みんぱくのオタカラ
- 腕輪、首飾り 2005年8月17日刊行
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飯田卓
このふたつの展示品は、文化人類学の研究機関である民博にとって、誇るべきオタカラである。近代人類学を創始したマリノフスキー(『西太平洋の遠洋航海者』)と、フランス民族学の発展に尽くしたモース(『贈与論』)は、これらの品をめぐる「クラ(クラ交易)」を論じ、人類学に重要な貢献をはたした。
クラは、ニューギニア島に近いトロブリアンド諸島でおこなわれてきた活動である。島民たちは、隣島から「宝物」を受け取ると、しばらく手元においた後、反対側の隣島にこれを贈る。受け取った相手は、同じようにして反対側の隣島にこれを贈与する。「宝物」が一巡してもとの島に戻ってからも、同じことがくりかえされて、「宝物」は島々を循環し続ける。こうした循環的な贈与の連鎖がクラである。
クラのときに贈られる「宝物」には、反時計回りに島々を循環する腕輪(ムワリ)と、時計回りに循環する首飾り(ソウラヴァ)がある。民博にあるイモガイの腕輪は、使われなくなったムワリを譲り受けたものである。首飾りのほうは、実をいうと、クラに用いられたかどうか定かでない。これは、イギリスの宣教師ジョージ・ブラウン(1835-1908)が収集したコレクションに含まれていたもので、収集されたときの状況が不明である。しかし、外見から判断して、この首飾りがクラに用いられていた可能性は高い。
飯田卓(民族文化研究部)
◆今月の「オタカラ」
【貝の腕輪】標本番号:H124257 / 標本名:腕輪
【首飾り】標本番号:H138878 / 標本名:首飾り1.貝の腕輪
腕をとおす部分。イモガイ科の一種。マリノフスキーは、
Conus millepunctatusを用いると書いている。
タカラガイ科の一種。ウミウサギ(Ovula ovum)か。
フネガイ科の一種。
リュウキュウサルボウ(Anadara antiquata)か。2.首飾り
マリノフスキーは、首飾りのこの部分が
Spondylus(ウミギク科ウミギク属)の
赤い種類から作られると書いている。
この部分もウミギクの円盤か。
クロチョウガイ(ウグイスガイ科)。
タカラガイ科の一種。◆関連ページ
企画展「みんぱく水族館」(2005年7月21日~9月20日)
企画展「南太平洋の文化遺産:ジョージ・ブラウン・コレクション」(1999年3月11日~5月31日)
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