国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

世界における「白人」の構造化

共同研究 代表者 藤川隆男(客員)

研究プロジェクト一覧

2004年度

ポスト・モダニズムは二項対立的世界観を批判してきたが、黒人に対する白人、女性に対する男性のような二項対立のもう一方の極自体の研究がどれほどなされてきたであろうか。文明の標準、西洋の規範、未来の理想像とされた「白人」は歴史的に形成された特殊な存在として総合的な研究となることはなかったように思われる。この白人という存在の歴史的形成とその世界的展開、それが現在のグローバリズムと呼ばれる普遍主義的世界観にいかに影響を及ぼしているかについて研究を行いたいと考えている。合衆国の白人研究やヨーロッパのカルチュラル・スタディーズのような研究は、前者は合衆国にその対象が限定されているという欠点を持ち、後者については啓蒙主義や西洋的合理主義にすべての原因を見ることで、その実際の歴史的展開に無関心でありすぎるところに問題がある。このような問題を克服するのが本研究のねらいである。

【館内研究員】 松山利夫
【館外研究員】 荻野美穂、酒井一臣、杉本淑彦、関根政美、並河葉子、原田一美、日吉昭彦、細川道久、山田史郎
研究会
2004年9月26日(日)10:30~(第4セミナー室)
公開シンポジウム『白人性と帝国』
研究成果

藤川隆男(責任編集)「特集 白人と白人性」『民博通信』No105における成果報告および、平成16年9月のシンポジウム「白人性と帝国」の開催およびその成果報告の出版のほかに、以下のような問題を包括的に取り扱う書物の出版のための原稿のとりまとめを行った。集められた原稿が扱っているテーマは次のようなものである。

白人・白人性研究の広がり・意味、続いて白人性研究の領域では、白人労働者階級の形成、白人性と世界構造、白人性とジェンダー/セクシュアリティ、白人性と表象、白人の歴史的形成の問題については、フランスにおける白人種論、ナチズムとアーリア人種、カナダにおける白人形成、オーストラリアにおける白人形成、アメリカにおける白人形成、南アフリカにおける白人形成、白人性の構造については、オーストラリア先住民と白人性、日本人と白人性、白人性とミッショナリー、サモアの白人、アラブの見た西洋(十字軍をめぐる白人性)、白人性の20世紀を中心とする展開については、映像文化と白人性、多文化主義と白人性、白人性と性、白人性と戦争の記憶、白人性の境界(混血の問題)。

共同研究会に関連した公表実績

藤川隆男(責任編集)「特集 白人と白人性」『民博通信』No105, pp.1-17
藤川隆男(監修)「フォーラム 白人性と帝国」『パブリック・ヒストリー』第2号、2005, pp.105-126

2003年度

ポスト・モダニズムは二項対立的世界観を批判してきたが、黒人に対する白人、女性に対する男性のような二項対立のもう一方の極自体の研究がどれほどなされてきたであろうか。文明の標準、西洋の規範、未来の理想像とされた「白人」は歴史的に形成された特殊な存在として総合的な研究となることはなかったように思われる。この白人という存在の歴史的形成とその世界的展開、それが現在のグローバリズムと呼ばれる普遍主義的世界観にいかに影響を及ぼしているかについて研究を行いたいと考えている。合衆国の白人研究やヨーロッパのカルチュラル・スタディーズのような研究は、前者は合衆国にその対象が限定されているという欠点を持ち、後者については啓蒙主義や西洋的合理主義にすべての原因を見ることで、その実際の歴史的展開に無関心でありすぎるところに問題がある。このような問題を克服するのが本研究の重要な課題である。

【館内研究員】 松山利夫、森明子
【館外研究員】 荻野美穂、酒井一臣、杉本淑彦、関根政美、冨山一郎、並河葉子、原田一美、日吉昭彦、細川道久、村上雄一、山田史郎
研究会
2003年6月21日(土)13:30~(大演習室)
藤川隆男「白人と白人性・・・研究会の今後の方向を含めて」
荻野美穂「家族計画の政治学」
2003年6月22日(日)10:00~(大演習室)
酒井一臣「日本人はアーリア人種?─田口卯吉の『破黄禍論』を読む─」
原田一美「ナチズムと人種主義」
2003年9月28日(日)13:30~(大演習室)
関根政美「ホワイト・ネーション・オーストラリアの多文化主義」
松山利夫「キャプテン・クックとネッド・ケリー ─ ふたつの白人像」
2003年12月13日(土)14:00~ / 14日(日)10:00~(マルグリット・ブールジョワセンター)
「マルグリット・ブールジョワセンター施設見学と資料調査」
2004年2月22日(日)13:30~(大演習室)
粟屋利江「英領期のインドにおける白人女性をめぐって」
山本真鳥「植民地時代サモアの白人・混血・Nativeのカテゴリーをめぐって」
研究成果

今年度は4回、6日間にわたって研究会を開催し、マルグリット・ブールジョワセンター施設見学及び資料調査と、8人の研究成果発表を行った。また、12月の研究会では2004年6月刊行の民博通信の特集号の企画の検討を行い、2004年3月までにはその準備を終えた。私たちの研究会の様子については、その特集を見てもらいたい。2月の研究会では、粟屋利江・山本真鳥の二人のゲスト・スピーカーの参加を得て、研究会のメンバーではカバーできないインド及びオセアニアについての知見を広めた。

2002年度

現在の我々はエスニック研究の氾濫の中にいる。アメリカ黒人の研究、先住民の研究、アジア系のアメリカ人、イタリア系アメリカ人、アイルランド系オーストラリア人、東欧系、あらゆる系の研究、さらにはこれにイメージの研究が重なる。しかし、これらの研究は究極のところ、どこへ向かうのであろうか。ポスト・モダニズムは、2項対立的世界観を批判してきたが、女性に対立する男性、黒人に対する白人、先住民に対する白人入植者など、2項対立のもう一方の極自体の研究はどれほどなされてきたのであろうか。文明の標準、西洋の規範、未来の理想像とされた「白人」は、歴史的に形成された特殊な存在として総合的な研究の対象となることはなかったように思われる。この白人という存在の歴史的形成とその世界的展開、それが現在のグローバリズムと呼ばれる普遍主義的世界観にいかに影響を及ぼしているかについて、研究を行いたいと考えている。

合衆国ではすでに白人研究がかなりの程度の進展を見せている。ヨーロッパ系のエスニック・グループが「ホワイト・エスニック」として再編成される移民の白人化と呼ばれる過程の問題。また、グローバリズムの進展の中で、取り残されつつある白人労働者、農村部の白人の問題。これらの人々が抱く白人が差別されているという意識の問題。これらは白人研究の主要な関心になっている。他方、ヨーロッパのカルチュラル・スタディーズは、他者としてマークされた集団に対し、その差異化の根源となっている集団、白人への関心を、中産階級、ヘテロセクシュアリティ、マスキュリニティなどへの関心の延長として深めつつある。しかし、これらの研究には、前者については合衆国にその対象が限定されているという欠点があり、後者については啓豪主義や西洋的合理主義にすべての原因を見ることで、その実際の歴史的展開に無関心でありすぎるところに問題がある。このような問題を克服するのが本研究の重要な課題である。

【館内研究員】 松山利夫、森明子
【館外研究員】 荻野美穂、杉本淑彦、関根政美、冨山一郎、並河葉子、原田一美、細川道久、村上雄一、山田史郎
研究会
2002年6月29日(土)13:30~(第6セミナー室)
藤川隆男「世界における白人研究のパースペクティヴ」
山田史郎「ヨーロッパ系移民と米国白人の形成」
2002年9月29日(日)13:00~(大演習室)
細川道久「カナダにおけるホワイトネス/ブリティシュネス」
並河葉子「ブラック・ジェントルマンか、保護すべき子供たちか ─ 19世紀における黒人宣教師たちの立場」
2002年12月14日(土)13:00~(第1演習室)
松山利夫「アボリジナルがみる『白人』、あるいは『白人』の属性」
日吉昭彦「アメリカのメディアにおける人種表現」
2003年2月23日(日)13:00~(大演習室)
杉本淑彦「19世紀フランスの白人種論」
村上雄一「自豪主義と白人イメージの形成」
日吉昭彦「日本のテレビ広告における『白人』イメージとその構造化」
研究成果

今年度は、初年度であるので、藤川が基本的なアイデアを提示し、アメリカ、カナダ、オーストラリア、フランス、アフリカなどにおける、白人や白人性の歴史的形成の具体的な様相を知るための基本的な報告を行ってもらい、知識の共有を図った。また、オーストラリア先住民やアメリカのメディアと白人の問題についても理解を深めた。それに基づき、必要な新メンバーの人選を行い、次年度の準備を行っている。とくに成果を報告する段階ではない。