18・19日、11月23日・24日に開催された。本年度は、「開発とNGO」、「北アメリカ先住民の開発」、「開発と人権」、「医療協力」、「先住民族と海洋資源の開発」、「ノルウェーの開発協力」をテーマとして取り上げ、検討を加えた。
(4)情報公開
民博のホームページを通して、ワークショップの報告原稿やプログラム・抄録集をできうる限り公開した。
研究成果概要

(1)アフリカ、アジア、ラテンアメリカにおける経済援助や医療援助に関する現地調査が進められ、ODAや開発NGOに関する基礎的なデータが蓄積されてきた。この一連の調査によって開発援助における文化人類学的知識や文化人類学者の活動の重要性が認識された。

(2)ノルウェーやオランダでは、開発援助の計画や実施、教育において文化人類学・社会学の知見が重視され、大学や研究所に属する文化人類学者が国内外の開発援助教育や開発プロジェクトに深く関与していることが判明した。

(3)国際シンポジウムや学会での分科会・シンポジウムを開催することによって、分野を超えた国内外の研究者のネットワーク化が進んだ。とくに、第47回日本熱帯医学会・第21回日本国際保健医療学会合同大会(長崎市ブリックホール)において共催したシンポジウム:「文化人類学は医療協力の役に立つのか?:医療従事者と人類学者の対話にむけて」によって医療従事者と文化人類学者の対話や協力がはじまった。

出版
●Iwasaki-Goodman, Masami
2006 "Dam Construction and its Effects on Ainu Culture" MINPAKU Anthropology Newsletter 23: 9-10.
●岸上伸啓
2007 「北方先住民の社会経済開発-カナダ・イヌイットの場合-」煎本孝・山岸俊男編 pp. 126-149. 『現代文化人類学の課題』 京都:世界思想社。
●Kishigami, Nobuhiro
2006 "Inuit Social Networks in an Urban Setting" in P. Stern and L. Stevenson (eds.) Critical Inuit Studies: An Anthology of Contemporary Arctic Ethnography. pp.206-216., Lincoln, Nebraska: University of Nebraska Press.
2006 "Anthropological Research and Inuit Community Development in Montreal, Canada" MINPAKU Anthropology Newsletter 23: 3-4.
●Matsuzono, Makio
2006 "Minpaku and Anthropology in Practice" MINPAKU Anthropology Newsletter 23: 1-2.
●関雄二
2006 「世界遺産マチュ・ピチュの華やかさに隠れた出土品の所有権争い」『チャスキ(アンデス文明研究会会報)』33: 68-72、東京:原人舎。
2007 「住民参加型のペルー遺跡観光」『月刊みんぱく』31(3):6-7。
2007 「文化遺産をめぐる国際協力」『学士会会報』862:126-131。
●白川千尋
2006 「マラリア対策と文化人類学-各個研究:国際協力・開発援助と文化人類学の関係に関する研究」『民博通信』113:18-19。
●Shirakawa, Chihiro
2006 A Malaria Control Project and Anthropology in Myanmar. MINPAKU Anthropology Newsletter 23:5-6.
●鈴木紀
2007  「ユカテコ:衰退する焼畑農耕と高揚し始めた民族意識」黒田悦子、木村秀雄編、pp.116-129、『講座ファーストピープルズ―世界先住民の現在 第8巻中米・カリブ海および南米』、明石書店。
●Suzuki, Motoi
2006 "¿ Cómo apreciar las organizaciones Mayas en Yucatán: un dilema para la antropología de desarrollo". El Mundo Maya: miradas japonesas (Kazuyasu Ochiai ed.), pp. 211-226, Mérida, Mexico: Universidad Autonóma de México.
2006 "How to improve Project Cycle Management: an Anthropological Approach" MINPAKU Anthropology Newsletter 23: 7-8, 2006.
2005年度成果
研究実施状況
(1)国際ワークショップ・研究フォーラムの開催
●研究フォーラム「「歴史と記憶」 ― ラテンアメリカの先住民族と暴力の歴史化 ―」
代表:関 雄二 2005年6月11日
このフォーラムでは、ペルーにおける虐殺を目撃した先住民族の証言をもとに作品を制作し、記憶と表現の関係を模索し続けるペルー先住民族出身の民俗芸術家エディベルト・ヒメネス・キスペ氏を中心に、ラテンアメリカをフィールドとしている細谷広美、狐崎知己、飯島みどり、港千尋らの研究者によって報告と討論が実施された。
●第3回 国際開発援助ワークショップ「開発とジェンダー(2)」
代表:岸上伸啓 2005年6月19日
マッギル大学人類学部教授で、民博客員教授のローレル・ボッセン博士が「中国農村部における土地統制と人口のコントロール」を講演し、それをもとに参加者による検討が行なわれた。
●第4回 国際開発援助ワークショップ「カナダ国際開発庁と世界銀行における人類学者・社会学者の役割:社会評価と参加型開発、社会の安全配慮」
代表:岸上伸啓 2005年11月12-13日
このワークショップでは、世界銀行、カナダ国際開発庁および日本の援助機関である国際協力銀行と国際協力機構における人類学者や社会学者の役割、さらには参加型開発や世界銀行の「安全配慮政策」に関して報告と検討が行われた。
●研究フォーラム「ジェノサイド後の社会の再編成 ─ 平和のためのコミュニティー・ミュージアム ─」
代表:関雄二 2006年3月11日
このフォーラムでは、グアテマラの虐殺の記憶のための博物館を虐殺現場の村落に建設する運動に従事している法人類学者フェルナンド・モスコソ氏を中心に、ジェノサイド後の治癒と開発援助のあり方について報告と検討がなされた。
(2)国際開発援助機関および開発援助の現地調査
2005年度は、田村克己を代表者とする科研基盤研究(B)「世界の開発援助機関と援助活動に関する文化人類学的研究」のもとで、国際開発援助機関および開発援助の現地調査を実施した。
岸上伸啓は、2005年8月24日から9月23日までカナダのモントリオールにおける都市在住のイヌイットによるコミュニティー形成および開発に関する現地調査を実施した。また、2005年11月19日から12月1日まで、ノルウェー開発協力庁、ベルゲン大学開発研究所および社会人類学部、クリスチャン・マイケルセン研究所、ドイツ技術協力公社(GTZ)において、開発の基本方針や開発における社会科学(者)の役割に関する調査を実施した。
2005年11月に松園万亀雄は国際開発銀行において、岸上伸啓は国際協力機構において、現在実施中の開発援助に関する研究およびワークショップ開催について意見交換を行った。
石田慎一郎は、2005年11月17日から2006年2月6日まで、ケニアにおけるNGOの援助活動に焦点をあわせ、プランによるフォスターペアレント事業と給水事業、ならびにハビタット・フォー・ヒューマニティによる住宅建設支援事業の現状に関する調査を実施した。
關は、2006年2月15日から2週間、グアテマラにおいて各国援助機関(EU、スペイン、イタリア)やNGO、先住民団体を訪問し、内戦終結後の開発援助、とりわけ1996年の和平協定以降進められてきた人権、先住民の権利に関わる開発援助の現状、ならびに当該事業における人文社会科学の役割についてインタビュー調査を実施した。
2006年3月に田村克己と樫永真佐夫は、ベトナムにおける開発援助活動の現状について予備調査を実施し、問題点の明確化を図った。
(3)共同研究会
●「開発援助の人類学的評価法に関する研究」
鈴木紀を研究代表とする共同研究会「開発援助の人類学的評価法」が2005年4月9日、6月18日・19日、10月15日、11月12日、2月18日、2月19日に開催され、開発援助の評価(方法)について検討がなされた。
●「開発と先住民族」
岸上伸啓を研究代表とする共同研究会「開発と先住民族」が2005年10月8日、11月12日、12月3日に開催された。12月3日には、公開研究会として「アフリカ地域の開発」が開催され、アフリカ地域における開発の現状が報告され、検討がなされた。
(4)情報公開
民博のホームページを通して、ワークショップの報告原稿やプログラム・抄録集をできうる限り公開した。
研究成果概要

(1)アジアや中米、アフリカにおける開発援助の現場おいては、人類学的・社会学的な知識が十分に活用されているとは言いがたいことが確認できた。

(2)世界銀行やカナダ開発庁では専任の人類学者がおり、開発援助の計画や評価に深くかかわっているが、人類学者や社会学者の数は少なくかつその役割も限られている。一方、ノルウェーでは、人類学部の出身者が開発援助庁のさまざまな部署で活躍している。

(3)ノルウェーでは、人類学が社会的に高く評価され、かつ現地調査の実施とそれに基づく民族誌の作成という伝統が強く根付いている。さらに、ベルゲン大学では大学が開発援助の研究や実施を積極的に推し進めており、日本の人類学界は学ぶべき点が多いことが判明した。また、ノルウェーの開発援助の多くはNGOが担っており、開発援助におけるNGOの活動の重要性が再認識できた。

(4)国際開発援助ワークショップを通して、国際協力機構や国際開発銀行の実務家と大学や研究所の研究者との交流や意見交換を実現することができ、今後の協力関係を構築するための足がかりができた。

出版
●Bossen, Laurel
2005 『イヌイット「極北の狩猟民」の現在』(中公新書)。
2006 Land and Population Controls in Rural China. 『国立民族学博物館研究報告』30(3): 421-449。
●樫永真佐夫
2005 『イヌイット「極北の狩猟民」の現在』(中公新書)。
2006 「ベトナムの黒タイ村落における固有文字の継承」『ことばと社会―多言語社会研究』9: 29-51。
●岸上伸啓
2005 『イヌイット「極北の狩猟民」の現在』(中公新書)。
2006 「都市イヌイットのコミュニティー形成運動」『文化人類学』70(4): 505-527。
●鈴木紀(責任編集)
2006 「特集 フィールドとしての開発援助」『民博通信』112: 2-17。
2004年度成果
研究実施状況
(1)国際ワークショップの開催
●国際開発援助ワークショップ「デンマーク、スウェーデン、日本の開発援助:開発における社会科学の役割を中心に」
代表:岸上伸啓 2004年11月6-7日
このワークショップにおいては、デンマークからデンマーク国際研究所・開発調査部のNeil Webster氏を、スウェーデンからはスウェーデン国際開発庁・調査協力部のTomas Kjellqvistを、国内からはアジア経済研究所の佐藤寛氏を招へいし、これらの3カ国における開発援助の方針、人類学・社会学が開発プロジェクトにおいて果たす役割、開発プロジェクトの評価のやり方について検討を加えた。
●国際ワークショップ「ジェノサイド後の社会の再編成 ― 中米グァテマラのケース ―」
代表:関 雄二 2004年11月27日
このワークショプでは、ワールド・ラーニング教育社会開発の専門家である上岡直子氏と東洋大学国際地域学部の久松佳彰氏を招へいし、ジェノサイドを経験したグァテマラを対象として、そこで実践されている開発プログラムを通して、ジェノサイド後の社会の再編成について検討を加えた。
●第2回国際開発援助ワークショップ「開発とジェンダー」
代表:岸上伸啓 2005年2月20日
このワークショプでは、ワールド・ラーニング教育社会開発の専門家である上岡直子氏と東洋大学国際地域学部の久松佳彰氏を招へいし、ジェノサイドを経験したグァテマラを対象として、そこで実践されている開発プログラムを通して、ジェノサイド後の社会の再編成について検討を加えた。
(2)国際開発機関の調査
2004年年11月28日から平成16年12月8日まで米国ワシントンにある世界銀行と米国開発庁およびカナダのオタワにあるカナダ開発庁において、岸上が各機関の開発援助の方針、開発プロジェクトの評価方法、開発プロジェクトにおける人類学者の役割、研究機関・大学との協力関係について資料収集およびインタビュー調査を実施した。
(3)開発援助の人類学的評価法に関する研究
鈴木紀客員助教授を研究代表とする共同研究会「開発援助の人類学的評価法」が2004年10月16・17日、11月6・7日、12月11日、2005年2月19・20日に開催され、開発人類学について検討がなされた。
(4)情報公開
民博のホームページを通して、ワークショップの報告原稿やプログラム・抄録集をできうる限り公開した。
研究成果概要

(1)デンマークやスウェーデン、日本における開発援助の方針、社会科学の利用の仕方、援助機関と研究所・大学との協力関係において差異が認められた。また、開発援助を効率よくかつ適正に進めていくためには、文化人類学や社会学の知見や方法を活用すべきであるが、3カ国とも研究者と政策決定者の間には大きな溝があることが認識できた。

(2)ジェノサイド後の中米グァテマラ社会の再編成過程における米国NGOによる二言語教育プログラムの実施状況を把握することができた。

(3)男女の人口比と不平等、開発との間にみられる関係について、争点や理論の流れを把握することができた。

(4)次年度以降に「開発援助の人類学的評価方法」を検討するための研究者間の意見交換やブレーンストーミング、問題点の整理が行われた。

(5)米国・カナダの開発援助機関においては開発援助の潮流がインフラ整備から社会開発へと力点が移行していることが判明した。したがって今後、開発援助機関において社会科学の知識や技法を活用する必要性が増大し、社会科学者が果たす役割がより重要になるとの見解を得た。

出版
●岸上伸啓
2004 「(資料と情報)開発援助と人類学:デンマークとスウェーデンの場合」『民博通信』106: 22-23.
●Kishigami, N.
2004 "Role of Social Sciences in Development Projects: International Workshop November 6-7, 2004" MINPAKU Anthropology Newsletter No.19: 14.