巻頭コラム
- World Watching from the Andes 2009年11月18日刊行
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関雄二
● 黄金発見騒動記
南米アンデス山中にあるパコパンパという遺跡で、2800年も前の黄金の墓を見つけた。日本の新聞でも一面トップになり、NHKニュースでも報道され、現地ペルーのマスコミも大変な騒ぎである。アメリカ大陸最古級の金製品であり、大神殿の中心的な建物から出土したので、世界的発見といってもさしつかえはない。だからこそ、さぞかし、嬉しかったのではないかと、よく聞かれるが、じつは、うれしさ以上に悩みの方が大きい。
まずは、盗難の危険。プロの盗掘者は武器も持ち、虎視眈々とねらってくるであろうし、調査後の遺跡の保護手段を確保する必要がある。次に、金の保管である。現地の文化財保護法は、出土品は文化庁に収めよと簡単に定めている。しかし、ひとたび納入すると、分析とはいえ引き出すことがやっかいになる。来年も分析を続けるための手段を考案し、文化庁と交渉する必要がある。
しかしそれ以上にやっかいなのは、金の発見で盛り上がっている地元住民をどのように説得するかである。博物館も何もない村ながら、金を保管したいという。それから、遺跡を保護するために守衛を置くなどしてきた、調査のカウンターパート、国立サン・マルコス大学も無視できない。なにせ、発見したとたん、学長から直接電話があり、金を自分のもとに持ってこいと指示してきたくらいである。
結局、地域住民や大学には、文化財保護法を遵守しなければ、わたし自身が調査を継続できず、村に何の貢献もできなくなってしまうこと、さらに将来、地元で金を保管するため、博物館建設を推進していくことで納得してもらった。大学は遺跡管理も充実させると約束してくれた。文化庁も一時保管手続きで了承してくれ、すべて望んだ結果となった。簡単そうに見えるが、30年もの間、遺跡だけでなく相手の社会と膝をつき合わせながら信頼関係を築きあげてきたからできたと自負している。でも、これからが大変だ。
関雄二(研究戦略センター教授)
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