国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

韓国社会:グローバル化の中の諸局面

共同研究 代表者 朝倉敏夫

研究プロジェクト一覧

激動する朝鮮半島をめぐる政治・経済情勢の中で、90年代に入り、韓国社会はドラスティックに変化しており、文化的にもグローバル化が急速度に展開している。こうした状況の中で、アジアの他地域の状況も参考にしつつ、韓国社会が経験するさまざまな局面における変化を追求することにする。それには、中国・アメリカ合衆国・日本・中央アジアなど、600万人を越える海外に居住する韓国人がおり、グローバル化の中で、彼らの母国との関係やその果たす役割も視野に入れなければならない。また、本研究では、現在進行形で展開するさまざまな問題についての議論を通して、韓国社会の人類学的研究を行う上で、今後採りうる研究課題と研究方法の可能性を追求していく。

2005年度

【館内研究員】 岡田浩樹(客員)、福岡正太
【館外研究員】 板垣竜太、浮葉正親、川上新二、韓景旭、金惠信、嶋陸奥彦、島村恭則、鈴木文子、林史樹、秀村研二、洪賢秀、本田洋、李愛俐娥、渡邊欣雄
研究会
2005年4月23日(土)13:30~(大演習室)
岡田浩樹「在日コリアンにおけるエスニックアイデンティティと多文化共生政策の間の葛藤 ─ 阪神淡路大震災後のアジアタウン構想と長田マダンの事例を通して ─」
安成浩「1945-1948年における中国東北部の朝鮮人社会 ─ 帰国と定着のはざま ─」
全員「最終年度にあたって」
2005年6月25日(土)13:30~(大演習室)
全員「成果のとりまとめに関する打ち合わせ」
2005年9月17日(土)13:30~(大演習室)
全員「グローバル化と韓国研究」
2005年12月10日(土)13:30~(大演習室)
金良淑「日本で営まれる済州島巫俗儀礼の現在」
全員「成果刊行について」
2006年3月11日(土)13:30~(特別研究室)
山地久美子「韓国と日本の国際結婚・Braian Drain(頭脳流出)事情 ─ コリアン・アメリカンを中心に」
金容儀「京城帝国大学の七人の総長」
研究成果の概要

21世紀の今日、韓国社会は急速に変貌しつつある。加えて朝鮮半島という地理的空間を越え、コリアンはグローバル化しつつあり、海外に住むコリアンは韓国の総人口の15パーセントを越える勢いである。いまや韓国社会は、ローカルとグローバル、プレモダンとモダン、ポストモダンが入り交じり、混沌としているように見える。本研究会はそうした今日的状況をふまえ、従来の「韓国研究」の枠組みを広げ、韓国社会に対する多様で新しい人類学的アプローチの可能性を探ることを目的とした。これまでの韓国社会・文化をシステム(体系)や歴史的過程を中心に据えた研究から、海外のコリアンとの関係性、「もの」や「ものの流れ」、「産業」も視野に入れ、そのダイナミズムをいかに人類学が捉えうるか、そのために従来の人類学的韓国研究の何を括弧に入れ、解体せねばならないのか、という問いかけであった。共同研究会の中で明らかになってきたのは、「大韓民国」を包含するコリアン世界の多様性と変化であり、それは従来の「伝統社会」的視点では捉えがたい問題を提起するものであった。今日の韓国社会・コリアン世界の特徴は変化と拡散にあり、その背後にグローバル化の問題があると考える。

共同研究会に関連した公表実績

『民博通信』109号20-21頁に中間報告を掲載した。

2004年度

【館内研究員】 福岡正太
【館外研究員】 板垣竜太、浮葉正親、岡田浩樹、川上新二、金惠信、嶋陸奥彦、島村恭則、鈴木文子、林史樹、秀村研二、洪賢秀、本田洋、李愛俐娥、渡邊欣雄
研究会
2004年4月24日(土)13:30~(第6セミナー室)
全京秀「学問と帝国間の秋葉隆 ─ 京城帝国大学時代を中心に ─」
鈴木文子「島根からみた大陸 ─ 朝鮮植民地時代の人の移動と情報 ─」
2004年6月12日(土)13:00~ / 13日(日)9:30~(大演習室)
川上新二「韓国巫俗の守護霊と祖先」
Nancy Abelmann「イリノイ大学周辺町における韓国系教会」
小嶋茂「Japan Town から International Districtへ ─ シアトルの事例 ─」
2004年12月11日(土)13:30~(第6セミナー室)
本田洋「韓国南原地域における木器産業」
嶋睦奥彦「路上からみる”グローバル化”」
2005年3月5日(土)13:30~(大第演習室)
洪賢秀「海外のコリアンのイメージ」
金惠信「コリアン・ディアスポラのアート」
研究成果

2年間の共同研究会の中で明らかになってきたのは、「大韓民国」を包含するコリアン世界の多様性と変化であり、それは従来の「伝統社会」的視点では捉えがたい問題を提起するものであった。

現代に視座をおきつつも、歴史の中で捉えるべき「グローバル化」をテーマにするという混乱が、私の最初の問題提起にあったため、発表テーマが拡散してしまった感もなくはない。しかし、まさに今日の韓国社会・コリアン世界の特徴は変化と拡散にあり、その背後にグローバル化の問題がある。最終年度を前にして、本研究会から、従来の韓国研究を「脱構築」するような新たな視点や方法論が生み出されることを期待している。

2003年度

【館内研究員】 福岡正太
【館外研究員】 板垣竜太、浮葉正親、岡田浩樹、川上新二、韓景旭、嶋陸奥彦、島村恭則、鈴木文子、林史樹、秀村研二、洪賢秀、李愛俐娥(外来研究員)、渡邊欣雄
研究会
2003年5月10日(土)13:00~(第1演習室)
朝倉敏夫「研究計画の概要」
全員「問題提起と共同討議」
2003年7月12日(土)13:00~(第6セミナー室)
李愛俐娥「独立後のカザフスタンにおける高麗人 ─ 韓国社会との関係を中心に」
韓景旭「北朝鮮人による越境の背景とその方法 ─ ある脱北者の口述」
2003年9月27日(土)13:00~(第1会議室)
島村恭則「バラック・団地・トンポトンネ ─ 福岡・朝鮮半島系住民をめぐる民俗誌」
浮葉正親「名古屋のコリアン社会素描 ─ 在日コリアンと新来コリアンの接点を探る」
2003年12月13日(土)13:00~(第6セミナー室)
板垣竜太「植民地期朝鮮の地域社会と酒造業」
秀村研二「韓国における葬送儀礼の変化 ─ 火葬の急増を中心に」
2004年1月31日(土)13:00~(第6セミナー室)
朝倉敏夫「ワシントンD.C.の韓人(Koreans in America)」
林史樹「韓国社会のグローバル化にともなう韓国華僑の環境変化と意識変化」
2004年3月25日(木)13:00~(第3演習室)
「本研究テーマに関する文献リストの作成部会」
研究成果

本年度は共同研究の1年目にあたり、第1回の共同研究会において研究の趣旨説明と問題提起を行った。当初は韓国社会の現在的な現象としてグローバル化を捉えようとしたが、東アジアにおいては14世紀からグローバル化が始まっており、ことに韓国社会の場合、開化期および日本の植民地統治期において大きな変貌がみられており、より長いスパンでグローバル化を考察することにした。こうした議論をふまえて、第2回目からは4回にわたり8人による個別の研究報告と共同討議を行ない、第6回は本研究テーマに関する文献リストの作成部会をもち、作業の打ち合わせをした。