国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

東アジアの村落社会における「近代」の再考

研究期間:2008.4-2009.3 / 研究領域:新しい人類科学の創造 代表者 太田心平(先端人類科学研究部)

研究プロジェクト一覧

研究の目的

本研究の目的は、東アジアにとっての「近代」とはという課題を、再考的に解明していくことにある。
東アジアの「近代」が他地域と違っていた側面については、人類学の内外で、これまでにも多々の先行研究が蓄積されてきた。その結果、現在ではこれらを踏まえた次の段階の研究が必要となっている。それには、これまでの研究対象では手が回らなかった存在にも着目し、他地域・他分野の理論的蓄積との対話も進めつつ、東アジア人類学で定石とされてきた手法や分析を相対化することが求められる。
本研究は、先行研究の蓄積をその担い手たちと再検討し、かつ上記で述べた「次の段階の研究」を若手研究者の間で萌芽的に展開してみようというものである。

研究成果の概要

東アジアの「近代」に関する既存の研究は、マクロ(国家・制度)とミクロ(集団・生活)という二つの着眼点に極端に分かれ、その両者を媒介したエージェントやアクターに対する視座に欠けていたといえる。こうした問題意識にもとづき、半年間で二回の研究会と一回の国際ワークショップを行ない、地域社会の有力者がマクロとミクロの「近代」をいかに媒介したかという視座から日中韓の三カ国の「近代」を再考した。
成果は以下の点に集約できる。第一に、地域社会の有力者は集権国家における在来的な存在意義と、西欧的近代概念における「エリート」という両方の正統性を持ち、「近代」前後の2つのシステムでそれぞれに活躍できる二重のアクターであった。第二に、近代的制度にもとづく生活を地域社会で実践する模範像として周囲の人びとに受け止められ、そのことが直接的・間接的にマクロとミクロの二つの「近代」を媒介していた。つまり、マクロな改革をミクロなレベルに導入した主体というよりも、その存在自体がマクロとミクロの「近代」をつないだのである。こうしたエージェントの存在が、東アジア各国において社会システム全体が急速に移行した背景として無視できなおことが明らかとなった。

研究成果公表計画及び今後の展開等

半年間の研究成果を基礎として、二つの側面から今後の展開を計画している。第一に、研究会と国際ワークショップによって構築した基礎研究と人的資源をもちいて、今後も研究会および国際ワークショップを行なっていく計画である。これにより、「エリートネスとは何か」という課題をさらに解き明かしていく。この点では、本館の機関研究をはじめとする予算枠に申請する計画である。第二に、近代以降の東アジア諸地域の共通点および関係性を紐解こうという研究会と連動することを計画している。本機関研究で行なった研究会と国際ワークショップの参加者たちからは、すでにこうした課題に向きあおうという研究グループが派生している。この点に関しては、本館の共同研究に申請中である。

2008年度成果
■研究実施状況

平成20年11月23日および平成21年3月21日に研究集会を開き、その成果を平成21年3月22日の国際ワークショップで公開した。研究集会、国際ワークショップともに、招へい者以外にも多数のオブザーバー参加者を得て、活発な議論が展開された。

■研究成果概要

東アジアの「近代」に関する既存の研究は、マクロ(国家・制度)とミクロ(集団・生活)という二つの着眼点に極端に分かれ、その両者を媒介したエージェントやアクターに対する視座に欠けていたといえる。こうした問題意識にもとづき、地域社会の有力者がマクロとミクロの「近代」をいかに媒介したかという視座から日中韓の三カ国の「近代」を再考した。
成果は以下の点に集約できる。第一に、地域社会の有力者は集権国家における在来的な存在意義と、西欧的近代概念における「エリート」という両方の正統性を持ち、「近代」前後の2つのシステムでそれぞれに活躍できる二重のアクターであった。第二に、近代的制度にもとづく生活を地域社会で実践する模範像として周囲の人びとに受け止められ、そのことが直接的・間接的にマクロとミクロの二つの「近代」を媒介していた。つまり、マクロな改革をミクロなレベルに導入した主体というよりも、その存在自体がマクロとミクロの「近代」をつないだのである。こうしたエージェントの存在が、東アジア各国において社会システム全体が急速に移行した背景として無視できなおことが明らかとなった。

■公表実績