国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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2006年11月23日(木) ~11月24日(金)
《機関研究成果公開》国際シンポジウム「ノルウェーの開発協力:ベルゲン大学、クリスチャン・マイケルセン研究所、NGO」

  • 日時:2006年11月23日(木)~11月24日(金)
  • 場所:第4セミナー室
  • 使用言語:英語

※このシンポジウムは、一般公開 をします。
問い合わせ先は、民博の岸上研究室(電話-6878-8255 もしくは E-mail)までお願いします。

 

趣旨

ノルウェーの社会人類学は、フィールドワークに基づく民族誌作成と人類学的な知見の社会への応用を特徴としている。ノルウェーのベルゲン大学社会人類学部やクリスチャン・マイケルセン研究所は、積極的にノルウェーの開発協力に参与してきた。さらに、多数のNGOが、ノルウェーの開発協力を実施する母体として活躍している。これらの開発協力では、人類学的な視点や知識が活用されている。

今回のシンポジウムでは、ノルウェーの開発協力活動に焦点をあわせ、ベルゲンにある大学や研究所が国際開発研究や開発協力活動をどのように推進してきたかについて、さらにノルウェー型と日本型の開発協力のそれぞれの特徴や長所、問題点について比較検討を加える。さらにスーダンにおけるベルゲン大学による開発協力の事例を検討する。文化人類学や社会学など人文・社会諸科学の社会的活用の可能性を探る点に本シンポジウムの意義がある。

プログラム[Programs and Abstracts]

11月23日(木)
10:30~10:40 「館長挨拶」 松園万亀雄(民博)
10:40~11:00 「趣旨説明・問題提起」  岸上伸啓(民博)
セッション1 大学・研究所と国際開発協力  座長 鈴木紀(千葉大)
11:00~11:40 「ベルゲン大学と国際開発協力」
 E. Hviding(ベルゲン大学・社会人類学部)
11:40~12:00 「コメントおよび質疑応答」
 コメント:小泉潤二(大阪大学)
12:00~13:10 昼食・博物館見学
13:10~13:50 「クリスチャン・マイケルセン研究所と国際開発協力」
 Alf M. Jerve (CMI)
13:50~14:10 「コメントおよび質疑応答」
 コメント:石川真由美(大阪大学)
14:10~14:30 休憩
セッション2 ノルウェーと日本の国際開発協力 座長 岸上伸啓(民博)
14:30~15:10 「日本の国際協力におけるODAとNGOの関係」
 報告者 佐藤寛(アジア経済研究所)
15:10~15:30 「質疑応答」
15:30~16:10 「日本のNGOによる国際開発協力」
 報告者 中田豊一(参加型開発研究所)
16:10~16:30 「コメントおよび質疑応答」
 コメント:向井一朗(国際協力機構)
16:30~17:00 「セッション1およびセッション22に関する質疑応答」
11月24日(金)
10:00~10:20 事務連絡
セッション3 大学による国際開発協力プロジェクト 司会 栗本英世(大阪大学)
10:20~11:00 「ベルゲン大学のスーダン・プロジェクト」
 Leif Manger(ベルゲン大学・社会人類学部)
11:00~11:20 「質疑応答」
11:20~12:00 「スーダンにおけるプロジェクト推進:サブシステンス生態系の研究による生活基盤回復」
 縄田浩志(鳥取大学)
12:00~12:20 「質疑応答」
12:20~13:30 昼食
セッション4 全体討論 座長 鈴木紀(千葉大学)
13:30~15:00 「全体討論」
 「全体討論用の問題提起」 鈴木紀
 コメント 高橋嘉行(国際協力機構・大阪国際センター)
 コメント 中田豊一(参加型開発研究所)
 コメント 南真木人(民博)
 コメント 丸山淳子(京都大学)
 コメント 岸上伸啓(民博)
自由討論

成果報告

ノルウェーの社会人類学教育は、フィールドワークを実施し、それをもとに民族誌を作成することおよび国外の諸社会のみならず、多文化化するノルウェー社会(自国)を研究対象としていることに特徴がある。また、国際協力の実践に社会人類学者として参加している研究者も多い。そして社会人類学者は国内の論争に新聞やテレビなどで参加し、社会的に高い評価を受けている。今回のシンポジウムでは、ノルウェーにおける大学や研究所、NGOと国際協力との関係に焦点をあわせて、日本のODAとNGOの事例を含めて検討を加えた。その結果は、次のとおりである。

  1. フレディリック・バルトが創設したベルゲン大学社会人類学部の調査と教育では、基礎的な人類学と応用的な実践人類学の両方が重んじられている。長期の現地調査に基づく基礎研究は、おおくの分野に応用できる点が強調されている。さらにグローバル現象とローカルな現象が絡み合う現代の複雑な現象を現地調査で把握、解明することができる点が人類学の長所と考えられている。
  2. F.バルトは、スーダンのハルツーム大学でユネスコによって客員教授として派遣されたことを契機として、ベルゲン大学とハルツーム大学の間で教育や調査の分野で協力関係が築き上げられてきた。多数のスーダン人がベルゲン大学で教育を受け、スーダンの国内外で活躍している。さらにベルゲン大学の社会人類学部や開発研究センターは、「サバンナ・プロジェクト」や「紅海地域プログラム」などを実施し、開発プロジェクトを実施してきた。このように社会人類学者は、発展途上国の学生の教育や現地の研究者の育成や彼らとの共同研究に貢献することができるし、実際の開発プロジェクトを実施することにも貢献できる事例が紹介された。
  3. クリスチャン・マイケルセン研究所のようなノルウェーの私立の研究所は、国内外の諸政府や国際機関からの補助金、調査費やコンサルタント料をおもな収入源として、開発研究を実施している。開発研究や国際協力のプロジェクトでは、人類学者は全体論的な視点をもち、学際的な諸分野の研究者を調整し、まとめる役割を果たしている点が紹介された。また、開発研究について質の高い調査を実施し、その成果を政治家や官僚、一般市民に理解可能な情報として普及させることの重要性が指摘された。
  4. ノルウェーでは、政府機関(外務省とノルウェー開発協力庁)、大学・研究所、NGOが協力しながら開発協力に取り組んでいる一方、日本では、三者がそれぞれ相対的に独立しており、協力しながら開発協力に取り組んでいるとは言いがたいことが判明した。とくに、日本の開発NGOは、現地においてきめ細やかな小規模な援助活動を展開しているが、大半の団体が運営資金を獲得するうえで困難に直面している。政府機関、大学・研究所、NGOという三者のアクターが、日本の国際協力について意見や情報を交換するアリーナの創設の重要性と必要性が確認された。
  5. ノルウェーの国際協力(援助)の背景には、キリスト教の教えに基づく慈善の思想が存在しており、国際協力の必要性も国民全員に理解されやすい。一方、貧者の救済は日本においても実施されてきたが、ノルウェーのような思想もしくは「援助文化」が存在していない点が佐藤寛によって指摘された。日本の国民が共有できる国際的な開発協力の理念や思想、実施方法を、検討し、あらたに構築する必要がある。援助文化の研究は、今後の課題である。
  6. 日本においては、文化人類学など文科系の知見や調査が国際協力に生かすことができ、実践するべきだという事例として、縄田のスーダン研究や大阪大学の新センター「GLOCOL」が紹介された。また、日本の青年海外協力隊のようなボランティアによる国際協力の実践の重要性も指摘された。
シンポジウムの様子 シンポジウムの様子
シンポジウムの様子 シンポジウムの様子
シンポジウムの様子