国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

災害対応プロセスに関する人類学的研究

研究期間:2004.4-2008.3 / 研究領域:文化人類学の社会的活用」 代表者 林勲男(民族社会研究部)

研究プロジェクト一覧

研究の目的

本研究の目的は、アジア・太平洋地域における自然災害への社会対応について研究することである。対象は、(a) 災害後の復旧・復興プロセスと、(b)将来の災害リスクの軽減化を図るプロセスの二つである。両プロセスは、自然災害に対して人びとがいかに向き合っているかを把握する重要な局面であり、政治・経済構造、社会組織、住民の価値観などを含めた総体的な民族誌的アプローチによって解明されると考える。

自然災害は、自然界より発せられる力、人間がつくり出した技術、そして社会や文化の複雑な関係性の中で発生するにもかかわらず、理工系研究者による物理現象の普遍的な法則の究明に主に関心が向けられ、個々の地域社会の持つ特性に配慮した、社会プロセスの研究がほとんどなされてこなかった。民族誌的アプローチにより、災害と人間生活の関係性を明らかにしてこそ、当該地域の防災・減災を考慮した地域の持続可能な発展を考えることが可能となりうる。

研究成果の概要

本研究プロジェクトが開始された2004年秋以降、新潟県中越地震災害やインド洋地震津波災害をはじめとする大規模自然災害が多く発生した。科研費や科振費等による現地調査に関わったメンバーは、その都度の国内外の報告会、公開シンポ、報告書等で研究成果公開を実施してきた。民博が主催したものを挙げると、公開講演会「震災10年が問うNGO・NPO-国際協力への提言―」(2004年10月8日、東京・日経ホール)、学術公開フォーラム「災害の記憶―災害エスノグラフィーからコミュニティの防災を考える―」(2005年3月23日、大阪・千里ライフサイエンスセンター)、一般公開シンポジウム「実践としての文化人類学―国際開発協力と防災への応用―」(2006年10月21日、大阪国際会議場)などがあり、インド洋地震津波災害に関するものとしては、公開研究フォーラム「インド洋地震津波災害被災地の現状と復興への課題」(2005年4月23日、2006年1月8日、2008年1月27日、いずれも民博)がある。

本研究プロジェクトは、機関研究「文化人類学の社会的活用」領域を構成するものであったが、政府機関やNGO等で働く被災地支援や防災開発の実務者ではなく、主に理工学をバックグラウンドとした防災学の研究者との共同研究を重視してきた。言うまでもなく多くの実務者からも現地調査や研究会、成果公開に参加協力を得てきたが、被災地支援や防災の分野で強い影響力を持つ防災学者との協力は、結果的には人類学や地域研究への認識を高め、フィールドワークやエスノグラフィーといった人類学的手法や「地域コミュニティ」の捉え方、被災地支援策の検討などにおいて、実務者からの理解を得る方向に進んだと考えている。

研究成果公表計画及び今後の展開等
  1. 明石書店より出版する『自然災害と復興支援』(実践人類学シリーズ9)は5月末に入校し、8月刊行の予定である。
  2. ホームページ「災害と社会・文化」<http://www.r.minpaku.ac.jp/isaki/disaster/>をすでに公開しているが、今後も掲載内容の更新をしていく。
  3. 今後の展開
    ハザードの理解やハード面での被害抑止策に関する研究は大きな進展を見せているのに対して、ハザードに対抗する、あるいはそれによる被害を受ける社会については、社会科学の研究蓄積が防災に十分に反映されているとは言えないのが現状である。たとえば現代社会は、価値観とそれに基づくライフスタイルの多様化、メディア・リテラシーの格差拡大、日常生活での移動空間の拡大、帰属意識の多様化・稀薄化など、国内外の防災を含めた開発分野で用いられている固定的で静態的な地域社会(コミュニティ)の概念ではもはや捉えきることのできない状況に人びとは暮らしている。これは先進諸国に限ったことではなく、開発途上国においても変化のスピードに緩急の差はあるものの同じ傾向を示しており、社会科学の諸領域でのこうした現実に関する研究成果を防災においても十分ふまえるべきであろう。
    本研究プロジェクトは2008年度で終了し、当面は科研費「規模災害被災地における環境変化と脆弱性克服に関する研究」(代表:林勲男、2008-2012年度)や他の調査資金による現地調査と、これまでの研究成果のとりまとめを行いながら、災害リスクの高い地域での防災や、被災地での生活再建のリソースへのアクセス状況を具体的にある程度踏まえた上で、ジェンダー、高齢者・障害者福祉、貧困対策などと防災プロジェクトとの関連について、社会的脆弱性もしくは社会的包摂の議論の枠組みでの検討を加え、機関研究もしくは他のプロジェクトサポートへの申請を検討したい。
2008年度成果
研究実施状況
  1. 科研費(基盤A)「大規模災害被災地における環境変化と脆弱性克服に関する研究」(研究代表:林勲男)により、インド西部地震災害(金谷)、中国・四川地震災害(田中聡)、インドネシア・アチェ州津波災害(齊藤、田中聡、牧)、インド津波被災地(杉本)、スリランカ津波被災地(高桑)、サンフランシスコ地震災害(林)、中越地震災害(林)の各被災地調査を実施した。
  2. 『自然災害と復興支援』(実践人類学シリーズ9、明石書店)の出版に関わる打ち合わせを、2008年6月29日に民博にて実施した。2月中旬にすべての原稿が提出され、編集作業に入った。
  3. 成果公開に関わる打ち合わせを、1月と2月に東京、4月・10月・2月に新潟県長岡市等で実施した。
研究成果概要

本機関研究を開始して間もない2004年12月、インド洋地震津波災害が発生した。被害の甚大さに加え、国連機関や各国政府、さらには国際NGOや一般企業等による人的・経済的・物資的な緊急支援や復興支援が、かつてない規模で被災地に提供された。しかし同時に、ニーズの把握や支援のコーディネーションなどの様々な問題が露呈した。これらの問題の詳細とその背景についての研究成果を刊行する意義は大きいと考え、本機関研究の一環として開催してきた研究フォーラム等に参加したメンバーによる、インドネシア・タイ・インド・スリランカの同災害被災地における復興支援に焦点をあてた出版をおこなうこととした。本年度はその出版に向けての打ち合わせと各自による執筆をおこなった。

公表実績
(1)出版
  1. 明石書店より出版予定の『自然災害と復興支援』(実践人類学シリーズ9)については、編者である林が論文間の調整、用語・表記の統一等の編集作業をおこなっている。
  2. 『すまいろん』2009年冬号の「特集=災害と住文化」に、牧と林が参加した2008年9月29日実施のシンポの様子、および西による論文「自然災害と地域の再建」が掲載された。
(2)公開シンポジウム等
  1. シンポジウム「災害は地域に何をもたらすのか」(2008年9月29日、住宅総合研究財団)にて林と牧が報告者およびパネリストとして参加。『すまいろん』2009年冬号に収録。
  2. セミナー「災害に立ち向かう地域/研究:生存基盤持続への寄与をめざして」(2008年7月11-12日、京都大学東南アジア研究所)にて西と山本博之が報告者として、林がコメンテータとして参加。
  3. 国際交流基金にて、アジア理解講座「災害に向き合うアジアの人々」(2009年1月より3月まで毎週1回合計10回)を開催し、林がコーディネータおよび講師、西、田中聡、深尾、金谷、高桑が講師を務める。他の4名の講師も含め、山川出版より出版の予定である。
(3)ホームページ
  1. 「災害と社会・文化」<http://www.r.minpaku.ac.jp/isaki/disaster/>を公開した。
2007年度成果
研究実施状況
科研費 基盤A「アジア・太平洋地域における自然災害への社会対応に関する民族誌的研究」(研究代表:林勲男)により、インドネシア・アチェ州津波災害(山本直彦)、ソロモン諸島地震津波災害(牧)、パプアニューギニア・アイタペ津波災害(林)、インド西部地震災害(金谷・三尾)、南インド津波災害(深尾)、タイ津波災害(柄谷)、スリランカ津波災害(渋谷)、フィリピン・マリキナ市の災害リスク管理状況(玉置)、アメリカ合衆国クレセント・シティの津波災害記録と防災の現状(林)、中越地震災害(林・寺田)に関する現地調査を実施し、これらの報告を民博の共同研究会と、研究成果公開プログラムによる研究フォーラム「2004年インド洋地震津波災害被災地復興の現状と課題」(2008年1月27日、於:国立民族学博物館)でおこなった。また、平成18年に実施した研究フォーラムの成果を『国立民族学博物館調査報告(SER)』73号として平成19年12月に刊行した。
●研究調査 2007年4月13-15日
新潟県中越地震被災地における復興活動および他の被災地への支援活動について、林勲男(民博)と寺田匡宏(歴博)が現地にて研究情報の収集と、成果公開に向けての打ち合わせを実施した。
●研究打ち合わせならびに研究集会 2007年5月15日
5月12日午前に、青田良介氏(ひょうご・まち・くらし研究所・客員研究員)、岩崎慎平氏(京都大学大学院・院生)ならびに古澤拓郎(東京大学国際連携本部・特任講師)を招聘し、機関研究プロジェクトに関わる打ち合わせをおこない、また、同日午後に開催の民博共同研究「災害に関する人類学的研究」(代表:林 勲男)の研究集会開催にも参加し、意見交換をおこなった。
●研究打ち合わせ 2007年9月29日
科研費を獲得し、現地調査を実施してきた機関研究中心メンバーによる打ち合わせを、9月29日におこなった。
●研究打ち合わせ 2007年9月29日
科研費を獲得し、現地調査を実施してきた機関研究中心メンバーによる打ち合わせを、9月29日におこなった。
●研究フォーラム 2008年1月27日
「2004年インド洋地震津波災害被災地復興の現状と課題」
研究成果概要

2004年12月発生のインド洋地震津波災害に関して2008年1月に開催した研究フォーラムでは、以下の点が共有された。発展途上国の被災地の場合、供給住宅が空き家のまま放置されたり、転売・賃貸にまわされたりするケースが少なくないが、被災者が定住地を決めるまでの動態を十分に把握せずに計画の立案・実施がなされ、後からの変更ができなかったためである。しかし、供給された住宅の転売や賃貸しは、被災者自身からすれば生存戦略の一つと見ることもできる。被災国では被災地に限らず、津波災害を主とした防災教育が活発化してきている。そのほとんどが、自然現象としての災害の発生メカニズムに関する知識の欠如・不足が防災の不備を生んでいたとの前提で、科学的知識の提供として防災教育がなされ、住宅や橋などの建造に当たって防災技術の供与が実施されている。しかし因果論と被災体験の説明とは異なるものであることの認識不足と、災害リスクの社会的・歴史的背景の解明がなおざりにされているとの感が否めない。自然災害に対するコミュニティ・レベルでの脆弱性や回復力について、社会科学からの研究がさらに求められていることと、災害への事後対応を含めた防災研究への社会科学者の参画が一層求められている。

公表実績

平成19年度は、編集本や論文、公開シンポジウム、学会報告などのかたちで成果報告がなされた。

(1)出版
*機関研究の成果として本年度は、『みんぱく実践人類学シリーズ』第3巻から第6巻までが出版された。
●林勲男編
2007 『国立民族学博物館研究フォーラム2004年インド洋地震津波災害被災地の現状と復興への課題』(国立民族学博物館調査報告73)。
●岩崎信彦・田中泰雄・林勲男・村井雅清編
2008 『災害と共に生きる文化と教育―<大震災>からの伝言(メッセージ)』、京都:昭和堂。
寺田匡宏と林の論文が掲載されている。
●Khairul Huda, Naohiko YAMAMOTO, Norio MAKI and Shuji FUNO
2007 Rehabilitation of the Urban Settlements in Early Reconstruction Stage after Tsunami :The Case Study of Banda Aceh Municipality in Indonesia,Journal of Asian Architecture and Building Engineering,vol.6 no.1, pp.103-110.
●柄谷友香
2007 Piyathamrongchai Chalida「インド洋津波による観光産業被害とその復興過程に関する研究―タイ南部の被災観光地を事例として―」,『地域安全学会論文集』No.9,pp.167-176.
●柄谷友香
2007 Piyathamrongchai Chalida「インド洋津波によるタイ南部観光地の復興過程に関する一考察―観光産業従事者へのインタビューを通じて」,『第6回日本地震工学会梗概集』,pp.406-408.
●高田峰夫
2007 "'Krishak Samaji', 'Krishak' O 'Akirishikajniti Shram': Bangladesher jibika-kathamor udhaharanabhittik rachona", in Sinkichi Taniguchi, Masahiko Togawa and Tetsuya Nakatani eds. Gram-Bangla: Itihasa, samaj o arthaniti, K.P. Baguchi and Co., Kalkata (Culcutta), pp.179-209.(ベンガル語)
●Miwa Kanetani
2007 Construction of Social Relationships through Clothes: Gender, Caste, and Inter-religious Relationships in Kach , India, Textile Society of America 10th Biennial Symposium 2006, (In Print).
●佐藤浩司
2007 「インドネシア・アチェ津波被災地レポート 生きるためのデザイン」『デザインがわかる』(トム・ソーヤー・ムックシリーズ2), ワールドフォトプレス, pp.30-31.
●深尾淳一
「災害と観光」『季刊民族学』120号
(2)公開シンポジウム等
笑福亭鶴笑+藤浩志+山本博之+佐藤浩司+永田宏和、防災寄席&パネルディスカッション「国際協力の新しいカタチ~アートがむすぶ防災と国際協力~」
2008年1月12日、於:HAT神戸+防災EXPO
研究フォーラム「2004年インド洋地震津波災害被災地復興の現状と課題」
2008年1月27日、於:国立民族学博物館
2006年度成果
研究実施状況

インドネシア・アチェ州津波災害(牧・山本直彦)、パプアニューギニア・アイタペ津波災害(林)、インド西部地震災害(金谷)、南インド津波災害(深尾)、タイ津波災害(柄谷)、スリランカ津波災害(渋谷)、イラン南東部地震災害(岡野)、インドネシア・ニアス島地震・津波災害(佐藤)、フィリピン・マリキナ市の災害リスク管理状況(田中・玉置)、中越地震災害(林)に関する現地調査を、科研費「アジア・太平洋地域における自然災害への社会対応に関する民族誌的研究」(研究代表:林勲男)により実施し、これらの報告を民博の共同研究会と、一般公開シンポジウム「実践としての文化人類学 ─ 国際開発協力と防災への応用 ─」(2006年10月21日)でおこなった。また、11月18日・19日には、災害の記録と記憶をテーマとした研究集会を和歌山県串本町で開催すると共に、地元行政の防災担当者の協力を得て、1946年の南海地震に関わる史跡や防災設備等を見学した。研究発表の要旨は民博ホームページで公開している。2007年1月7日には、インド洋地震津波災害被災地の復興と課題に関する3回目の研究集会を開催し、2年が経過した被災地の現状報告に基づく議論をおこなった。 報告要旨を民博ホームページに掲載している。新潟県中越地震被災地の復興過程に関しては、田中・牧・林が継続調査を実施した。

*PDFをクリックしてもうまく開かなかったり、文字化けする場合は、リンク箇所にカーソルをあてて右クリックし、パソコン内に保存してからご覧ください。

●研究集会 2007年1月7日(日)13:30~(第4演習室)
澁谷利雄(和光大学)「インド洋津波災害―スリランカにおける復興活動」acrobat
深尾淳一(映画専門大学院大学)「インド洋大津波被災地の復興と社会的文化的変容―インド被地の事例から」acrobat
牧紀男(京都大学)「インド洋大津波の復旧・復興プロセス-海岸部からの移住をめぐって」
山本直彦(滋賀県立大学)「1年半後(2006年8月)の住宅供給状況」acrobat

インド洋地震津波災害に関する研究集会は今回が3回目である。これまでは公開研究フォーラムとして実施してきたが、今回は非公開として、被災地の復興をめぐっての課題について、現状報告に基づき議論した。被災地で支援活動をするNGO職員、JICA職員、行政担当者からも積極的な発言があった。
住宅喪失者に対する住宅供給の現状については、長期的防災の観点からの土地利用計画を組み入れた復興計画が当初は検討されていたが、被災者のニーズに応えるとの緊急性を優先させたため、政府機関、NGO、国際機関等の供給競争の様相を呈し、供給数や質の格差を生じさせたり、政治の道具となったりしている現状が明らかとなった。また、被災コミュニティのリロケーション(集団移転)は、コミュニティ空間の均質化や、供給住宅の画一化など、住民生活への影響を今後も長期的に調査していくことの重要性が確認された。

●研究集会 2006年11月18-19日(和歌山県東牟婁郡串本町)
11月18日は、午後1時に会場である民宿「坂地」に集合し、3件の研究発表と討論を実施した。3件の発表は次のとおりである。
林能成(名古屋大学)「三河地震の記憶から防災へ」acrobat
蘇理剛志(総研大)「震災モニュメントの11年-阪神・淡路大震災の被災地から-」
寺田匡宏(歴博)「ミュージアムにおける「負の記憶」の表現と伝達について」acrobat

いずれも被災体験の記憶を如何に記録として残し、将来の防災・減災につなげうるかを探る具体的事例に基づく発表であり、討論も活発になされた。個々の発表に基づく討論の後、総合討論を行い、そこではミュージアム展示と防災教育が話題の一つとなった。展示という伝達手法では、災害体験の記憶の多面性・多層性が、防災目的の教訓という枠内ではかなりの部分がそぎ落とされてしまう現実と、記憶そのものを対象とする研究は必ずしも防災教育の目的達成には至らないことなどが議論された。
11月19日は、低気圧の影響のため朝から強風と雨であったが、9時に民宿「坂地」を出発し、中止となった串本町大水崎区の防災訓練の視察以外は、予定通りに実施した。
視察先は、串本町内の津波避難タワー、住民による海抜表示および昭和南海地震津波到達点表示、望楼の芝、トルコ軍間海難関連施設等である。
午後2時過ぎにJR串本駅にて解散した。

●会議への出席ならびに研究打ち合わせ 2006年6月2-5日
林勲男(民博・民族社会研究部)が、6月3日・4日開催の日本文化人類学会第40回研究大会でリスク・マネージメントをめぐる人類学的研究の成果発表をおこなった若手研究者と意見交換をおこなった。また、新潟県中越地震災害の復興映像エスノグラフィの可能性に関して、映像人類学の視点からこれまで優れたドキュメンタリー作品を手がけている野沢和之氏と意見交換をおこなった。
●研究打ち合わせ 2006年3月26-30日
林勲男(民博・民族社会研究部)が、来年に開催を計画している災害後の集団移転をテーマとした国際シンポジウムの打ち合わせのため、3月26日から3月30日までジャカルタ(インドネシア)へ出張し、現地の研究者ならびに日本大使館の草の根無償支援担当者と情報・意見交換をおこなった。
研究成果概要

今年度の研究活動を通じて明らかとなった課題として、自然災害被災地では、当初は長期的防災の観点から土地利用計画を組み入れた復興計画が検討されるが、多くの場合、被災者のニーズに応えるとの緊急性を優先させるため、インド洋津波災害被災地における住宅再建のように、政府機関、NGO、国際機関等の供給競争の様相を引き起こし、供給数や質の格差を生じさせたり、政治の道具となったりしている実情である。また、被災コミュニティのリロケーション(集団移転)は、コミュニティ空間の均質化や、供給住宅の画一化など、住民生活への影響を今後も長期的に調査していくことの重要性が確認された。

公表実績

平成19年度は、編集本や論文、公開シンポジウム、学会報告などのかたちで成果報告がなされた。

(1)出版
●Miwa Kanetani
Communities Fragmented in Reconstruction After the Gujarat Earthquake of 2001『南アジア研究』(Journal of the Japanese Association for South Asian Studies)18号(印刷中).
●Masasuke Takashima and Satoshi Tanaka
Rebuilding Brick Masonry Housing Following the Mid-Java Earthquake Disaster of May 27, 2006, Journal of Disaster Research, Vol. 1, No.3(印刷中).
●山本直彦、牧紀男
「バンダ・アチェ市(インドネシア)におけるスマトラ沖地震後の復興住宅の初期供給プロセス」、日本建築学会大会学術講演梗概集、F-1分冊、pp.1121-1122、2006.
●Khairul Huda, Naohiko YAMAMOTO, Norio MAKI, Shuji FUNO
Rehabilitation of the Urban Settlements in Early Reconstruction Stage after Tsunami -The Case Study of Banda Aceh Municipality in Indonesia-, Journal of Asian Architecture and Building Engineering(印刷中).
●澁谷利雄
「スリランカの津波災害と復興支援」『東西南北-和光大学総合文化研究所年報』(印刷中)
●深尾淳一
New discoveries after the tsunami at Mamallapuram, Tamilnadu、『インド考古研究』27号、インド考古研究会 2006 pp.114-115.
●深尾淳一
「災害と観光」『季刊民族学』120号、千里文化財団 2007年4月出版予定
(2)公開シンポジウム等

1.民博一般公開シンポジウム「実践としての文化人類学:国際開発協力と防災への応用」(10月21日、グランキューブ大阪)を開催し、本機関研究プロジェクトからは田中聡(富士常葉大)、渡辺正幸(国際社会開発協力研究所)、葉山アツコ(久留米大)、林勲男(民博)が報告者、司会者、パネリストとして参加した。

2.国連地域開発センター主催・国際防災シンポジウム「知っておこう、世界の防災文化、すまい・まちづくりの視点から」(1月18日、よりうり神戸ホール)にて、林が「和歌山県串本町におけるコミュニティ主体の防災」と題した講演をし、パネルディスカッションにてパネリストとして参加した。

3.深尾淳一がInternational Conference on Natural Hazards and Disasters: Local to Global Perspectivesにおいて、'Research on socio-cultural aspects of Indian Ocean tsunami: a viewpoint of Japanese scholars of human science'との題目で研究発表した。

2005年度成果
研究実施状況

インドネシア・アチェ州津波災害(牧・山本直彦)、パプアニューギニア・アイタペ津波災害(林)、インド西部地震災害(金谷・三尾)、パキスタン北部地震災害(子島)、南インド津波災害(深尾)、バングラデシュ洪水災害(高田)、フィリピン・マリキナ市の災害リスク管理状況(田中)に関する現地調査を、科研費「アジア・太平洋地域における自然災害への社会対応に関する民族誌的研究」(研究代表:林勲男)により、またインドネシア・バンダ・アチェ津波被災地復興調査(山本博之)を民博の「機関研究推進・開拓経費」により実施し、これらの報告を民博の共同研究会と研究フォーラムでおこなった。
12月に全共連ビル(東京都千代田区)を会場として開催されたMemorial Conference on the 2004 Giant Earthquake and Tsunami in the Indian Ocean (国内記者発表タイトル「2004年インド洋巨大地震・津波国際会議」)に池田・林が議論に参加した。新潟県中越地震被災地の復興過程に関しては、田中・牧・林が継続調査を実施した。

研究成果概要

2004年12月発生のインド洋地震津波災害に関しては、2回の研究フォーラムで以下の点が共有された。
第1回:インド洋沿岸部に来襲した津波の波高シミュレーションと、人口統計データの数値をイコノス等の衛星画像と組み合わせることにより、甚大な被害を現地からの報告を待たずして、ある程度の予測把握が可能ではある。しかし、好条件の漁場を求めて行われる季節的移動や、宗教的な巡礼といった大規模な人の移動に関する理解無くしては、予測と現実を大きく乖離させるだけである。さらには、海洋民や観光地の出稼ぎ労働者、後背地の農民への影響なども、今回の研究フォーラムで、はじめて明らかとされた点である。非常時の緊急調査も、日常の人々の暮らしの理解があってこそ、綿密で正確なデータの収集に結実するとの認識を新たにした。
第2回:国際機関や各国政府機関の復興支援活動に加え、NGOの活動とその相互の連携が被災地共通の課題として指摘された。具体的にはスリランカにおけるパンダナス植林によるグリーンベルト・プロジェクト、インドやインドネシアの恒久住宅建設、対の海洋民の生活再建支援などにおいて、援助・支援組織の思わくが、被災著の復興や将来の防災、被災者の生活再建の推進の方向に必ずしも働いていない現実が指摘された。

公表実績

平成19年度は、編集本や論文、公開シンポジウム、学会報告などのかたちで成果報告がなされた。

(1)出版
●田中聡、重川希志依、林春男、牧紀男
2005 「新潟県中越地震小千谷市支援のプロジェクトマネジメント-プロジェクトマネジメントの枠組みによる評価-」、『地域安全学会論文集』No.8、pp.113-122。
●鈴木三四郎、田中聡、堀江啓、牧紀男、水越薫、大森達也、藤澤秀樹、林春男
2005 「フィリピン・マリキナ市のNon-Engineered 住宅の動特性と実地振動による応答特性に関する一考察」『地域安全学会論文集』No.7、pp.1-8。
●林勲男編
2005.9 「特集 災害人類学を考える-災害と文化」『民博通信』110号、国立民族学博物館。
●林勲男
2006.1 「津波への市民防災最前線-過去に学び、現在を見据え、未来の防災の担い手を育む」『地域政策研究』33号、pp.75-82、地方自治研究機構。
(2)公開研究フォーラム
2004年12月末に発生したインド洋地震津波災害に関して、2回の公開研究フォーラム「インド洋地震津波災害被災地の現状と復興への課題」を開催した。
●研究フォーラム「インド洋地震津波災害被災地の現状と復興への課題」
代表:林勲男 2005年4月23日
第1回は4月23日に開催し、科研費補助金(特別研究推進費)「2004年12月スマトラ沖地震津波災害の全体像の解明」(研究代表者:京大防災研 河田惠昭)と科研費補助金「アジア・太平洋地域における自然災害への社会対応に関する民族誌的研究」(代表者:林勲男)による現地調査に基づく研究報告を中心とした。緊急対応と人道支援が主な論点となり、複数のNGOからの参加もあった。
河田科研の報告は、http://www.tsunami.civil.tohoku.ac.jp/sumatra2004/report.html
●研究フォーラム「2004年インド洋地震津波災害被災地の現状と復興への課題 II」
代表:林勲男 2006年1月8日
第2回は1月8日に開催した。1年間の経過の中で、特に被災地の復興過程に焦点を当てた研究報告会とした。現地調査は科研費補助金「アジア・太平洋地域における自然災害への社会対応に関する民族誌的研究」(代表者:林勲男)その他による。
●その他
2005年9月にインドネシア・ジャカルタにおいて開催された「地震・津波災害の軽減に関するAPEC-EqTAPセミナー」にて牧と林が研究発表をし、討論に参加した。
詳しくはhttp://eqtap.edm.bosai.go.jp/apec_eqtap/index.html
2004年度成果
研究実施状況

科研費「アジア・太平洋地域における自然災害への社会対応に関する民族誌的研究」(研究代表:林勲男)により、インドネシア・フローレス島津波災害(佐藤・牧)、パプアニューギニア・アイタペ津波災害(林)、トルコ・マルマラ地震災害(村上)、インド・グジャラート地震災害(金谷・三尾)、バングラデシュ洪水災害(高田)、フィリピン・マリキナ市の災害リスク管理状況に関する現地調査(田中・玉置)を実施し、その報告と検討を3月に開催した研究集会でおこなった。また、科学技術振興調整費「平成16年新潟県中越地震に関する緊急研究」(研究代表:防災科学技術研究所 笠原敬司)による地震災害調査を田中、牧、林の3名が実施した。さらに、科研費(特別研究促進費)「2004年12月スマトラ島沖地震津波災害の全体像の解明」(研究代表:京都大学防災研究所 河田恵昭)に牧と林が研究分担者として参加し、本プロジェクトの目的の一つである理工学系と人文・社会科学系研究者の連携研究を図った。
2005年1月に神戸で開催された国連防災世界会議のパブリックフォーラムプログラムに田中、牧、金谷、柄谷、林が参加した。

研究成果概要

個々のメンバーによる現地調査では、それぞれに新たな知見を得ることができた。科研費による調査研究は平成19年度まで継続するため、今後も多くの情報と新たな知見を得ることが期待できる。中越地震災害に関しては、国内の中山間地域が恒常的に抱える過疎化・高齢化問題が、被災によって顕在化し、今後の復興に向けても大きな課題となっている現状が明らかとなった。突発災害の緊急調査に、人文社会系と理工系の研究者が共に名を連ねたことは画期的なことであり、情報の共有化もある程度おこなわれたため、災害研究体制が僅かながらも前進したと考えるが、同時にいくつかの課題も明らかとなり、今後の検討が必要である。
災害救援や復興といった支援活動において、国際機関やNGOの存在は大きく、研究対象としての注目度もますます上がっている。そのことは国連防災世界会議ならびに関連プログラムで明らかである。今後の科研調査においても、現地ならびに国際的な機関やNGOの組織運営や活動に注目していく必要性の認識が、今年度末の報告会で共有された。

公表実績

1年目であり、プロジェクトとしてのまとまった出版物等はなく、個々のメンバーが学会誌等に寄稿したり、インターネット上での発信をおこなったりしている状況である。紙面の制約で、全てを列挙できないが、玉置による「「介入」・戦略・アイデンティティ:フィリピン南部タガログ 地域の都市少数民族アエタの事例から」(『インターカルチュラル』2号)、田中による「フィリピン・マリキナ市における枠組組積構造Non-Engineered住宅の耐震安全性に関する考察」(『地域安全学会論文集』6号)、牧による「ステークホルダー参画型地震防災総合計画策定手法の開発 -「マリキナ市地震防災総合計画・アクションプラン」策定の試み-」(『地域安全学会論文集』6号)、村上による「国民国家・家族・ジェンダー:日本とトルコの研究者たちの眼差し」(『アジ研ワールド・トレンド』107号、林による「社会がつくりだす災害、災害がつくりだす文化」(『民博通信』105号)などがある。
田中・牧・林が関わった新潟県中越地震被災地調査に関しては、「社会の災害対応」研究分科会の報告会(2005年3月22日、キャンパスプラザ京都)にて報告をし、科学技術振興機構に対して報告書を提出した。牧と林が関わったスマトラ島沖地震津波災害研究に関しては、京大防災研と協力してインターネット上に専用サイトを開設し、現地調査に必要と思われる情報と調査成果情報の発信を実施した。報告会は2005年3月25日に神戸・人と防災未来センターで実施し、報告書は現在とりまとめ中である。
また、民博公開講演会「震災10年が問うNGO・NPO-国際協力への提言-」(2004年10月8日、東京・日経ホール)と学術公開フォーラム「災害の記憶-災害エスノグラフィーからコミュニティの防災を考える-」(2005年3月23日、大阪・千里ライフサイエンスセンター)にて林が講演した。