国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

客員研究員の紹介

ゴビンド・プラサード ダカールさん   テク・ナート ダカールさん

紹介者:出口正之(文化資源研究センター教授)
2 つのNGO 研究

気さくなふたりだ。笑顔が美しい。 ふたりとも奥さんとともどもの来日だ。テク・ナートさんは、小学校3 年生に編入されたお嬢さんも一緒。マンションの一室を借りて、2 家族で住んでいる。ただし、よく間違えられるようだが、ふたりは親戚ではなく、まったく他人だ。

テク・ナートさん

テク・ナートさんは、農村部に生まれ、ご自身も含めて2代続けての母子家庭で育っている。「父親が6カ月のときに祖父が亡くなり、私が生まれたときには、父はすでに鬼籍に入っていた」という。それから苦労してつかんだ高等教育への道。成功の秘訣は、ときくと、「誠実さと正直さ」だという。

お嬢さんは、吹田市立の東佐井寺小学校に通う。ネパール語はもちろん、英語も堪能だ。日本語はまだこれから。「彼女にとっては、この1年はリスク。」教育熱が激しくなったネパール帰国後のことは気になる様子だが、理科、算数、ネパール語、英語の本を持参しているという。「どうして家族を連れてきたのですか?」ときいてみたら、「家族もまた、わが人生の一部なり」と詩人のような言葉が返ってきた。

テク・ナートさんはフィンランドのテンペラ大学で博士号を取得した。同大学で最優等の成績を収めた。トリブヴァン大学行政管理学の助教授である。“NGOs in Livelihood Improvement: Nepalese Experience”という、暮らしの向上におけるNGOの役割についての書籍を出版した。研究実績も豊富である。

民博での研究テーマは「発展途上国のガバナンス向上におけるNGOパートナーシップ研究」である。途上国でより良いガバナンスを達成させるためには、NGO、民間組織、政府組織間で、どのような協力・連携関係を構築すべきか。20 世紀の最後の四半世紀はこの問題が世界中でクローズアップされてきた。現在、南アジアで約15 万団体のNGO が活動している。ネパールだけでも2 万5000 の国内NGO、100 の国際NGOが存在している。急激な団体の増加に比して、これらの団体の影響が、果たして伝統的な文化にプラスに働くのかマイナスに働くのか、どのような条件でそれが決まってくるのか、近代化を急ぐ政府との関係をどのように築いていけばよいのか、といった問題に、適切な解答を見いだすことが中心的な研究課題である。

ゴビンドさん

一方、ゴビンド・プラサードさんは、陽気で明るく、歌やダンス好き。ゴビンドさんは、14歳でご結婚。もちろん、夫妻としての政府への正式登録は1994 年、41歳になってからのことだ。ゴビンドさんも農村のご出身で、2、3人奥さんを持つ人や数回結婚する人も周りでは多かったという。14歳での結婚も珍しくはない。

ゴビンドさんは、おじさんがインドにいた関係で、インドの大学を卒業。修士の時には最優等の成績で、博士号もインドのデリー大学から取得している。6カ国語を操る。ゴビンドさんもトリブヴァン大学助教授で、日本での研究テーマは「日本における国際協力NGOの役割」で、地方政府とNGOのパートナーシップに関心が深い。日本の地方分権の推進がNGOにどのように影響を与えるのかにも、つねに注意を払っている。

ネパールにおいては1990 年の民主化以降も、さまざまな政治的な変動を通じて、国内の開発NGOに大きな影響を与えてきた。中央政府レベルでの地方分権政策によって、郡開発委員会(DDCs)が75、行政村(VDCs)が3914、行政都市が58 となった。ゴビンドさんは、こうした民主化のプロセスとネパール内のローカルガバナンスの文化的特質を研究してきた。1999 年の地方自治統治法(Local Self Governance Act)は、南アジア地域全体の地方自治の流れのなかで理解されるべき法律であるが、制度は、各国に同じように受け取られ、運用されるわけではなく、それぞれ独自の「文化」の中で「制度」が適用されていく。ネパール各地での地方分権の中で生まれた、NGOと地方政府の関係の研究で大きな成果を挙げてきた。

日本の印象を伺ったところ、おふたりとも、衛生面のよさ、人びとのやさしさ、テクノロジーのすごさを共通に挙げた。研究相手としてのおふたりの力量に大いに期待している。

ゴビンド・プラサード ダカール
  • ゴビンド・プラサード ダカール
  • Govind Prasad Dhakal
  • 2006年8月から国立民族学博物館外国人研究員(客員)助教授。
  • 研究テーマは、日本における国際協力NGOの役割。
 
テク・ナート ダカール
  • テク・ナート ダカール
  • Tek Nath Dhakal
  • トリブヴァン大学助教授。
  • 2006年8月から国立民族学博物館外国人研究員(客員)助教授。
  • 研究テーマは、発展途上国のガバナンス向上におけるNGOパートナーシップ研究。
『民博通信』第115号(p.28)より転載