国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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2012年11月3日(土) ~11月4日(日)
国際シンポジウム「漢族社会におけるヒト、文化、空間の移動――人類学的アプローチ」

  • 日時:2012年11月3日(土)~11月4日(日)
  • 場所:国立民族学博物館 第4セミナー室
  • 言語:日本語、中国語(同時通訳)
  • 後援:日本文化人類学会
 

趣旨

 これまで漢族をめぐる人類学的研究は、中国における特定の漢族社会を研究する「中国漢族研究」と、非華人社会へ移民した漢族を研究する「華僑・華人研究」とに区分されてきた。しかし、グローバル化が進む現在、中国南部の漢族社会と東南アジア華僑社会は、相互に影響を与えつつ文化を構築しており、両者の間の文化の流動性を捉える視点が重要となってきている。申請者(田村)は、厦門大学・鄧暁華氏を本館客員教授として招聘し、この点につき共同で研究を進め、また、共同提案者(河合)も日本文化人類学会課題研究懇談会「文化のフロー」のセッションで館外研究者とともにこの研究を深めた。

 本シンポジウムでは、こうした主題の研究に取り組む日中の若手研究者を発表者として招聘することで、「中国漢族研究」と「華僑・華人研究」の枠を超えて、新たな研究の展開をめざすとともに、申請者がこれまでおこなってきた東アジアと東南アジアの社会や文化(宗教など)についての研究相互間の架橋をめざす。またシンポジウムの成果を、本館の中国展示新構築の華人文化の展示につなげていくとともに、機関研究と連動して、本館の漢族社会研究を深める効果が期待される。

プログラム

11月3日 (土)
座長:田村克己(国立民族学博物館教授)
10:30~12:00 館長挨拶 須藤健一(国立民族学博物館長)
趣旨説明 田村克己(国立民族学博物館教授)
基調講演 鄧暁華(中国・アモイ大学教授)
第1セッション <中国漢族と国際ネットワーク> 座長:芹澤知広(奈良大学教授)
13:00~13:40 兪雲平(アモイ大学准教授)
「移民のエスニック・アイデンティティと地域アイデンティティ――福建省松坪華僑農場を例に」
(中国語題目:移民的族群認同与地域認同――以福建松坪華僑農場為例)
13:40~14:20 河合洋尚(国立民族学博物館機関研究員)
「客家都市の建設――梅州市における華僑ネットワークと景観創造」
質疑応答
座長:韓敏(国立民族学博物館教授)
14:30~15:10 川口幸大(東北大学准教授)
「香港から国内都市部へ―珠江デルタにおける移動ベクトルの現在」
15:10~15:50 稲澤努(東北大学教育研究支援者)
「広東の一地方都市における『香港』の役割」
16:00~17:00 コメンテーター:志賀市子(茨城キリスト教大学)、飯島典子(広島県立大学准教授)
質疑応答
11月4日 (日)
第2セッション<東南アジア華僑における中国> 座長:韓敏(国立民族学博物館教授)
10:00~10:40 櫻田涼子(京都大学GCOE研究員)
「華字紙『星州日報』創刊時の東南アジア華僑と中国本土の関係」
10:40~11:20 陳碧(玉林師範大学准教授)
「現代中国廂団体と脱地域文化交流――シンガポール道教総会およびその廟会員の活動を例に」
(中国語題目:当代華人廂宇宗教団体与跨地域文化交流――新加坡道教総会及其宮廟会員活動為例)
11:30~12:10 呉雲霞(広東外語外貿大学講師)
「ベトナム北部における村落民俗の中国記憶」
(中国語題目:越南北部的郷村民俗展演的中国記憶)
12:10~13:10 コメンテーター:陳天璽(国立民族学博物館准教授)
質疑応答
14:10~16:40 総合討論 座長:田村克己(国立民族学博物館教授)
コメンテーター:末成道男(国立民族学博物館客員教授)
        芹澤知広(奈良大学教授)
16:40~16:50 閉会の挨拶 塚田誠之(国立民族学博物館教授)

お申し込み方法

(研究者のみ受け付けます。)
E-mailまたは往復ハガキにて「国際シンポジウム「漢族社会におけるヒト、文化、空間の移動――人類学的アプローチ」参加希望」と明記の上、
1.住所
2.氏名(ふりがな)
3.電話番号
4. 参加予定日(両日/1日目のみ/2日目のみ)
を記入し、下記までお申し込みください。
※お申し込みは前々日まで受け付ける予定ですが、定員に達した時点で締め切ります。
※携帯電話のメールによるお申し込みはご遠慮ください。

お申し込み・お問い合わせ先

〒565-8511 吹田市千里万博公園10-1
国立民族学博物館
E-mail:kawaihironao★idc.minpaku.ac.jp ※★を@に置き換えて送信ください。

研究成果の概要

本シンポジウムでは、田村克己による趣旨説明、鄧暁華による基調講演の後、7名の若手研究者による研究発表が展開された。具体的に、本シンポジウムは、二つのセッションに分け、1.華人社会の影響による中国漢族社会の動態的な変化、および、2.中国漢族社会の影響による東南アジア華人社会の動態的な変化について、それぞれ議論を展開した。
まず、1.については、兪雲平が、マレーシアから中国福建省へ戻った帰国移民の問題を扱い、帰国移民が中国に及ぼす影響について論じた。また、河合と稲澤は、たとえヒトの移動がなくても情報技術を通して、海外華人社会の影響を受けつつ中国漢族社会が構築されていることを示した。例えば、河合は、広東省梅州市における都市景観の建設を扱い、当該市における景観イメージが、むしろ台湾や東南アジア諸国の華人を引き寄せるためにつくられている点を指摘した。稲澤は、同じ広東省東部の汕尾市に着目するが、ここでは香港が先進的な文化として理想化とされており、西洋=文明=香港の図式より地元文化が刷新されているプロセスを論じた。それに対して、川口の研究する広東省中部の広州市では、ここが華南地方最大の都市であるにもかかわらず、ヒトや文化の流動性が比較的小さいことが指摘された。他方、2.については、櫻田が、戦前の華字新聞を扱うことで、今から100年近く前にはすでに、東南アジアの華人社会が中国を意識しながら自社会を位置づけていたことを明らかにした。また、陳碧は、シンガポールの廟活動を題材とし、その廟が「真正なる」文化をもつ中国漢族社会とのネットワークを重視して活動を行ってきたことを紹介した。そして、呉雲霞は、ベトナムの廟においても「中国らしさ」が意識されており、それに応じて儀礼のあり方が刷新されていることを論じた。
中国漢族社会と華僑華人社会の間のネットワークについては、これまで全く議論がなかったわけではなく、コメンテーターの芹澤、志賀らが先駆的な事例報告をなしていた。しかし、この問題について複数の人類学者が集まり、理論的・体系的に議論がなされたのは、おそらく日本においても中国においても今回が初のことである。総合討論で塚田が指摘していたように、今回のシンポジウムで集まった若手研究者が今後、中国漢族研究と華僑華人社会の枠組みを超えた、漢族社会をめぐる新たな研究組織を国際的につくっていく必要性が改めて確認された。