国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

館長室だより

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2017年11月08日

開館40周年記念式典式辞

皆さま、本日は、ご多忙の中、私ども国立民族学博物館、みんぱくの開館40周年記念式典にお運びいただきまして、誠に有り難うございます。

 

ご承知の通り、みんぱくは、世界最大級の博物館と、大学院教育の機能を備えた、文化人類学・民族学の研究所として、世界で唯一の存在です。おかげさまで、開館40周年を迎えることができました。これもひとえに、本日お集まりいただきました皆さまのご支援の賜と、心より御礼申し上げます。

 

みんぱくの研究者は、日々、世界各地でフィールドワークに従事し、人類の営みの多様性と共通性を明らかにするとともに、その具体的資料の収集に従事して参りました。この40年のあいだに収集された標本資料、つまりモノの資料は34万5000点を数えるようになっていますが、これは、20世紀後半以降に築かれた民族学関係の資料のコレクションとしては世界最大のものとなっています。また、みんぱくは、民族学に特化した博物館として、世界最大の民族学博物館となっております。

 

初代館長の梅棹忠夫、梅棹さんは、みんぱく創設の段階から「世界第1級の博物館」をめざすと宣言されていましたが、すでにみんぱくは、梅棹さんの目指した「世界第1級の博物館」としての実を備えるようになっているといっていいようです。

 

ただ、こうして、いわば蓄積の面、インプットの面では、たしかに世界一の機関になってきたわけですが、発信、アウトプットの面で世界一の存在感を示してきたかというと、必ずしも、そうとは言えないように思います。国内でも、まだまだみんぱくの存在を知っていただいていないところがあるように思いますし、私たちがすべての研究成果を欧文や現地語で公開しているわけではありません。今後、その世界に冠たる蓄積を世界に向けてこれまで以上に積極的に発信するととともに、日本の皆さまにはより身近に利用していただけるよう努力を重ねてまいりたいと考えております。

 

考えてみますと、人類の文明は、今、数百年来の大きな転換点を迎えているように思います。これまでの、中心とされてきた側が周縁と規定されてきた側を一方的にまなざし、支配するという力関係が変質し、従来、それぞれ中心、周縁とされてきた人間集団の間に、創造的なものも破壊的なものも含めて、双方向的な接触と交流・交錯が至る所で起こるようになってきています。それだけに、人びとが、異なる文化を尊重しつつ、言語や文化の違いを超えてともに生きる世界を築くことが、これまでになく求められてきているといわなければなりません。今ほど、他者への共感に基づき、自己と他者の文化についての理解を深める文化人類学の知が求められている時代はないように思われます。

 

みんぱくでは、こうした世界の変化を受けて、これまで10年の年月を費やし、本館展示の全面的な改修を進めてきました。その作業は、先ごろ、今年の3月で一応の完了をみましたが、本年4月からは、研究部の体制も全面的に改め、時代の要請に応じた新たな組織で研究活動を推進することにいたしました。研究部組織は、4研究部1センターから構成されますが、いずれも、国内外の大学や研究機関、さらには研究や資料収集の直接の対象となった社会の人びと、すなわちソース・コミュニティの人びとと連携し、国際的な協働のもとで研究活動を展開していくことになります。
新しく生まれ変わった本館の展示につきましても、本日から、その展示場全体を使い、開館40周年記念写真展「世界のフィールドから民博へ」と題して、40年前、先輩たちが開館に向けておこなった現地での収集作業や調査の様子を示す写真の展示をおこなっております。40年前の世界の人びとの生活を振り返るとともに、現在のみんぱくにつながる先人たちの足跡を改めて確認しようという展示です。是非ご覧いただきたいと思います。
みんぱくでは、現在、「フォーラム型情報ミュージアム」というプロジェクトを実施しておりますが、このプロジェクトが、私たちがこれから進めていこうとする研究活動のありかたを集約的に示していると思います。このプロジェクトは、みんぱくの所蔵する標本資料や写真・動画などの映像音響資料の情報を、国内外の研究者や利用者ばかりでなく、それらの資料をもともと製作した地域の人びと、あるいはそれが写真なら、その写真が撮影された現地の人びとと共有し、そこから得られた知見を共にデータベースに加えて共有し、新しい共同研究や、共同の展示、コミュニティ活動の実現につなげていこうというものです。それは、人と物、人と人がそこで出会い、そこから新たな議論や挑戦が始まっていくという「フォーラムとしてのミュージアム」のありかたを、展示のあり方だけでなく、博物館の資料情報の蓄積のあり方、さらには人類学の研究活動や、現地でのフィールドワークのあり方にも徹底させていくものといってよいかと思います。

 

とはいえ、フォーラムとしてのミュージアムは、研究者とソース・コミュニティの人びとの参加だけで実現できるものではありません。そこには、いうまでもないことですが、みんぱくを利用していただく皆さまの参加が不可欠になります。皆さまの、ご協力、ご支援を、心からお願い申し上げて、開館40周年のご挨拶とさせていただきます。 本日は、本当に有り難うございました。

 

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2017年11月08日 10:41 | 全般
みんぱくの国際交流の一端を館長室が紹介します
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