国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

研究会・シンポジウム・学会などのお知らせ

2006年1月8日(日) ~1月8日(日)
《機関研究成果公開》研究フォーラム「2004年インド洋地震津波災害被災地の現状と復興への課題 II」

 

趣旨

2004年12月26日に発生したスマトラ島沖巨大地震による津波は、インド洋沿岸のほぼ全域を襲い、甚大な被害を各地にもたらしました。国立民族学博物館は、2005年4月に研究フォーラム「インド洋地震津波災害被災地の現状と復興への課題」(代表:林勲男)を開催し、この災害で被災地となった社会や文化について、長年にわたって研究を行なってきた研究者による現地調査報告をもとに、現状を理解し、今後の復興における課題について話し合いました。

災害から1年が経過した今、被災地では防災の啓発・教育、災害警報システムの導入・整備など防災策を盛り込んだ復興が模索されています。今回のフォーラムでは、その後も被災地調査に携わっている研究者からの報告と、それに基づいて、被災地の復興とその支援をめぐる諸問題や将来の防災をも視野に入れて、地域専門家のかかわり方について改めて議論する場としたいと考えています。

報告者とコメンテーター

渋谷利雄(和光大学・人間関係学部)
深尾淳一(拓殖大学・政経学部)
鈴木佑記(上智大学大学院・外国学研究科)
牧紀男(京都大学・防災研究所)
山本直彦(滋賀県立大学・環境科学部)
西芳実(大東文化大学・国際関係学部)
山本博之(国立民族学博物館・地域研究企画交流センター)
高桑史子(首都大学東京・都市教養学部)
渡辺正幸(国際社会開発協力研究所)

事務局

林勲男(民族社会研究部)
TEL:06-6876-2151(代表) 内線8352 / E-mail

プログラム

2006年1月8日(日)
9:30 受付
9:50~10:00 趣旨説明
第1部:被災地の現状と今後の課題
10:00~10:40 澁谷利雄(和光大学人間関係学部)
 「スリランカ被災地の現状と今後の課題」
10:40~11:00 質疑応答
11:00~11:40 深尾淳一(拓殖大学政経学部)
 「インド被災地の現状と今後の課題 ─ 復興の現状と文化財の被災」
11:40~12:00 質疑応答
12:00~13:00 昼食
13:00~13:40 鈴木佑記(上智大学大学院外国学研究科)
 「インド洋地震津波と「海民」モーケン ─ タイ被災地の現状と今後の課題」
13:40~14:00 質疑応答
14:00~14:10 休憩
14:10~14:50 西 芳実(大東文化大学国際関係学部)・山本博之(民博地域研究企画交流センター)
 「インドネシア被災地の現状と今後の課題」
14:50~15:30 牧 紀男(京都大学防災研究所)
 「バンダ・アチェ市の復旧・復興プロセス」
山本直彦(滋賀県立大学環境科学部)
 「バンダ・アチェ市における復興段階への移行と住宅供給プロセス」
15:30~16:00 質疑応答
16:00~16:15 休憩
第2部:災害過程の研究と被災地支援
16:15~17:30 コメントと総合討論

実施報告

2006年1月8日(日)午前9時50分から午後6時まで第4セミナー室にて、35名の参加者を得て開催した。まず研究代表者が、災害状況と復興・防災に向けての課題について概要を説明した。次に、津波災害被災国としてスリランカ、インド、タイ、インドネシアを取り上げ、科研費「アジア・太平洋地域における自然災害に関する民族誌的研究」(研究代表:林勲男)、国立民族学博物館機関研究推進・開拓経費「災害対応プロセスに関する人類学的研究」研究代表:林勲男)、トヨタ財団研究助成「インドネシア・アチェ州の災害対応過程における情報の整理と発信に関する調査研究」(代表:山本博之)、その他の調査費による2005年4月以降の現地調査に基づく報告を7名の研究者が行ない、それに対して2名がコメントし、フロアーの参加者も含めた総合討論を行なった。

今回は、第1回研究フォーラムおよび上記の科研報告を踏まえ、その後の調査で得たデータの報告と、それに基づいて、被災地の復興とその支援をめぐる諸問題や、さらには将来の防災をも視野に入れ、人類学者や地域専門家のかかわり方についても改めて議論した。

被災地調査の報告では、国際機関や各国政府機関の復興支援活動に加えて、NGOの活動とその相互の連携が被災地共通の問題点として指摘された。具体的にはスリランカにおけるパンダナス植林によるグリーンベルト・プロジェクト、インドやインドネシアの恒久住宅建設、タイの海洋民生活再建支援などにおいて、それぞれの援助・支援組織の思惑が、被災地の復興や将来の防災、被災者の生活再建の推進の方向に必ずしも働いていない現実が示された。

被災地調査に携わった人類学者と防災開発プランナーからのコメントを皮切りとした総合討論では、今後は復興・生活再建およびそれらへの支援について、住民の視点をさらに詳細に調査していくことや、自然災害への脆弱性の社会背景の歴史的理解の必要性が、将来の防災の観点からも求められているとの認識を得た。

<文責:林勲男>
会場の様子
会場の様子
タイの海民の被災状況について報告する鈴木氏
タイの海民の被災状況について報告する鈴木氏
南インドの被害状況を報告する深尾氏
南インドの被害状況を報告する深尾氏
バンダ・アチェの状況を説明する西氏(左)と山本氏
バンダ・アチェの状況を説明する西氏(左)と山本氏