国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

研究会・シンポジウム・学会などのお知らせ

2006年10月21日(土)
《機関研究成果公開》公開シンポジウム「実践としての文化人類学―国際開発協力と防災への応用―」

 

趣旨

国立民族学博物館の機関研究のひとつに「文化人類学の社会的活用」があります。そのプロジェクトとして、2004年度から「日本における応用人類学の展開のための基礎的研究」「災害対応プロセスに関する人類学的研究」が実施されてきました。このシンポジウムの目的は、プロジェクトの研究成果の一端を一般に公開することです。

このシンポジウムは、3部からなります。第1部では、開発援助と医療援助を事例とし、援助活動における文化人類学や社会学の役割について論じます。第2部では、地震や津波など災害の復興活動や予防・防災活動における文化人類学や社会学の役割について論じます。それらの事例報告をふまえて、国際的な開発協力や防災協力において文化人類学や社会学がどのように役に立つのかについて検討を加えます。

プログラム

1:00~1:10 開会挨拶 松園万亀雄 (民博)
第1部 開発援助と文化人類学・社会学
司会 岸上伸啓 (民博)
1:10~1:55 佐藤寛(アジア経済研究所)
 「開発援助:なぜ善意は善行を保証しないのか」
2:00~2:45 白川千尋(民博)
 「文化人類学は医療協力に必要か?」
2:45~3:00 休憩
第2部 防災と文化人類学・社会学
司会 岸上伸啓 (民博)
3:00~3:45 田中聡(富士常葉大学)
 「住宅の耐震問題とエスノグラフィー」
3:50~4:35 林勲男(民博)
 「災害人類学から防災へ」
4:35~4:50 休憩
第3部 総合討論
司会 渡辺正幸(国際社会開発協力研究所)
4:50~5:50 「総合討論」
パネリスト(50音順)
 佐藤寛(アジア経済研究所)
 白川千尋(民博)
 田中聡(富士常葉大学)
 林勲男(民博)
 葉山アツコ(久留米大学)

講演者・パネリスト

佐藤寛(アジア経済研究所 専任調査役)
援助研究=日本の開発援助プロジェクトを世界各地にお邪魔して、それぞれの社会でプロジェクトがどのように受け止められているのか、援助する側とされる側の間にどのような思惑の「ズレ」があるのかを研究している。国際開発学会常任理事、民博客員教授。

白川千尋(国立民族学博物館 助教授)
青年海外協力隊員として南太平洋のヴァヌアツで活動したことを機に、当地の人々の伝統文化などに関する文化人類学的研究に携わる。そのかたわら、JICAやWHOの専門家としてサモア、フィジー、ミャンマーで感染症の対策プロジェクトにもかかわってきた。日本文化人類学会員。

田中聡(富士常葉大学 助教授)
阪神・淡路大震災、新潟県中越地震などにおける災害対応について、エスノグラフィーの手法を適用した研究を実施。また、同様の手法でフィリピンの住宅の耐震問題についてフィールドワーク行っている。地域安全学会理事。NPO・防災デザイン研究会幹事。

林勲男(国立民族学博物館 助教授)
日本やオセアニアにおいて、自然災害被災者の生活再建や、巨大災害が予測されている地域の防災活動などを調査し、災害と社会・文化の関係について研究している。 NPO・防災デザイン研究会理事。京都大学防災研究所客員助教授。日本学術会議特任連携会員。

渡辺正幸(有限会社 国際社会開発協力研究所 代表取締役社長)
第2次世界大戦敗北による絶対弱者の立場を中国北部で経験。建設省・インドネシア公共事業省・国連・JICAで防災・災害復旧・防災力増大プロジェクトに工学技術の立場で従事。工学が全てではないことに開眼して社会学・人類学的手法を勉強中。民博共同研究員。

葉山アツコ(久留米大学 助教授)
熱帯林消失が環境問題と指摘され始めてから、自分の目と足で現場を知りたいと思ったことが東南アジアの森林問題に関わるきっかけ。フィリピンの禿げ山で、炎天下、黙々と畑を耕す人々の姿に接して以来、彼らの考え方、生活を理解したいとの思いから同国に通うようになる。

成果報告

(1)佐藤氏は、開発援助は異文化間での非対称的な関係に基づく資源移転である点を強調し、なぜ弱者を救おうとする善意が現地では善意にならないかを説明した。

(2)白川氏は、医療協力の難しさを成功例の天然痘対策と成功例とはいえないマラリア対策の事例で紹介し、文化人類学にはプロジェクトのハンドル役とブレーキ役の二つがあることを強調した。

(3)田中氏は、工学者・建築家の立場からフィリピンの地震災害に関連する建築物の作られた方や強度について実地における実験をもとに紹介し、防災における情報伝達の重要性を指摘したうえで、防災学からの文化人類学への期待を紹介した。

(4)林氏は、災害研究が災害別アプローチから災害過程アプローチへと変化したこと、災害記録のデータベース作り、展示などを通して災害の記録を伝え、防災を啓発する重要性、過疎化・高齢化が生み出す社会の脆弱性の問題、リスクとは何か、日本における被災・復興体験をほかの地域にいかに伝えていくかなどについて講演した。

(5)全体討論では、開発援助や防災などにおける文化人類学・社会学の重要性や必要性が検討された。結論としては、条件付ではあったが、開発援助や防災などにおける文化人類学や社会学の重要性が認識され、参加者のあいだで共有された。

松園万亀雄 佐藤寛
白川千尋 田中聡
林 勲男 岸上伸啓
シンポジウムの様子 シンポジウムの様子
シンポジウムの様子