国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱくのオタカラ

裁縫図絵馬  2007年2月15日刊行
佐々木利和

みなさんに民博の美女たちを紹介しましょう。といっても諸般の事情から生身のそれというわけにはいきません。残念ですが。

でも、彼女たちには誰でもが会うことができるのです。決して会いたくないなどとはいいませんので、どうぞ、積極的におたずねください。件の美女たちは日本展示の一室。天井高く控えています。縁側のある座敷で、美女たちがおこなっているのは裁縫のお稽古でしょうか。瓜実顔で、美しい着物をまとった美女たちは浮世絵風に描かれています。どうも浮世絵師が筆を執った肉筆画のように見受けられます。

この絵は絵馬に仕立てられています。「奉納 文政十三年六月九日」の年紀があり、奉納者の名前として「当村 のぶ、よし、け□、きよ、いの、ゑき」があがっています。「当村」とはどこかはわかりませんが、奉納した若い女性たちが裁縫が上手になるようにとの願をかけたものでしょう。

浮世絵師が絵馬を描いた例はほかにも存在します。この絵馬は比較的大きな絵馬で、描かれた文政十三(1830)年は天保元年と改元されています。さほど古いという作品ではありませんが、達者な画技を見ることができます。背景はともかく、美女たちの姿の保存もよく、たぶん、民博にある日本の美人画では白眉なのかもしれません。展示中なので寸法も含め十分な調査はできていませんが、大切にしたい作品ですね。ただ、開館以来天井近く控えているのですから、そろそろ休息をとらしてやりたいなと思うのは、その美貌にまどわされたからでしょうか。

佐々木利和(先端人類科学研究部教授)

◆今月の「オタカラ」
標本番号:H21760 / 標本名:裁縫図絵馬

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