国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

館長室だより

館長室だより
2019年01月04日

2019年年頭のあいさつ

皆さん、明けましておめでとうございます。

 

今年は、関西各地では初日の出も目にすることができて、皆さん、おだやかですがすがしい新年をお迎えになったことかと思います。年の初めにあたりまして、ご挨拶させていただきたいと思います。

 

昨年は、みんぱくでも、6月18日に発生した大阪府北部を震源とする地震により、展示場の設備の損傷をはじめ、研究室、図書室における蔵書の落下などの被害が発生し、臨時休館せざるを得なくなりました。また、その後も、台風21号による被害が建屋の各所で発生するなど、昨年は、災害に見舞われた1年であったかと思います。

 

多くの方々のご協力により、その後、復旧作業は順調に進み、8月23日(木)に本館展示場の一部の公開を再開し、9月13日(木)に本館展示を全面的に再開することができました。単に復旧、つまり旧に復するというだけでなく、被害を受けた設備の素材や設置の工法を見直し、みんぱくは以前より災害に強い体に生まれ変わってまいりました。この間の、皆様のご支援や温かい励ましのお言葉に対し、心より御礼を申し上げます。

 

今年、2019年は、みんぱくにとって、そうした災害からの復興初年ということになりますが、同時に、さまざまな面で、新たなステージに向けての再出発の年になると考えています。

 

新たなステージというと、まず、今年、年度の途中に元号が変わります。西暦でいえば、年が変わるといってもただ数字が次々に変わっていくだけですが、日本に住むわれわれの時間の記憶が、元号という枠組みの下に蓄積されてきているというのも事実です。明治という時代は、維新と、西洋に追いつけ追い越せという近代化の時代として記憶されているかと思います。大正という短い時代をはさんで、昭和は、その国の近代化が世界大戦という最悪の結果を生み、そしてそこからの復興の時代だったといえるかもしれません。平成に入り、日本は直接の戦争は経験しませんでしたが、国外では、世界大戦こそないものの、各地で局地的な紛争が多発し、国内では、大規模な災害がたて続けに発生しました。
来る時代に私たちは何を経験するのか、予断は許されませんが、災害は間違いなく来ます。その災害の記憶、あるいは災害前の記憶を蓄積し、継承していく場としての博物館の役割は、ますます重要になってきます。一方で、現今の世界を見回してみますと、戦後、世界が作り上げてきたシステムが揺らぎ始め、そのなかで、他者に対する不寛容や偏狭なナショナリズムが頭をもたげる局面が各所でみられるようになっています。それだけに、人びとが、異なる文化を尊重しつつ、言語や文化の違いを超えてともに生きる世界を築くことが、これまでになく求められています。今ほど、他者への共感と尊敬、そして寛容に基づき、自己と他者についての理解を深める文化人類学の知が求められている時代はないように思われます。その知の国際的な中核拠点としてのみんぱくに課せられた使命は、これまでになく大きくなっていると思います。教職員の皆さん一人一人が、その自覚をもって、今年もそれぞれの職務と向き合っていただくことを、まず初めにお願いしておきたいと思います。

 

以下、ここからは、研究活動、博物館活動、施設整備の3つの分野に分けて、新たなステージに向かうという2019年とそれ以後の計画について申し上げます。

 

まず、研究活動の面からですが、現在、国立の大学、大学共同利用機関が運営の目安としている第3期中期目標・中期計画期間が、今年3年を終え、後半の3年に入ることになります。次年度、2019年度の中間評価で、次の2022年度から始まる第4期中期目標・中期計画期間にむけての国としての対応も決定されると聞いています。
みんぱくでは、現在、館の中核的な研究活動として、特別研究「現代文明と人類の未来―環境・文化・人間」と「フォーラム型情報ミュージアム」というプロジェクトを進めています。
特別研究「現代文明と人類の未来―環境・文化・人間」は、環境、食、文化衝突、文化遺産、マイノリティ、人口問題といった、現代の人類が直面している文明史的課題をテーマに人類学的視座から再検証することを目的にした国際共同研究です。
一方、「フォーラム型情報ミュージアム」は、みんぱくの所蔵する標本資料や写真・動画などの映像音響資料の情報を、国内外の研究者や利用者ばかりでなく、それらの資料をもともと製作した地域の人びと、あるいはそれが写真なら、その写真が撮影された現地の人びとと共有し、そこから得られた知見を共にデータベースに加えて共有・活用し、新しい共同研究や、共同の展示、コミュニティ活動の実現につなげていこうというものです。
これらの活動も、第3期中期目標中期計画の中に記載したプロジェクトであり、今年は、その中間評価を受ける時期になります。ただ、こうした外部の中間評価を受けるという以前に、われわれにとって重要な事業であるだけにやはり、より積極的で実り豊かな展開にむけて、自ら点検・検証する作業は必要だろうと考えています。今年は、特別研究、「フォーラム型情報ミュージアム」ともに、その再点検と、それに基づく新たな展開を図る年になります。
折から、これまで文部科学省の科学技術・学術審議会の研究環境基盤部会で検討されてきた「大学共同利用機関のあり方について」の報告がまとまり、現在の4機構、つまり、われわれの所属する人間文化研究機構と、自然科学研究機構、高エネルギー加速器研究機構、情報・システム研究機構の4つの機構はそのまま維持すると同時に、これに総研大(総合研究大学院大学)を加えた連合体を新たに設けて、研究活動、そして管理業務の連携を図るという方針が示されました。ここでいう連合体が協議会のような緩やかなものになるのか、それとも、例えば社団法人のような組織になるのか、このあたりの具体的な仕組みを、第4期に向けて今年から来年にかけて整備していくことになります。
ただ、こうした中期目標・中期計画というのは6年が単位になっていますし、次期・第4期の大学共同利用機関の4機構・総研大の連合体という体制も、同じく4期の6年の間に評価をし、それによってまた新しいあり方を考えるとされています。したがって、国が定めるこの評価の枠組みに依拠しているだけでは、研究機関としての長期的な展望にもとづき、それにむけた展開を図っていくということはこれから先もできないと考えざるを得ません。
少し古い話をして恐縮ですが、今、すでにみんぱくのあり方のキーワードとして定着してきているフォーラムという概念―ダンカン・キャメロンという美術史家が1970年代に示した概念です―を私が初めてご紹介したのは、みんぱくの創設20周年記念シンポジウム「21世紀の民族学と博物館―異文化をいかに提示するか」の場でした。キャメロンが指摘したのは、ミュージアムには、フォーラムとテンプルという二つのあり方があるというものでした。テンプルとは、人びとがすでに価値の定まった至宝を拝みに来る神殿のような場所。一方、フォーラムとは、そこで人が出会い、議論を重ね、そこから新しい挑戦が生まれてくる場所。という意味です。94年のシンポジウムの折、私は、「これからのミュージアムには、フォーラムとしての役割がますます強く求められるだろう」と申し上げたのですが、その後、そのコンセプトはみんぱくの中でも定着し、世界中の博物館がそうしたフォーラムとしての性格を強く帯びるようになってきています。1994年というのは、私はまだ助教授のころ、今からちょうど25年前のことになります。 それを思い出したからというわけでもないのですが、先ほど申し上げた、政府の枠組みにとらわれずに、みんぱくの長期的な展望ヴィジョンを議論し、構想する作業を、特に若い准教授のみなさんに始めていただきたいと考えます。ただ、かつてのような長期構想特別検討委員会といった物々しい仕組みがいいのか、もっと柔軟な議論の場、それこそフォーラムのような場にするほうがいいのかは、これから皆さんでお考えいただければと思います。

 

次に、博物館活動について、申し上げます。 一昨年、新構築を終えた本館展示については、展示基本構想で定めた「不断の展示更新」という理念の下で、2019年度から、順次展示場のさらなる更新を進めていきます。とくに次年度には、パナソニックと共同開発を進めてきた、新しいビデオテーク・システムとそれに連動した次世代電子ガイドの導入が始まります。具体的には、携帯端末を利用して、展示場での展示案内機能と、特定のテーマに沿った展示誘導機能、さらには視覚障害をお持ちの方の誘導機能を備えた次世代電子ガイドを開発しました。この携帯端末には、展示場でどの展示物の解説情報を見たかが携帯端末に記録され、それに関連した番組や研究情報をビデオテーク・ブースで取り出せるようになります。また、これら、展示場と直結した情報提供とは別に、バーチャル・ミュージアム化した展示場の情報コンテンツを研究情報コンテンツと結びつけ、インターネットを通じて国際配信するとともに、ネット配信に制限のあるデータについては新たに開発した可搬型ビデオテークに組み込んで、展示とそれに連なる情報そのものを、展示場から離れた大学等で研究や教育に活用できるようにしていきます。
特別展については、3月21日からは笹原亮二教授を実行委員長として、特別展「子ども/おもちゃの博覧会」が開催されます。先年、大阪府から寄贈を受けた日本の子供玩具のコレクションをもとに、日本の近代における日本のおもちゃの変遷をたどることで、近代になって成立した「子供」という概念を改めて検証しようという試みです。
秋には、8月28日から、特別展「驚異と怪異―想像界の生きものたち」の開催が予定されています。実行委員長の山中由里子准教授が進めてきた、西洋と東洋における驚異の世界、怪異の世界に関する共同研究・各個研究の成果をもとに、人類の異界に対するイメージのありかたを見つめなおしてみようという展示です。この展示の開催期間中の9月1日から7日にかけては、ICOM(国際博物館会議)の京都大会が京都・宝が池の国際会館を主会場として開催され、9月5日には、みんぱくでそのオフサイト・ミーティングが開催されます。世界の博物館関係者に、改めてみんぱくを知っていただき貴重な機会になると思います。

 

さて、研究活動・博物館活動の区別なく、お願いしておかなければならない事業があります。創設50周年に向けた作業です。
一昨年、平成29年に迎えたみんぱくの開館40周年の記念事業が、間もなく刊行される開館40周年記念事業報告書の刊行をもって完結します。みんぱくが創設された、つまり設置法ができたのが1974年ですから、創設50周年は2024年、もう5年後に迫っています。
ついては、今年、早々に、創設50周年記念事業委員会をたちあげ、50周年に向けた事業を始めたいと考えています。過去50年のみんぱくの活動をふりかえり・検証し、次の50年、あるいは100年にむけての指針を見いだしておくことは、この組織にこの時期に身を置く私たちの責務だと考えます。
50周年の記念事業は、その記念事業推進委員会で議論していただくことになりますが、みんぱく50年史はぜひとも編纂する必要があると考えています。そのために、これまでに散在しているみんぱくのさまざまな記録を集約する必要もありますし、編集委員会の立ち上げも必要になります。
繰り返しになりますが、この創設50周年に向けたこれからの時期は、単に50周年を記念した催しを準備するというのでなく、次の50年、100年を見据えて、みんぱくの足腰を鍛えなおす、そうした重要な作業の時期だと認識しています。先ほども仕上げた、長期構想を検討する会の設置もその一部です。教職員のみなさんには、みんぱくの今後50年、100年の基盤をここでもう一度作るのという気概をもって、力を合わせていただきたいと思います。

 

最後に、施設の整備について申し上げます。
一昨年に引き続き、昨年も台風によって被害が発生するなど、みんぱくの建物の老朽化に伴う全面改修は喫緊の課題となっています。
できるところからは自己努力で進めていかざるを得ないと、まず講堂の改修から始めることとし、講堂の使用をすでに停止して改修の準備を始めたことは皆さんもご承知のとおりです。幸い、この講堂の天井部分の改修については、概算要求で認められ、来年度に工事ができることになりました。ただし、併せて要求している、ステージ、客席、音響設備等を全面的に改修し、講堂をみんぱく・インテリジェント・ホールに模様替えするという要求については、現在のところまだ採択の可否の通知が来ていません。いずれにせよ、工事の規模から2段構えの対応は必要ですので、天井部分については、次年度の前半に工事を終え、できれば、秋、遅くとも今年中には、いったん、講堂の使用を再開したいと考えています。講堂施設全体のインテリジェント・ホール化、そして本体全体の全面改修については、引き続きと交渉を続けていきます。この全面改修も、先ほど申し上げた、みんぱくの今後50年、100年の基盤を作り直す作業の一環だと認識しています。

 

新しいステージを迎えるみんぱくを皆さんとともに作っていきたいと考えています。皆さまのご支援・ご協力を心よりお願い申しあげます。

 

新しい年が皆さまにとりまして実り多い年でありますよう、お祈りしております。

 
 

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2019年01月04日 16:29 | 全般
みんぱくの国際交流の一端を館長室が紹介します
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