正倉院文書とは、奈良時代に関する豊富な情報を含む、東大寺正倉院に保管されてきた文書群で、主に東大寺写経所が作成した帳簿群をいう。正倉院は、聖武天皇・光明皇后ゆかりの品をはじめとする、天平時代を中心とした多数の美術工芸品を収蔵していた施設で、奈良県奈良市の東大寺大仏殿の北西にある高床の大規模な校倉造倉庫である。ユネスコの世界文化遺産にも登録されている。
写経所文書は、天平期を含む8世紀の神亀4年(727)から宝亀7年(776)までの約50年間にわたって作成された東大寺写経所の帳簿類である。正倉院文書には奈良時代の戸籍など当時の社会を知る貴重な史料が含まれることで知られているが、これは裏面が写経所文書に再利用されたため、結果的に保存されたものである。
律令制下で官庁が作成した文書や諸国からの報告書のほとんどは、短期間で廃棄されていたが、廃棄文書の一部は東大寺写経所で帳簿として再利用された。写経所文書が正倉院に納められ、保存されたことで、奈良時代の戸籍・正税帳などの貴重な史料が今日まで残ることとになった。