研究内容

研究の進捗状況

a.学際研究会は、文化人類学と歴史学・アーカイブズ学の交流を意図して官僚制文書主義をテーマとした。ここでの成果は以下の通りである。ⅰ業務効率性の追求という共通論点を見出した。ⅱ文書行政が担い手を通じて公証機能と関連し、それが紛争解決の場で顕著に現れることが明らかとなり、公証というテーマで国際シンポジウムを開く準備を始めるという波及効果を生んだ。また、文学・歴史学・アーカイブズ学との交流として書籍をテーマとした。ここではモノとしての形式の意味を探るという共通の関心が存在することが確認されたことが収穫である。
b.海外招聘研究会は、一つには直近の国際シンポジウムとの関連でテーマを設定し、残された論点を深めた(2011年)。もう一つにはこれからの国際シンポジウムの前提となる場合で、2010年のように国際シンポと一体のものである場合と、2012年のように2014年度シンポジウムの準備研究会となった場合とがあった。
c.に関しては、最初に契約文書を検討し(2010年)、ついで契約が破綻して紛争となった場合に機能する文書を検討した(2011,2012年)。そして契約も紛争解決も公証機能との関連で実現することから次には公証をテーマとすることが予定されている。このように一つの流れに沿ってシンポジウムを開催する展開になっているので、これで論文集『契約・紛争解決・公証』(仮題)の公刊が一つ実現しそうである。

研究計画の意義・目的に即した研究の実施

a.学際研究会、b.海外招聘研究会を国文学研究資料館でそれぞれ3回ずつ実施した。その際、その回のテーマに即した館蔵の歴史資料を共同で閲覧し、研究会での議論を深めた。テーマは以下の通り。4桁の数字は年度。
学際:2010「官僚制文書主義の比較研究」、2011「官僚制文書主義の比較2」、
2012「書籍のモノ情報と内容情報」。
招聘:2010「契約文書の比較―オスマンと近世日本」、2011「契約文書の近代化」、
2012「<私的な書き物>へのアプローチ」。
c.国際シンポジウムもこれまでに3回実施した。テーマと開催地は以下の通りである。
2010「東アジア近世契約文書の諸様相」(韓国学中央研究院)
2011「前近代社会における秩序維持の手段:紛争処理の文書」(アンカラ大学)
2012「近世東アジアにおける紛争解決と文書」(上海師範大学)

連携の効果(連携による新たな視座の開拓、高度化)

文化人類学におけるテクスト学の動きは想定していた以上に著しく、今までに得られた2本の報告はいずれも文献史学と見まごう内容であった。文献史学やアーカイブズ学が行うフィールドワークはいまだに個別的で経験的にしかすぎないことを考えると学問の方法として鍛え上げていく必要性が認識された。

研究体制

機関間の連携体制

3機関に研究メンバーを配置し、それぞれの専門の立場から「文書資料」研究にアプローチするとともに、それぞれの持つ人的ネットワークを生かして報告の依頼を行った。

機構外研究者の有機的参画

3機関には外国史研究者がいないため、世界各地域との比較研究を行うためそれぞれの専門家の参加を得、各地域の専門研究者との交渉や翻訳・通訳体制の構築など多大なご協力をいただいている。

基盤となる機関の研究との合理的相補関係

基盤機関には文学とアーカイブズ学の研究者がいるため、学際的研究の方では中心的な役割を担っている。また、館蔵資料を対象に他分野の研究者や海外の研究者と共同調査を行うことにより、相互理解を深めている。